
納豆、ヨーグルト、キムチ——これらはすべて「発酵食品」です。微生物の力を借りて保存性を高めたり、旨みを引き出したりする技術は、世界中の食文化に深く根ざしています。本記事では、日本・韓国・ヨーロッパ・アフリカなど世界各地の発酵食品50選を、使われる微生物・名前の語源・健康効果とともに地域別に解説します。知っているようで知らない発酵の世界をのぞいてみましょう。
発酵とは何か?3種の微生物が生み出す食の科学
「発酵」とは、微生物が食品中の成分(糖・タンパク質など)を分解・変換し、別の物質に変える現象です。食品の保存性が高まり、栄養価や風味が変化します。食べ物の科学的な仕組みに興味があれば食べ物の科学雑学25選|なぜそうなる?驚きの仕組みまとめもあわせてどうぞ。
主に活躍する微生物は3種類です。
- 乳酸菌:糖を乳酸に変える。ヨーグルト・キムチ・ザワークラウト・ぬか漬けなど
- 酵母:糖をアルコールと二酸化炭素に変える。ビール・ワイン・パン・日本酒など
- 麹菌(カビ):デンプン・タンパク質を分解して糖やアミノ酸を生成する。味噌・醤油・日本酒など
このほか、納豆菌・酢酸菌・リゾプス菌(テンペ)なども食品発酵に関わります。
日本の発酵食品13選
納豆
大豆を納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)で発酵させた日本独自の食品。名前の語源は「納所(なっしょ)」に豆を保管していたことから「納豆」になったという説が有力です。ナットウキナーゼ(血栓溶解酵素)・ビタミンK2が豊富で、近年は心血管系への効果が注目されています。糸を引く発酵食品は世界的にも珍しく、外国人が最初に驚く日本食のひとつです。
味噌
大豆・米・麦を麹菌(Aspergillus oryzae)と塩で発酵熟成させた調味料。語源は朝鮮語の「メジュ」由来説や、中国語「未醤(まだ醤になっていないもの)」由来説などがあります。信州味噌・八丁味噌・仙台味噌など地域ごとに多様な種類が存在し、年間消費量は約47万トン(農水省データ)。プロバイオティクス効果のほか、各種機能性成分の研究も進んでいます。
醤油
大豆と小麦を麹菌・酵母・乳酸菌の3種の微生物で段階的に発酵させた液体調味料。「醤油」の語源は中国語の「醤(ジャン)」に由来し、液体化したものを「醤油」と呼ぶようになりました。英語の「soy sauce」はオランダ語を経由した表記で、グルタミン酸をはじめとするうま味成分が豊富。現在は世界100か国以上に輸出されています。
ぬか漬け
野菜を米ぬかと塩水で乳酸発酵させた漬物。主役はLactobacillus plantarumなどの植物性乳酸菌です。江戸時代に白米食が普及すると脚気(かっけ)が流行しましたが、ぬか漬けを食べる習慣のある地域では発症が少なかったという記録があります。「ぬか」は米の外皮「糠(ぬか)」を意味し、ぬか床には毎日の手入れが欠かせません。
甘酒
米麹または酒粕を使って作る甘い発酵飲料。「飲む点滴」とも呼ばれ、ブドウ糖・ビタミンB群・必須アミノ酸を豊富に含みます。米麹甘酒はノンアルコール、酒粕甘酒は微量のアルコールを含みます。江戸時代には夏の滋養強壮として「甘酒売り」が行商しており、俳句では夏の季語になっています。
かつお節
カツオを煮た後、燻製・乾燥させ、さらにカビ(アスペルギルス属)を付着させて発酵熟成させた食品。本枯節(ほんかれぶし)は水分量が20%以下まで乾燥しており、世界最硬の食品のひとつとされます。イノシン酸が豊富で、昆布のグルタミン酸との組み合わせで旨みが飛躍的に増します(うまみの相乗効果)。「節」の字は、削ったときの薄片の形に由来します。
くさや
伊豆諸島の伝統的な発酵食品。アジ・トビウオなどを「くさや液」と呼ばれる塩水発酵液に漬け込み、天日干しにします。くさや液は何百年もの歴史を持つ継ぎ足し液で、独特の微生物叢が形成されています。シュールストレミング(スウェーデン)・ホンオフェ(韓国)と並んで世界三大臭食の候補に挙げられることも。語源は「臭い」+「干し魚」とされています。
鮒寿司(なれずし)
滋賀県の郷土料理で、フナを塩漬けにした後、ご飯とともに漬け込んで乳酸発酵させた日本最古のすし。「なれずし」の「なれ」は食材が熟成して「馴れ」てくる状態を指します。酢を使った「早ずし」が普及する以前の原型的なすしとされ、独特の酸味と香りを持ちます。琵琶湖沿岸では今も祭りや贈答品として大切にされています。
豆腐よう
沖縄の伝統的な発酵食品。豆腐を紅麹(Monascus purpureus)・泡盛・塩で発酵熟成させた珍味です。紅麹菌の働きで鮮やかな赤色を帯び、濃厚なチーズのような風味になります。「よう」の漢字は「腐(柔らかくなった)」と書き、発酵して柔らかくなった豆腐を意味します。琉球王国時代に中国から伝わったとされ、泡盛との相性が抜群です。
しょっつる
秋田県の伝統的な魚醤。ハタハタ(またはイワシ)を塩と一緒に長期間発酵させた液体調味料です。「しょっつる」は「塩汁(しおつる)」の訛りとされています。日本三大魚醤(しょっつる・いしる・いかなごしょうゆ)のひとつで、グルタミン酸が豊富な旨みが特徴。ナンプラー(タイ)・ガルム(古代ローマ)と同系統の古い発酵調味料の系譜にあります。
かんずり
新潟県上越地方の発酵調味料。雪晒し(ゆきさらし)した唐辛子を塩・柚子・糀と合わせ、3年以上発酵させます。雪にさらすことで唐辛子のえぐみが抜けてまろやかな辛みになるのが特徴です。「かんずり」の語源は「寒」の時期に作る「辛さ(唐辛子)」から変化したという説があります。新潟の厳しい雪国の気候と発酵の知恵が融合した稀有な食品です。
へしこ
福井県若狭地方の伝統食。サバを塩漬けにした後、ぬかに漬けて1年以上発酵熟成させます。「へしこ」の語源は「圧し込む(へしこむ)」からとされています。強い旨みと塩味が特徴で、茶漬けや酒の肴として親しまれています。若狭と京都をつなぐ「鯖街道」の文化遺産でもあり、京都の鯖ずしの具材としても使われます。
米酢
日本の代表的な発酵酢。米のでんぷんを麹菌で糖化→酵母でアルコール発酵→酢酸菌で酢酸発酵という3段階の発酵を経て作られます。「酢」という漢字は中国語の「醋(cù)」に由来します。クエン酸・アミノ酸を含み、奈良時代にはすでに製造されていたとされる歴史ある調味料です。和食の味付けに欠かせないほか、殺菌効果も期待されています。
韓国・中国の発酵食品9選
キムチ(韓国)
白菜を塩で浸透圧処理した後、唐辛子・魚醤・にんにく・しょうが・ねぎのヤンニョムを加えて乳酸発酵させた韓国の国民食。名前の語源は朝鮮語の「침채(チムチェ)=塩漬け野菜」が変化したものとされています。乳酸菌Lactobacillus kimchiiが発見・命名されるなど、独自の発酵菌相を持ちます。2013年にユネスコ無形文化遺産(キムジャン文化)に登録されました。
コチュジャン(韓国)
唐辛子・もち米・大豆麹・塩を混ぜて発酵させた辛味調味料。韓国語で「고추(唐辛子)+장(醤)」の意味です。唐辛子が朝鮮半島に伝わったのは16世紀末頃とされ、それ以前のコチュジャンは唐辛子なしの穀物醤でした。ビビンバ・トッポッキなど韓国料理の多くに使われる万能調味料です。
テンジャン(韓国)
大豆を主原料とした韓国の味噌。韓国語で「된장(熟成された醤)」の意味です。麹ではなくメジュ(大豆のブロック)を使い、日本の味噌と製法が異なります。同じ桶から液体部分がカンジャン(醤油)、固体部分がテンジャン(味噌)になるのが特徴的です。
マッコリ(韓国)
米・小麦粉・ヌルク(麹)を水と混ぜて発酵させた白濁の醸造酒。語源は韓国語「막걸리(粗く濾した酒)」の意味です。アルコール度数は6〜8%程度で、乳酸菌・酵母・麹菌が共存しています。「農夫の酒」とも呼ばれ、農作業の合間に飲まれてきた庶民の発酵飲料です。
ホンオフェ(韓国)
韓国・全羅南道の伝統珍味で、エイを密閉容器に入れて数週間〜数か月発酵させた料理。エイの体液に多く含まれる尿素が発酵でアンモニアに変化するため、強烈なアンモニア臭が生じます。「홍어(ガンギエイ)+회(刺身)」の意味です。シュールストレミングと並ぶ世界最臭の発酵食品として知られています。
豆腐乳(腐乳)(中国)
豆腐を紅麹・白麹・米酒・塩で発酵させた中国の発酵食品。「腐乳」は「発酵して柔らかくなった(腐)乳製品のように滑らかな(乳)食品」の意味です。西方腐乳(白色)・紅腐乳(赤色)・臭腐乳など種類が豊富。沖縄の豆腐ようは、この豆腐乳が琉球王国時代に伝わったものとされています。
紹興酒(中国)
中国浙江省紹興市発祥の醸造酒。もち米・麦麹・鑑湖の水を使い、半年〜数年間発酵熟成させます。「紹興酒」の名は産地の地名「紹興」から。アルコール度数は14〜20%で、中国の伝統酒「黄酒(ホワンジュウ)」の代表格です。日本では東坡肉(豚の角煮)など中国料理の調味料としても使われます。
豆豉(トウチ)(中国)
大豆(または黒豆)を蒸して麹菌などで発酵させた中国の発酵調味料。「豉」という文字は熟成豆の古い字です。乾燥タイプの「乾豆豉」と水気のある「水豆豉」の2種があります。中国料理の炒め物・魚料理の旨み付けとして広く使われ、日本の浜納豆・寺納豆も豆豉の製法が伝わったものとされています。
臭豆腐(チョウドウフ)(中国・台湾)
豆腐を植物や魚介を発酵させた「臭水」に漬けて発酵させた食品。「臭豆腐」は文字通り「臭い豆腐」の意味です。台湾・中国各地の屋台で揚げたり蒸したりして食べます。発酵後は外見が灰色〜黒色になり強烈な香りを持ちますが、台湾のナイトマーケットを代表するストリートフードのひとつです。
東南アジア・南アジアの発酵食品8選
テンペ(インドネシア)
大豆をリゾプス属のカビ(クモノスカビ)で発酵させた食品。白いカビが大豆を覆い、ケーキ状に固まります。語源は諸説あり、古代ジャワ語の「tumpi」(白い揚げ菓子)に由来するという説が学術的に支持されています。大豆の栄養素(タンパク質・鉄・カルシウム)が消化しやすくなり、ビタミンB12も生成されます。植物性タンパク質としてビーガン食でも人気急上昇中です。
ナンプラー(タイ)
カタクチイワシや小魚を塩漬けにして1〜2年間発酵させた液体調味料。タイ語で「น้ำ(水)+ปลา(魚)=魚の水」の意味です。日本のしょっつる・ベトナムのヌクマム・古代ローマのガルムと同系統で、魚醤は世界各地で独立発生した調味料です。グルタミン酸・イノシン酸が豊富で、タイ料理の旨みの基盤となっています。
ナタデコ(フィリピン)
ヤシの果汁にナタ菌(Komagataeibacter xylinus)を加えて発酵させたゼリー状の食品。スペイン語で「Nata(クリーム)de Coco(ヤシ)」の意味です。日本では1990年代にデザートブームとなりました。セルロースの塊で食物繊維が非常に豊富。フィリピンでは1900年代初頭から食べられていたとされます。
トゥアナオ(タイ・ミャンマー)
大豆をリゾプス菌で発酵させた東南アジア版の「発酵大豆食品」。タイ北部・ミャンマー山岳地帯の少数民族の食文化に根ざします。日本の納豆・インドネシアのテンペと製法が近く、乾燥させた円盤状で保存食として流通します。料理の旨み付けに使われますが、商業的な普及は限定的です。
プラホック(カンボジア)
小魚を塩漬けして乾燥・発酵させたカンボジアの魚ペースト。クメール語で「魚の塩漬け発酵食品」を指します。「カンボジア料理の魂」と呼ばれ、ほぼすべての伝統的なカンボジア料理に使われます。塩分濃度が高く独特の臭いを持ちますが、旨みが非常に強い調味料です。タイのカピ・日本のしょっつると同系統の魚醤の一形態です。
ベラカン(マレーシア・シンガポール)
小エビを塩漬けして乾燥・発酵させたエビペースト。マレー語で「魚または海産物を乾燥発酵させたもの」の意味とされています。炒め物・サンバル(チリペースト)・ラクサなど多くのマレー・シンガポール料理に欠かせない調味料です。タイのカピ・インドネシアのテラシと同系統で、強烈な香りを加熱することで旨みに変わります。
ダヒ(インド)
インドの伝統的なヨーグルト。牛乳・バッファローミルクを乳酸菌(Lactobacillus delbrueckiiなど)で発酵させます。「ダヒ」はサンスクリット語の「dadhi」に由来するとされています。ラッシー(ヨーグルト飲料)やチャツネの材料として、インドの食卓に欠かせない食品。インドの古典文献にも記載があり、4000年以上の歴史を持つとされています。
イドリー(南インド)
米と黒豆(ウラドダル)を浸水・すり潰して一晩乳酸発酵させた生地を蒸し上げたもの。タミル語の「இட்லி」の語源は古タミル語「iddali」とも言われています。軽くふっくらとした食感で消化がよく、南インド・スリランカの朝食の定番です。米と豆の組み合わせにより、発酵で必須アミノ酸バランスが向上するとされています。
中東・アフリカの発酵食品5選
インジェラ(エチオピア)
テフという穀物の粉を水に溶かして3日程度乳酸発酵させた後、大きな鉄板で薄く焼いた発酵パン。「インジェラ」はアムハラ語に由来します。直径50cm程の大皿に広げ、その上にシチュー(ワット)を盛り付けて手でちぎりながら食べます。テフは鉄分・カルシウムが豊富でグルテンフリー。エチオピアの国民食です。
ガリ(西アフリカ)
キャッサバを皮むき・すり潰して袋に詰め、数日間乳酸発酵させた後に乾煎りして粗粉にした食品。「ガリ」はヨルバ語で「乾燥させた食物」の意味とされています。ナイジェリア・ガーナ・コートジボワールなど西アフリカの主食です。生のキャッサバには青酸配糖体が含まれますが、発酵・加熱処理で無毒化されます。
アマヘウ(南アフリカ)
トウモロコシまたはソルガム(モロコシ)を水に浸けて数日間自然発酵させたズールー族の伝統飲料。「アマヘウ(amahewu)」はズールー語に由来します。薄いお粥状でほのかな酸味があり、乳酸菌が豊富。1850年代の記録にも登場し、農業労働者の体力維持に使われてきた食品です。現在は南アフリカで商業的にも製造・販売されています。
マスト(イラン・ペルシャ)
牛乳・羊乳・ヤギ乳などを乳酸菌で発酵させた中東のヨーグルト。「マスト(ماست)」はペルシャ語で「酔った」という意味から来るという説があります。イランでは毎日の食事に欠かせない食品で、野菜と混ぜた「マスト・オ・ホルジ」が有名。シルクロードを通じてインドのダヒ・トルコのヨーグルトの系譜に連なります。
タルハナ(トルコ)
小麦・ヨーグルト・トマト・玉ねぎなどを混ぜて数日間乳酸発酵させ、乾燥・粉砕した保存食。「タルハナ」はトルコ語で、ペルシャ語「tarkhine」に由来するとも言われています。乾燥粉末のまま長期保存でき、水やスープに溶かすと旨みの出汁になります。アナトリア半島では数千年の歴史を持ち、ギリシャの「Trahanas」と同系統の食品です。
ヨーロッパの発酵食品9選
ザワークラウト(ドイツ)
千切りキャベツを塩漬けにして乳酸発酵させたドイツの漬物。「ザワークラウト(Sauerkraut)」はドイツ語で「酸いキャベツ」の意味です。大航海時代には壊血病予防のビタミンC源として船員に配給されており、クック船長も使用した記録があります。乳酸菌のプロバイオティクス効果のほか、免疫機能のサポートも期待されています。
シュールストレミング(スウェーデン)
バルト海産のニシンを軽く塩漬けし、缶の中で発酵させたスウェーデンの伝統食品。「シュールストレミング(surströmming)」はスウェーデン語で「酸っぱいニシン」の意味です。強烈な臭いは硫化水素・酪酸などによるもので、「世界一臭い缶詰食品」として知られています。缶が発酵ガスで膨らむことがあり、8月の解禁日に合わせて食べる伝統があります。
グラヴラックス(スウェーデン・北欧)
サーモンを塩・砂糖・ディルで包んで冷蔵庫で1〜2日間熟成させた北欧の料理。「グラヴラックス(gravlax)」はスウェーデン語で「埋めたサーモン(lax)」の意味で、gravは「埋める・掘る」という動詞に由来し、かつては文字通り地中に埋めて発酵させていました。現在は冷蔵庫で同様の条件を再現します。マスタードソースやライ麦パンとともに食べるのが伝統的なスタイルです。
マーマイト(イギリス)
ビール酵母を塩・野菜エキスで煮詰めた粘度の高い食品。「マーマイト(Marmite)」はフランス語で「陶器の鍋(marmite)」に由来します。1902年にイギリスのバートン・オン・トレント(Burton-on-Trent)で創業されたロングセラー商品で、ビタミンB群(特にB12)が豊富なためベジタリアン・ビーガン向けの栄養源として重宝されています。「好きか嫌いか(Love it or Hate it)」が二分されることで有名です。
アンチョビ(イタリア)
カタクチイワシを塩漬けにして数か月〜1年以上発酵熟成させた食品。「アンチョビ(anchovy)」はスペイン語「anchoa」またはラテン語「aphye(小魚)」に由来するとされています。古代ローマの魚醤「ガルム(garum)」の伝統を引き継ぐ食品で、オリーブオイルに漬けて保存します。ピザ・サラダ・パスタの旨み付けとして少量で料理全体の風味を変えます。
バルサミコ酢(イタリア)
ブドウ果汁(モスト)を煮詰め、木樽に移して12年〜25年以上発酵・熟成させる高級酢。イタリア語で「balsamo(芳香のある)」に由来します。最高級品「アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ(DOP)」は小瓶が数万円になることも。オーク・桑・チェリーなど異なる木種の樽を順に使うことで独特の複雑な風味が生まれます。
ケフィア(コーカサス・東欧)
乳酸菌と酵母が共生する「ケフィアグレイン(ケフィア粒)」を牛乳などに加えて発酵させた飲料。コーカサス山岳地帯が発祥。「ケフィア」はトルコ語・アラビア語で「幸福感」を意味するとも言われています。「長寿の飲み物」として19世紀にロシアで注目され、免疫学者のイリヤ・メチニコフも研究しました。100種以上の菌種が共存する複雑なプロバイオティクスです。
クワス(ロシア・東欧)
ライ麦パンや黒パンを水に浸けて酵母・乳酸菌で発酵させた伝統飲料。「クワス(квас)」はロシア語で「酸っぱい」という意味の語に由来します。アルコール度数は0.5〜2%程度で、夏にロシアの街頭の樽から販売されます。9〜10世紀の年代記にすでに記録があり、1000年以上の歴史を持つ清涼飲料です。
サワードウ(酸種パン)(ヨーロッパ各地)
小麦粉と水を混ぜて野生酵母と乳酸菌を培養した「スターター(種)」で発酵させたパン。「サワードウ(sourdough)」は英語で「酸っぱい(sour)生地(dough)」の意味です。商業酵母のない時代の最も古いパン製法とされ、サンフランシスコのサワードウは1849年のゴールドラッシュ時代に広まりました。COVID-19パンデミック中に世界的な自家製ブームとなりました。
アメリカ大陸の発酵食品3選
チチャ(ペルー・アンデス)
トウモロコシを噛み砕いて唾液のアミラーゼで糖化し、壺の中で酵母発酵させた醸造酒。「チチャ」はケチュア語に由来します。インカ帝国時代から作られてきた儀式用の飲み物で、今もペルー・ボリビアなどで飲まれています。唾液で糖化する「口噛み酒」という製法は、日本の古代の口噛み酒と共通する古代的な発酵技術です。
テパッチェ(メキシコ)
パイナップルの皮と芯を水・黒砂糖・スパイスと一緒に1〜3日間発酵させたメキシコの発酵飲料。「テパッチェ(Tepache)」はナワトル語で「熟成した飲み物」の意味とされています。アルコール度数は低く(1〜3%程度)、街頭や家庭での手作りが一般的。低アルコール・健康志向の流れでヨーロッパ・北米でも注目を集めています。
コンブチャ(中国・世界)
甘い紅茶または緑茶に「SCOBY(酵母と酢酸菌の共生コロニー)」を加えて1〜2週間発酵させた飲料。「コンブチャ(Kombucha)」の語源は諸説あり、日本語の「昆布茶」とは別物です。発祥は中国(紀元前200年頃の秦代)とも、19世紀のロシアとも言われています。有機酸・B族ビタミン・プロバイオティクスを含み、2010年代から欧米で健康飲料として大ブームになりました。
世界共通の発酵食品3選
ビール
大麦麦芽などを糖化し、酵母でアルコール発酵させた醸造酒。「ビール(beer)」の語源は中世ラテン語「biber(飲み物)」に由来するという説が有力です。世界最古のビールに関する文書は紀元前1800年頃のシュメール語の「ニンカシ讃歌」で、製法が詳述されています。世界で最も消費量の多いアルコール飲料で、発酵の種類によってラガー(下面発酵)・エール(上面発酵)に大別されます。
ワイン
ブドウの糖を酵母でアルコール発酵させた醸造酒。「ワイン(wine)」はラテン語「vinum(ヴィーヌム)」に由来し、印欧語族共通の祖語にさかのぼります。最古の醸造の証拠はジョージアの遺跡(紀元前6000〜5800年頃)から発見されており、最古のワイナリー施設はアルメニアの遺跡(紀元前4100年頃)とされています。世界三大発酵食品のひとつとされ、チーズ・ビールとともに人類の食文化を形成してきました。
チーズ
牛・羊・ヤギ等の乳に乳酸菌・レンネット(凝乳酵素)を加えて固めた発酵食品。「チーズ(cheese)」の語源は古英語「cēse」、ラテン語「caseus(乳タンパク質を固めたもの)」に由来します。チーズ製造の物的証拠はポーランドの遺跡(紀元前5500年頃)が最古で、メソポタミアには紀元前4000年頃の文献記録が残っています。フランスだけで1000種以上、世界では数千種が存在するとも言われています。詳しい種類は世界のチーズ64選|種類・産地・名前の語源を7タイプ別まとめをご覧ください。
まとめ
今回は世界の発酵食品を日本・東アジア・東南アジア・中東・アフリカ・ヨーロッパ・アメリカ大陸にわたって50種紹介しました。共通しているのは、「微生物の力で保存性を高め、旨みを引き出す」という人類共通の知恵です。納豆の糸引き、シュールストレミングの強烈な臭い、チチャの口噛み製法——それぞれの食文化が発酵食品に独自の個性を与えています。食卓で発酵食品を口にするとき、その背後にある歴史と科学に思いをはせてみてはいかがでしょうか。












