
旅行先で「なぜか相手が不機嫌になった」「気づかないうちに失礼なことをしていた」という経験はありませんか?世界には、その国固有の文化・宗教・歴史に根ざした禁忌(タブー)が数多く存在します。日本では何でもない行為が、国によっては深刻な侮辱や不吉な行いとされるケースは珍しくありません。
この記事では、アジア・中東・ヨーロッパ・南北アメリカ・オセアニアの15か国以上から、代表的な禁忌・タブー28選を宗教・歴史・衛生の背景とともに解説します。知らずにやってしまいがちなNG行為を、渡航前にぜひ確認してみてください。
アジアの禁忌・タブー
アジア各国の禁忌は、仏教・ヒンドゥー教・儒教・道教などの宗教観や、数字・言葉の音にまつわる迷信(音の縁起)に由来するものが多いです。
日本:箸をご飯に垂直に立てる「箸立て」
ご飯に箸を垂直に刺して立てることを「箸立て(立て箸)」と呼びます。これは仏式の葬儀で故人へのお供えとして行う作法であるため、食事中に行うと縁起が悪いとされます。日本を訪れる外国人がやってしまいがちなタブーの一つです。同様に、箸を渡す際に「箸渡し」(箸から箸へ直接渡す)も、火葬で遺骨を骨壺に移す作法に由来するため厳禁とされます。
日本:夜に爪を切る
「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」という言い伝えは日本各地に残ります。昔は電灯がなく暗い中で爪を切ることが怪我の危険を招いたため、戒めとして広まったと考えられています。また「夜(よ)爪(つめ)」が「世詰め」(世を詰める=早死にする)に通じるという語呂合わせの解釈も有力です。現代でも年配者を中心に守られている慣習です。
日本:チップを渡す
海外では当たり前のチップ文化ですが、日本では真逆の意味になりかねません。日本のサービス業では、チップを渡すことが「あなたのサービスは普段通りでは不十分だ」という侮辱に受け取られることがあります。「おもてなし」の精神が根付く日本では、十分な対価(料金)さえ支払えばサービスはすべての客に平等に提供されるという考え方があるためです。
中国:時計を贈る
中国語で「時計を贈る(送鐘)」の「送(sòng)」と「鐘(zhōng)」は、「臨終を送る(送終)」と同音になります。このため、時計を贈ることは「あなたの死を見届けに行く」という意味に受け取られ、大変不吉とされます。ビジネスの場でも友人関係でも、中国人への贈り物に時計は厳禁です。特に目上の人への時計贈呈は最大の失礼とみなされます。
中国:梨を割って分け合う
中国語で「梨(lí)」と「別れ・離別(離/lí)」は同音です。そのため梨を割って人と分け合うことは「相手と別れること」を意味するとされ、縁起が悪いタブーとされています。同様に傘(傘/sǎn)も「散る・解散(散/sàn)」と音が近いとして、贈り物に傘を送ることも避けられます。中国の贈り物文化では音の縁起が非常に重視されます。
中国:男性が緑の帽子をかぶる
中国では、緑の帽子(尤其は緑色の帽子)をかぶった男性は「妻が不貞を働いている」という意味になります。これは元代(1271〜1368年)から明代(1368〜1644年)の規制に由来するとされ、青楼(売春宿)に関わる人の家族が緑色の布を頭に巻くことを義務付けられていたという記録が残っています。現代の中国でも「你戴了绿帽子(あなたは緑の帽子をかぶっている)」はひどい侮辱表現として残ります。
韓国:赤いインクで名前を書く
韓国では、生きている人の名前を赤いインクで書くことはタブーとされます。これは韓国の伝統文化において、故人の名前を赤で記す習慣(位牌や弔問帳など)があるためです。生きている人の名前を赤で書くことは「その人の死を望む行為」に見えるとされます。学校のテストで名前を赤ペンで書いて減点された生徒の話は韓国では広く知られています。
タイ:他人の頭に触れる
タイを含む上座部仏教の国々では、頭は最も神聖な部位とされます。体の最も高い場所にあり、霊魂(クワン)が宿るとされるためです。反対に足は最も不浄な部位とされます。子どもでも頭を撫でることは無礼にあたるため、観光客が子どもに親しみを込めて頭を触ろうとする行為は厳禁です。仏像の頭を触ることも同様に禁じられており、観光地でも度々問題になります。
タイ:足の裏を人や物に向ける
頭が最も神聖な部位であるのに対し、足・足の裏は最も不浄な部位とされます。椅子に腰掛けて足を高く上げたり、足の裏を人に向けたり、仏像に向けることは大きな侮辱です。また、足で物を指したり蹴ったりすることも禁忌です。タイでの座り方には注意が必要で、特に仏教寺院では正座か横座りが求められます。
タイ:王室・王族の批判
タイには世界でも厳しい部類の不敬罪(プラミンタプロット/Lèse-majesté)が存在します。王室・国王・王妃・皇太子への批判や侮辱は最高で懲役15年の刑事罰の対象となります。SNSへの投稿・インターネット上の書き込みも対象になるため、外国人観光客も注意が必要です。旅行中に政治や王室について不用意に発言しないよう心がけましょう。
インド:左手で物を渡す・食べる
インドを含む南アジア・中東・アフリカの多くの国では、左手は「不浄な手」とされます。これはトイレ(水のない時代のビデ代わり)に左手を使う衛生慣習に由来します。食事は右手のみで行い、物を人に渡す際も必ず右手を使います。左手で食べ物や贈り物を手渡すことは、相手への失礼にあたります。左利きの人も右手を使うよう求められる場面があります。
インド:牛を食べる・皮革製品を持ち込む
ヒンドゥー教では牛(特に雌牛)は神聖な動物(聖牛)とされ、殺したり食べたりすることは禁じられています。これはクリシュナ神が牧童として描かれる神話に由来します。インドを訪れる際に牛皮の財布・ベルト・バッグなどを持ち込むことは失礼にあたるとされ、特に農村部や宗教施設では注意が必要です。牛肉のハンバーガーをインドで提供しないよう、マクドナルドも牛肉を使わないメニューに切り替えています。
ミャンマー:仏僧の頭・肩に触れる・女性が直接物を渡す
仏教国ミャンマーでは、仏僧(お坊さん)の頭や肩に触れることは厳禁です。また、女性が仏僧に直接物を渡すことも禁じられており、お布施をする際も仏僧が持つ袋や皿に置く形式をとります。仏僧の袈裟に女性の衣服が触れることも避けられます。仏僧は修行中に感覚を乱すものを避けるという戒律からきています。
フィリピン:ハンカチを贈り物にする
フィリピンではハンカチを贈り物にすることが避けられます。ハンカチは葬儀や悲しみの場面で涙を拭うために使うものという連想から、別れや悲しみを招くとされるためです。同様に、尖ったもの(ナイフ・ハサミ・針)を贈ることも「縁を切る」ことを暗示するとして避けられます。
中東・ヨーロッパ・南北アメリカ・オセアニアの禁忌・タブー
アラブ諸国(イスラム圏):公共の場での左手の使用と飲食
多くのイスラム圏では、左手は不浄とみなされます(インドと同様)。食事・握手・物の受け渡しはすべて右手で行うのが礼儀です。またラマダン(断食月)の期間中は、イスラム教徒ではない外国人も公共の場での飲食・喫煙・ガムを噛む行為を控えることが求められます。これはイスラム社会への配慮として一般的なマナーとなっており、サウジアラビアなど一部の国では法的な規制があります。
イスラエル:安息日(シャバット)の生活制限
ユダヤ教の安息日(シャバット)は毎週金曜日の日没から土曜日の日没まで続きます。この間は「仕事」(労働・火を起こす行為を含む)が禁じられているため、観光地では多くの店が閉まり、エレベーターが自動運転モード(全フロアに止まる)になる場合があります。ユダヤ教の家庭や宗教的施設ではシャバット中に電気のスイッチを押すことも避けます。宗教観光でイスラエルを訪れる際は事前に日程の確認が必要です。
ロシア:偶数本の花を贈る
ロシアでは奇数本の花束は祝いの場に、偶数本の花束は葬儀・弔いの場に使うのが伝統的な慣習です。そのため、お祝い・誕生日・友人への贈り物に偶数本の花を贈ることは「あなたの死を弔う」という縁起の悪い行為とみなされます。日本とは真逆で、ロシアでは「1本・3本・5本・7本」など奇数本が吉数とされます。観光で現地の人に花を贈る機会がある場合は必ず奇数本を用意しましょう。
ロシア:握手を敷居越しにする
ロシアでは、ドアの敷居(しきい)を跨いだ状態で握手することを避けます。「家の内と外に同時にいる状態」は不吉とされるためです。同様に、敷居に立ったまま会話を続けることも縁起が悪いとされます。訪問の際は、室内に完全に入ってから、または完全に外に出てから挨拶するのが礼儀です。この慣習はロシアだけでなく東欧・バルカン半島の国々でも広く残ります。
ロシア:空の瓶・グラスをテーブルに置く
ロシアでは乾杯・宴会の文化が盛んですが、飲み終わった空の瓶・グラスをテーブルの上に置くことは縁起が悪いとされます。「財布が空になる(お金が入ってこなくなる)」という迷信に由来します。空になった瓶は床に置くか、テーブルの下に置くのが一般的なマナーです。ロシア人の家庭に招かれた際、または屋外での宴席では特に気をつけましょう。
ドイツ:誕生日前日・当日前に祝いの言葉を言う
ドイツでは「Alles Gute zum Geburtstag(誕生日おめでとう)」を誕生日の前日・前もって言うことはタブーとされます。「運命を先取りすること」が不幸を招くという考え方からきており、誕生日を迎える当日になってから初めておめでとうと言うのがマナーです。ドイツ人の友人に前もって誕生日メッセージを送ると、不思議に思われるか良く思われないことがあります。
ドイツ・ヨーロッパ諸国:乾杯でアイコンタクトを外す
ドイツをはじめ多くのヨーロッパ諸国では、乾杯の際にグラスを合わせながら相手の目を見ないことは不吉とされます。特にドイツでは「7年間性的に不運が続く(7 Jahre schlechter Sex)」という言い伝えがあり、真剣にアイコンタクトをとる習慣があります。フランス・スペイン・ハンガリーなどでも乾杯時の目線は礼儀の一部とされています。
フランス:バゲットを逆さに置く
フランスで食パン(バゲット)を逆さに置くことは不吉とされます。「かつてパン屋が処刑の執行人(死刑囚を担当する役人)のために取り置くパンを逆さに置く慣習があり、その連想から不吉になった」という説があります。ただしバゲット自体は19世紀以降に普及したため、慣習の起源は古いパンに遡ると考えられています。詳細な由来は諸説あり確定していません。フランスのパン屋では今でもバゲットを必ず正しい向きで置きます。
英国:ピースサインで手の甲を相手に向ける
「V for Victory(勝利の象徴)」として有名なピースサインですが、英国・アイルランド・オーストラリアなどでは手の向きが重要です。手の甲(手の裏側)を相手に向けたVサインは、中指を立てるのと同義の重大な侮辱表現になります。英語では「the two-fingered salute(2本指の敬礼)」と呼ばれ、第二次世界大戦中のイギリス軍が占領軍への軽蔑を示すために使ったとも言われます。写真撮影でVサインをする際、手の甲が被写体に向いていないか注意が必要です。
中東・トルコ:サムズアップ(親指を立てるジェスチャー)
日本や欧米では「いいね!」「了解!」を示すサムズアップジェスチャーですが、トルコ・イラン・イラクなどの中東の一部地域では、性的な侮辱表現(中指を立てるのと同じ意味)として受け取られることがあります。特にトルコでは明らかにネガティブな反応が返ってくることが多く、外交官や旅行者が意図せず相手を怒らせてしまったケースが報告されています。SNSの「いいね」マークとして世界的に浸透しつつありますが、現地では注意が必要です。
ブラジル:OKサインのハンドジェスチャー
日本や欧米では「OK・良い」を示す親指と人差し指で輪(O)を作るジェスチャーですが、ブラジルでは侮辱的な意味(性的な隠語)になります。かつてニクソン大統領(もしくは副大統領時代)がブラジル訪問時にこのジェスチャーを使って激しい抗議を受けたエピソードがよく知られています(訪問時期の詳細は諸説あります)。同様に南ヨーロッパの一部(ギリシャ・トルコ・シリアなど)でも同じジェスチャーが侮辱表現とされます。日本人旅行者が知らずに使うリスクが高いタブーの一つです。
メキシコ・ラテンアメリカ:死者の日(ディア・デ・ロス・ムエルトス)に黒い喪服を着る
メキシコの「死者の日(Día de los Muertos)」は11月1〜2日に行われる先住民族の伝統とカトリックが融合した祭りです。故人の霊を迎える祝祭であるため、日本のお盆に近い「明るいお祭り」として捉えられています。この場に黒い喪服・暗い服装で参加することは場の空気を読めない行為とされます。祭りには鮮やかな色の服装で参加し、故人を笑顔で迎えるのがマナーとされています。
ニュージーランド(マオリ族):食べ物を頭の上に置く
マオリ族の文化では、頭は最も神聖な身体の部位とされます(タイと同様)。食べ物は生活の糧ですが、頭よりも「下位」のものと位置づけられるため、食べ物を頭の上に置いたり、頭の近くに食べ物を直接持ってくることは禁忌とされます。食器を頭の近くに不用意に置かないことが礼儀とされ、集会所(マラエ)では特に注意が必要です。
オーストラリア(アボリジナル):聖地の写真撮影
オーストラリアの先住民族アボリジナルには、写真撮影や立ち入りが禁止されている聖地が各地に存在します。最も有名なのはウルル(エアーズロック)で、登山および特定エリアでの撮影は文化的な配慮から禁止されています(2019年に登山が正式禁止)。また、亡くなったアボリジナルの人物の写真を公に使用することも「魂を傷つける行為」として避けられます。
まとめ
世界の禁忌・タブー28選を、アジア・中東・ヨーロッパ・南北アメリカ・オセアニアの15か国以上にわたってご紹介しました。
タブーは単なる迷信ではなく、その国の宗教・歴史・衛生観・社会秩序が凝縮されたものです。「左手は不浄」というルールはインド・中東・アフリカに共通しており、「頭は神聖」というルールはタイ・インド・マオリ族に共通しているように、文化を超えた普遍的なパターンも見えてきます。
知らなかったでは済まされない場面も多いので、渡航前にその国の文化・宗教的背景を調べておく習慣をつけましょう。旅行の準備として、あわせて世界の不思議な法律まとめや日本の都市伝説15選もぜひご覧ください。