
「風」は日本語に150種以上の呼び名があるほど、私たちの生活に深く根ざした自然現象です。日本は季節風帯に位置し、四季を通じてさまざまな特徴の風が吹きます。春には「花嵐」、夏には「薫風」、冬には「木枯し」など、季節ごとに風情豊かな名前が付けられてきました。地域によっても独自の呼び名があり、風の多様な表情を知ることで日本語の豊かさが見えてきます。本記事では、方角・季節・地域別に150種以上の風の名前と意味を一覧でご紹介します。
風の種類
方角・場所・強さによる風
家風(いえかぜ)
我が家の方からの風。
北風
北から吹いてくる冷たい風。
南風
みなみ風。「はえ」とも。
西風
にしかぜ。また、寂しい秋の風。
東風
ひがし風。「こち」とも。
恒風
常に同じ方向に吹く風。
卓越風
いつも吹きやすい風。常風。
都市風
都市に特有の風。
海風
海上の風。海岸地方で、日中、海から陸に向かって吹く穏やかな風。
浦風
浦や海辺を吹く風。「浜風」とも。
浦山風
海辺にある山に吹く風。
川風
川の上を吹き渡る風。川から吹いてくる風。
河原風
河原の風。
地嵐
山から海へ吹き降ろす風。
潮追風
潮の干満に合せ、同じ方向に吹く風。
潮風
海から吹く塩けを含んだ風。塩風。
荻風
荻に吹く風。
松風
松に吹く風。松籟。松韻。
木の下風
木の下を吹き渡る風。
沖つ風
沖を吹く風。また、沖から吹いてくる風。
八重の潮風
はるか遠くの海から吹いてくる風。
時つ風
ほどよいころに吹く風。時節にかなった風。また、潮の満ちる時刻になると吹く風。
隙間風
壁や障子などのすきまから吹き込む風。
関風
関所を吹く風。
初瀬風
大和の初瀬の辺りを吹く風。
飄風
急に激しく起る風。
晴嵐
晴れた日に山にかかるかすみ。晴れた日に吹く山風。
上風(うわかぜ)
草木、特に萩の上を吹き渡る風。
下風
地面近くを吹く風。
煙嵐
山中にかかったもや。「山靄(さんあい)・嵐気」とも。
雄風
勢いがありすがすがしい風。
順風
自分の進む方向、特に、船の進む方向に吹く風。「追い風・帆風」とも。
追い風
後ろから吹いてくる風。また、着物にたきしめた香のかおりなどを運び漂わせる風。
逆風
進行方向から吹いてくる風。「向かい風」とも。
熱風
熱い風。
野風
野原を吹く風。
好風
快い風。
清風
さわやかな風。すがすがしい風。
軽風
そよ風。
至軽風
軟風より軽い風。
小風
そよ風。
強風
強い風。
疾風
速く激しく吹く風。「はやて」とも。
辻風
旋風。つむじかぜ。
竜巻
大気の下層に起こる巨大な漏斗状・柱状の激しい渦巻。
陣風
疾風。
勁風
強風。
天狗風
急に吹き降ろす旋風。
狂風
激しく吹きまくる風。
大風
強く激しく吹く風。
暴風
非常に強力な風。「あかしま風・あからしま風」とも。
嵐
暴風のこと。
悪風
暴風。毒気を含む風。くさい風や息にも言う。
煽風(あおちかぜ)
物がばたばたして起こる風。
砂嵐
砂漠で発生する、砂が激しく吹きつける嵐。
風巻(しまき)
激しく吹く風。雨・雪などを交えて激しく吹く風。
黒風
砂塵を巻き上げ、空を暗くするようなつむじ風。
台風
夏から秋にかけて発生する熱帯低気圧が発達した強風。日本には年間25個前後が発生し、そのうち約11個が上陸または接近する(気象庁統計より)。
颶風(ぐふう)
台風。漢語由来の表現。
雨台風
雨が強く降る台風。
風台風
雨の少ない強い台風。
韋駄天台風(いだてんたいふう)
速い速度で進む台風。
嵐の風
山から吹き下ろす強い風。
貿易風
赤道付近の南北から赤道へ向かって吹く風。昔、貿易帆船が利用した。「恒信風」とも。
時間帯による風
朝嵐
朝吹く強い風。
晨風(しんぷう)
早朝の風。朝風。
朝風
朝吹く風。日の出後、陸から海へ、また、山から谷へ吹く風。
朝戸風
朝、戸を開けたときに吹き込む風。
暁風(げつふう)
明け方の風。
夕嵐
夕方に吹く強風。
夕風
夕方の風。
夕下風
夕方、地面をはうようにして吹く風。
夕山風
夕方、山から吹いてくる風。
小夜嵐
夜の嵐。よあらし。
小夜風
夜風。
夜半の嵐(よはのあらし)
夜吹く風。一夜で桜花を散らす嵐。
陸風
夜間に陸から海へ向って吹く風。陸軟風。海風と反対方向に吹く。
地域独特の風
季節風
季節によって吹いている広範囲の風。「信風」とも。
明日香風
明日香地方に吹く風。
オロマップ
北海道の日高山脈の南麓に吹く強風。
広戸風(ひろとかぜ)
岡山・鳥取県境の那岐山(なぎさん)南麓に吹く強風。日本三大局地風のひとつ。
南風(はえ)
西日本一帯で南または南寄りの風のこと。
まじ(真風)
西日本で南または南西の風をいう。桜まじ、油まじなど。まぜ。
まつぼり風
阿蘇の火口原にたまった冷気が外輪山から熊本平野へ吹き出す強風。まつぼりは余分、へそくりなどの意味。
いなさ
東日本・関東で海から吹く南東ないし南西の強風。雨の前兆とされる。「辰巳の風」とも。
出し風
山から吹いて沖へ向う風。山形県庄内地方の清川だし、新潟県北部の荒川だし、北海道後志支庁寿都(すっつ)の寿都のだし風など各地に名称がある。
いぶき
滋賀・岐阜県境の伊吹山周辺に吹くさまざまな風の名。元は何日も吹き続ける風、居吹きの意。
筑波東北風(つくばならい)
筑波山の方から吹いてくる北風。
佐保風(さおかぜ)
奈良の佐保辺りを吹く風。また、東風をいう。
鳰の浦風(におのうらかぜ)
琵琶湖の上を吹く風。
鹿の角落とし
山口県で2〜3月の晴れた日に吹く南西風。
岩おこし
広島県で3月頃吹く西風。
おぼせ
淡路・伊勢・伊豆などで4月頃の日和の時に吹く南風。
しゆたらべ
喜界島で梅雨の前に吹く湿気を含んだ南風。
ひかた
日のある方から吹く風の意味。広く日本海側一帯でいわれる夏の南寄りの強い季節風。
下り
日本海沿岸、特に北陸地方以北でいわれる南寄りの風。京都から下るのに好都合な夏の季節風。逆は上(のぼ)り。
山背(ヤマセ)
山を越えてくる風。また、夏に東北の太平洋側に吹く冷たい北風。山背風。農作物に深刻な冷害をもたらすことがある。
あおぎた
西日本で8月から9月ごろにかけて、晴天の夜に急に冷えて吹く北風。「あおげたならい・青北風」とも。
高西風(たかにし)
関西地方以西で10月ころ急に強く吹く西風、北西風。
星の入東風(ほしのいりこち)
中国地方で陰暦10月ころ吹く初冬の北東風。明け方に昴(すばる)が沈む時刻に吹きやすいという。
あなじ(乾風)
冬に近畿以西で吹く、船の航行を妨げる強い北西季節風。「あなぜ・あなし」とも。
空っ風(からっかぜ)
湿気のない激しい風。関東地方の冬の季節風。「赤城おろし」とも呼ばれ、群馬県では名物風として知られる。
玉風(たばかぜ)
東北・北陸地方の日本海沿岸で、冬に北西から吹く暴風。たばかぜ。
平野風(ひらのかぜ)
奈良・三重県境の高見山の西麓に吹く冬の強風。
ならい
冬に吹く強い風。東日本の海沿いの地でいい、風向きは地方によっていろいろ。ならい風。
颪(おろし)
山を越えて吹き降りて来る風。冬の季節風をいうことが多い。筑波おろし・那須おろし・赤城おろし・六甲おろしなど、地名と組み合わせて呼ばれる。
春の風
東風(こち)
東の方から吹いてくる風。特に春の東風。「梅東風(うめごち)、桜東風(さくらごち)、雲雀東風(ひばりごち)」など、組み合わせて使われる表現も多い。
あいの風
春から夏にかけて、日本海沿岸で吹く北または北東の風。「あい・あゆのかぜ」とも。
朝東風(あさごち)
春の朝に吹く東風。
恵風
万物を成長させる、めぐみの風。春風。
和風
穏やかな風。春の風。
花嵐
桜の花の盛りのころに吹く強風。満開の桜を一気に散らすことで知られる。
花風
桜を散らすように吹く風。
春一番
立春を過ぎて最初に吹く、昇温を伴った強い南風。2番目・3番目を春二番・春三番という。気象庁が認定する地方も多い。
春疾風(はるはやて)
春嵐。春荒(しゅんこう、はるあれ)。
油風(あぶらかぜ)
4月ころ吹く南寄りの穏やかな風。「油まじ・油まぜ」とも。
温風(おんぷう)
あたたかい春の風。
花信風(かしんふう)
春、花の開花を知らせる風。中国の詩歌に由来する表現。24節気ごとに吹く花を知らせる風のこと。
黒南風(くろはえ)
梅雨入りの頃、どんよりと曇った日に吹く南風。
光風
晴れあがった春の日にさわやかに吹く風。また、雨あがりに草木の間を吹き渡る風。
谷風
春先、東方から吹いて万物を生長させるという風。「東風・穀風」とも。また、谷を吹く風。谷底から吹き上げる風。
木の芽風
木の芽を吹出させる春の風。
夏の風
青嵐
5〜7月の青葉のころに吹くやや強い南風。
流し
梅雨の前後に吹く湿った南風。木の芽どきに吹く木の芽流し、茅(ちがや)の花の咲く頃に吹く茅花(つばな)流しなど、時期に合わせた名前がある。
白南風(しろはえ・しらはえ)
梅雨明けの頃、南から吹く風。黒南風と対になる表現。
緑風
青葉を吹く初夏の風。薫風。
凱風(がいふう)
やわらかい南風。初夏のそよ風。
温風(あつかぜ)
夏の暑い風。
薫風(くんぷう)
初夏、若葉の香りを運ぶ風。5月の晴れた日に吹く心地よい風で、「風薫る」は初夏の季語。
黄雀風(こうじゃくふう)
陰暦5月に吹く東南の風。
涼風
涼しい風。夏の終わりに吹くさわやかな風。
若葉風
若葉の頃の風。
盆東風(ぼんごち)
夏の終わりに吹く東風。暴風雨の前兆とされる。
秋の風
秋風
秋になって吹いてくる涼しい風。
金風
秋風。西風。五行説で秋に配される「金」に由来する表現。
秋台風
秋の台風。9〜10月は台風の上陸が最も多い季節。
秋嵐(しゅうらん)
秋の山にたちこめる靄。
雁渡(かりわたし)
雁が渡って行く初秋のころに吹く北風。
商風(しょうふう)
秋風。
悲風
哀感をさそう風。主に秋の風。
野分き(のわき)
秋の暴風。台風。源氏物語にも登場する古風な表現。
初秋風
初秋のころに吹く風。
初嵐
秋の初めに吹く強い風。
初風
その季節の最初の風。特に初秋風。
冬の風
寒風
冬の寒い風。
陰風
陰気で不気味な風。
霜風
霜の上を渡ってくる風。霜の降りそうな風。
凩・木枯し(こがらし)
初冬に吹く強い風。季節風のはしり。木の葉を吹き枯らす風の意味。気象庁は一定の基準を満たした場合に「木枯し1号」として発表する。
浚いの風(さらいのかぜ)
降り積もった雪を吹き散らす風。物を吹きさらう風。
その他の風
仇の風(あだのかぜ)
逆風、難風。
回風
つむじ風。
便風
都合のよい風。
火風
火と風。火炎を伴った風。
天つ風(あまつかぜ)
天を吹く風。古今和歌集の「天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ」でも知られる。
色風
なまめかしい風。
腥風(せいふう)
血なまぐさい風。
手風
手の動きによって生じる風。
裾風(すそかぜ)
着物の裾が動いて起こる風。
太刀風
刀を振ったときに起こる風。「刃風」とも。
羽風
羽の動きによって起こる風。あるいは舞人の袖による風。
ビル風
高層ビルの周りに起きる強い風。ビルの形状により気流が乱れることで生じる都市特有の現象。
舞台風
劇場で幕が上がる時、客席に向かって舞台から吹き出してくる冷たい風。
まとも(真艫)
船の船尾の方向から吹く風。
永祚の風(えいそのかぜ)
永祚元年(989年)に吹いた大風。歴史に記録されるほどの暴風であったことがわかる。
神風
神が吹き起こすという風。特に、元寇(1274年・1281年)の際に蒙古艦隊を壊滅させた激しい台風を指すことが多い。
業風(ごうふう)
地獄で吹く暴風。仏教的な世界観に由来する表現。
魔風
もの恐ろしい、不吉な風。
葛の裏風
葛の白い葉裏を見せて吹く風。
科戸の風(しなとのかぜ)
風の美称。罪や穢れを吹き払う風。「し」は「風」、「な」は「の」、「と(ど)」は「処」の意。
鼻嵐
激しい鼻息。風の名として最も日常的な表現。
風にまつわる雑学
鎌鼬(かまいたち):日本の風の妖怪
日本には風にまつわる有名な妖怪「鎌鼬(かまいたち)」が伝えられています。旋風(つむじ風)に乗って現れるとされ、三匹一組で行動すると言い伝えられています。
- 一匹目:人を転倒させる
- 二匹目:鎌のように鋭い傷をつける
- 三匹目:薬を塗って傷を治す
傷ができても痛みを感じず血も出ないとされる点が特徴的です。現代では、強い旋風による急激な気圧差で皮膚が引き裂かれる現象として科学的に解釈されることもあります。「鎌鼬」という名前は、鎌のように鋭い傷をつけるイタチ型の妖怪に由来するという説が有力です。
颪(おろし)と地名の組み合わせ
山を越えて吹き降ろす強風「颪(おろし)」は、地名と組み合わせて各地で独自の名前を持ちます。
- 赤城おろし:群馬県の赤城山から吹き降ろす北西の強風。関東平野の冬の風物詩で「空っ風」とも呼ばれる。
- 六甲おろし:兵庫県の六甲山から大阪湾へ向けて吹き降ろす北西の風。阪神タイガースの球団歌にもなり広く知られる。
- 那須おろし:栃木県の那須岳から関東平野に吹き込む北西の強風。
- 筑波おろし:茨城県の筑波山から吹き降ろす北西の強風。
これらは冬の季節風が山地を越える際に速度を増すことで発生します。風に地名が付くことで、その土地の気候や生活の様子が感じられる点が日本語の面白さです。
まとめ
今回は150種以上の風の名前・種類・意味を方角・季節・地域別に一覧でまとめました。日本語には、自然の移ろいを繊細に表現するために生まれた風の呼び名が数多く残っています。
「花嵐」「薫風」「木枯し」──それぞれの名前を知ると、日常の風景が少し違って見えてくるはずです。雨や雪の種類についても同じようにまとめていますので、ぜひあわせてご覧ください。








