
世界の童話・おとぎ話には、グリム兄弟・アンデルセン・ペローが残した名作が多数あります。しかし現代に伝わるハッピーエンド版の多くは後世に改変されたもので、原作には驚くほど残酷な結末が存在します。本記事では代表的な世界の童話30選以上を作者別に一覧でまとめ、「本当の結末」もあわせて解説します。
グリム童話の名作一覧と原作の真実
グリム兄弟(ヤーコプ・グリム、ヴィルヘルム・グリム)は1812年にドイツで「子どもと家庭のメルヘン集(Kinder- und Hausmärchen)」を出版しました。民間伝承を収集・編纂したもので、初版には現在では削除された残酷な描写が数多く含まれていました。版を重ねるごとに内容がマイルドになっていき、現代に伝わるお話は原典とは大きく異なる場合があります。
← 横にスクロールできます →
| タイトル | 初出 | 有名なシーン |
|---|---|---|
| 白雪姫 | 1812年初版 | 毒リンゴ・七人のこびと |
| シンデレラ(灰かぶり) | 1812年初版 | ガラスの靴(グリム版は金の靴) |
| 赤ずきん | 1812年初版 | オオカミに食べられる |
| 眠れる森の美女 | 1812年初版 | 100年の眠り・王子のキス |
| ラプンツェル | 1812年初版 | 塔の上の長い金髪 |
| ヘンゼルとグレーテル | 1812年初版 | お菓子の家・魔女のオーブン |
| 蛙の王子様 | 1812年初版 | カエルが王子に変身 |
| ブレーメンの音楽隊 | 1819年第2版 | 動物たちの旅 |
| ルンペルシュティルツキン | 1812年初版 | 藁を金に紡ぐ小人 |
| オオカミと七匹の子ヤギ | 1812年初版 | 子ヤギをお腹に入れるオオカミ |
| 七羽のカラス | 1812年初版 | 7人の兄が烏に変えられる |
| 黄金鳥 | 1812年初版 | 不思議な黄金の鳥を探す旅 |
| 雪白と薔薇紅 | 1837年第3版 | 姉妹と熊が友達になる |
白雪姫(Schneewittchen)
現代版では継母が白雪姫の美しさに嫉妬して毒リンゴを食べさせる物語として知られています。グリム初版(1812年)では、嫉妬した女性は「継母」ではなく実の母親でした。後の版で「実の母が我が子を殺そうとする」という設定が問題視されて継母に変更されています。
また残酷な結末として知られるのが、継母への罰の場面です。グリム版では、白雪姫と王子の結婚式に継母が呼ばれ、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊り続けさせられるという刑を受けます。現代の絵本でこの場面は省かれることがほとんどですが、原典では義悪に対する容赦ない制裁として描かれています。
シンデレラ(灰かぶり / Aschenputtel)
グリム版のシンデレラは「灰かぶり(Aschenputtel)」という題名で、魔法使いもかぼちゃの馬車も登場しません。ガラスの靴ではなく金の靴で、継母から受け取ったのは魔法ではなく、母の墓の上の木に頼んだドレスです。
最も衝撃的な場面は義姉たちの末路です。靴に足を合わせるために、一人の義姉はかかとをナイフで切り落とし、もう一人は足の親指を切り落として靴を履こうとします。最後には鳩が二羽の義姉の目をくり抜き、生涯盲目のまま過ごすという残酷な結末を迎えます。
赤ずきん(Rotkäppchen)
グリム版では猟師がオオカミのお腹を裂いて赤ずきんとおばあさんを救出します。しかしペロー版(後述)では猟師が登場せず、赤ずきんもおばあさんも食べられたまま終わりというのが本来の結末でした。
民間伝承のもとになった口承版では、さらに残酷で、オオカミがおばあさんの血と肉を食べ物として赤ずきんに食べさせるという描写も存在します。これは当時の民話が子供を守るための警告として機能していたためで、オオカミは見知らぬ大人の危険を象徴していたと解釈されています。
眠れる森の美女(Dornröschen)
グリム版では王子のキスで100年の眠りから覚めるというシンプルな物語です。しかしペロー版(後述)にはこの後の続きがあり、王子の母親が鬼女で、孫にあたる赤ちゃんや若い王妃を食べようとする話が続きます。また現代以前に書かれたジャンバティスタ・バジーレの「太陽と月とタリア(1634年)」という最も古い原典では、眠れる美女は眠っている間に王に手籠にされ、眠ったまま出産するという内容です。
ラプンツェル(Rapunzel)
グリム初版(1812年)では、魔女の塔に閉じ込められたラプンツェルに王子が通い続けるうちに、ラプンツェルが妊娠してしまいます。これに気づいた魔女が「お腹が大きくなっているではないか」と問い詰める場面から魔女の発覚が描かれていました。後の版ではこの描写は削除され、現代版では王子との交流が発覚する設定に変更されています。
ヘンゼルとグレーテル(Hänsel und Gretel)
グリム初版(1812年)では、子供を森に捨てに行くのは実の両親(母親が主導、父親は従う)でした。後の版では実の母は死んで、子供を捨てるのは継母に変更されました。子供を捨てる行為が「継母の悪意」として処理されることで、実の親による子棄ての記述が緩和されました。
魔女の末路はどの版でも同じで、グレーテルが魔女をオーブンに突き落として焼き殺します。当時の民話における「悪に対する制裁」の典型的な表現です。
蛙の王子様(Der Froschkönig)
現代版では王女が蛙にキスをすると王子に戻るというお話として知られています。しかしグリム初版では、魔法を解く方法はキスではなく、蛙を壁に叩きつけることでした。王女が蛙を嫌がって壁に思い切り投げつけた瞬間に、蛙が王子に変身するという展開です。後の版でロマンティックなキスの場面に書き換えられました。
ルンペルシュティルツキン(Rumpelstilzchen)
名前を当てられた小人の末路は版によって異なりますが、グリム版では正体がばれた小人が怒り狂って自分で自分の体を真っ二つに引き裂くという描写が含まれています。憤怒で制御を失った存在の末路として、当時の民話らしい強烈な結末です。
アンデルセン童話の名作一覧と原作の真実
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805〜1875)はデンマークの作家で、民間伝承ではなく自身の創作として童話を書きました。グリム童話と異なり一人の作家の作品であるため、悲劇的な結末や死を直視する哲学的なテーマが多いのが特徴です。
← 横にスクロールできます →
| タイトル | 発表年 | 有名なシーン |
|---|---|---|
| 人魚姫 | 1837年 | 海の泡になって消える |
| マッチ売りの少女 | 1845年 | マッチの炎の幻 |
| 赤い靴 | 1845年 | 踊り続ける呪いの靴 |
| みにくいアヒルの子 | 1843年 | 白鳥に変身 |
| 親指姫 | 1835年 | 親指ほどの小さな女の子 |
| 雪の女王 | 1844年 | カイの救出 |
| 裸の王様 | 1837年 | 見えない服 |
| 錫の兵隊 | 1838年 | 片足の錫の兵隊 |
| ナイチンゲール | 1843年 | 本物の小鳥と機械の鳥 |
| 野の白鳥 | 1838年 | 11人の王子が白鳥に変身 |
人魚姫(Den lille havfrue)
ディズニー映画『リトル・マーメイド』では人魚姫がハッピーエンドを迎えますが、アンデルセンの原作では王子と結婚できず、海の泡になって消えてしまいます。
魔女と交わした契約の代償は声だけではなく、歩くたびにガラスの破片を踏むような激痛が続くというものでした。王子が別の姫と結婚することになった前夜、人魚姫の姉たちが魔女に髪を売って短剣を持ってきます。「夜明けまでに王子を刺せば人魚に戻れる」という選択を与えられますが、人魚姫は王子を刺せずに海の泡となります。最後は大気中を飛ぶ「大気の精」に昇華されるという、一種の救済が用意されています。
マッチ売りの少女(Den lille pige med svovlstikkerne)
寒い大晦日の夜、マッチを一本も売れなかった少女が路上で凍えながらマッチを擦り、炎の中に幻を見る物語です。祖母の幻を追いかけ、少女は夜明けに凍死して発見されます。「少女の顔は笑っていた」という最後の一文が知られています。幸福な幻の中で死んでいったことへの救いと、現実世界の残酷さが対比された作品です。
赤い靴(De røde sko)
カーレンという少女が赤い靴を履いたとたん踊り続けてしまい、教会にも葬式にも踊りながら行ってしまいます。呪いを止めるために、カーレンは斧で自分の足首から先を切断してもらいます。それでも切断された足と靴は踊り続けました。懺悔と改心によって最終的に許されますが、版によっては死が救済として描かれます。傲慢さへの代償を描いたアンデルセンの代表作の一つです。
錫の兵隊(Den standhaftige tinsoldat)
片足の錫の兵隊がバレリーナの人形に恋をする物語です。さまざまな冒険の末に暖炉の中に落ちた兵隊は溶けていきます。バレリーナの人形も炎の中に舞い込み、二つは一緒に燃え尽きます。残ったのはハート形の錫の塊だけ。悲哀と純粋さを描いた短編として知られています。
ペロー童話の名作一覧と原作の真実
シャルル・ペロー(1628〜1703)はフランスの詩人・官僚で、1697年に「過ぎし昔の物語ならびに教訓(Histoires ou contes du temps passé)」を出版しました。散文8篇・韻文3篇の計11篇で構成されており、これが「母のガチョウ物語」という名でも知られるペロー童話集の全貌です。以下に全11篇を一覧で紹介します。
← 横にスクロールできます →
| タイトル | 特徴 |
|---|---|
| 赤ずきん | 猟師なし、食べられて終わり(最古の改変版) |
| シンデレラ(サンドリヨン) | ガラスの靴・かぼちゃの馬車の元祖 |
| 眠れる森の美女 | 続きに義母(鬼女)が登場 |
| 長靴をはいた猫 | 詐欺と脅迫で成功した猫の話 |
| 青ひげ | 連続殺人犯と禁断の部屋 |
| 親指小僧 | 7人兄弟と食人鬼の館 |
| まき毛のリケ | 醜い王子と美しいが愚かな姫の交換条件 |
| 仙女たち | 親切な娘の口から花が、意地悪な娘の口からヒキガエルが |
| グリゼリディス | 韻文篇。夫に試され続ける辛抱強い妻の話 |
| ろばの皮 | 韻文篇。父王が娘を妻にしようとし、娘がロバの皮を被って逃げる |
| 愚かな願いごと | 韻文篇。3つの願いを無駄に使い尽くす滑稽な夫婦の話 |
青ひげ(La Barbe bleue)
青ひげはペローの代表作の中でも最も暗い内容で、青い髭の貴族男性が若い花嫁に「この鍵だけは使ってはいけない」と言い残して旅に出ます。花嫁が禁じられた部屋を開けると、そこには以前の妻たちの遺体が並んでいました。戻ってきた青ひげに「鍵が血まみれ」だと見破られ、殺されそうになりますが、花嫁の兄弟が駆けつけて青ひげを斬り殺します。「夫の言いつけを守らない女性への警告」とも解釈されてきましたが、現代では「連続殺人犯の話」として読まれています。
赤ずきん(Le Petit Chaperon rouge、ペロー版)
ペロー版の赤ずきんには救済がありません。猟師はどこにも登場せず、赤ずきんはオオカミに食べられて物語が終わります。教訓として「見知らぬ人についていってはいけない」というメッセージが末尾に添えられており、子供への警告話として機能していました。グリム版で後から猟師が追加され、助かる結末になりました。
眠れる森の美女(La Belle au bois dormant、ペロー版)
ペロー版にはグリム版にはない「第二部」が存在します。目覚めた姫は王子と結婚し子供をもうけますが、王子の母(姑)は人食いの鬼女でした。王子が戦地に赴いた後、義母は姫と孫たちを料理させようとします。最終的には義母は自分の命令した煮えたぎった鍋に落ちて死にますが、これはグリム版には含まれない話です。
その他の世界の童話
幸せな王子(The Happy Prince)
オスカー・ワイルド(1888年)によるイギリスの童話で、金箔と宝石で飾られた王子の像とツバメが協力して貧しい人々を助ける物語です。ツバメが渡りの時期を逃してしまい、ツバメは寒さで死に、像は醜くなったとして溶かされてしまいます。神は「最も尊いもの」を取ってくるよう天使に命じ、天使が王子の鉛の心臓と死んだツバメを持ってきます。美しさや名声の虚しさと、無私の愛という普遍的なテーマを描いています。
ピノキオ(Le avventure di Pinocchio)
カルロ・コッローディ(1881〜1883年)によるイタリアの童話です。ディズニー映画では嘘をつくと鼻が伸びる木の人形がジェペット爺さんと冒険するハートウォーミングな物語として描かれますが、原作ではピノキオは木の枝に吊るされて死ぬという場面(第1部の結末)がありました。これは新聞の連載として一度終わった結末で、読者の反響から続きが書かれ、最終的には人間になるという結末になっています。また原作のコオロギは物語の序盤でピノキオに木槌で潰されて死ぬという場面があります。
イソップ寓話(Aesopica)
古代ギリシャ起源とされる寓話集で、動物たちが登場する短篇の教訓話として知られています。「アリとキリギリス」「ウサギとカメ」「狐と葡萄」などが代表作です。日本では「アリとキリギリス」のラストはキリギリスが「歌い明かした夏の報いだ」と反省する形が一般的ですが、古いバージョンの多くでは、アリが「冬の間は踊るがいい」と門前払いにしてキリギリスが餓え死ぬという終わり方です(諸説あり)。
千夜一夜物語(アラビアンナイト)
中世アラビア語で書かれた説話集で、アラジン・アリ・ハシム・アリババと40人の盗賊・船乗りシンドバードなどが収録されています。シェヘラザードが王に毎晩物語を語り続けるという枠組みがあります。現代では「アラジン」「アリババと40人の盗賊」が有名ですが、成立の時代が長く、17〜18世紀の欧州人による「翻訳・翻案」が加えた話も多く含まれています。
なぜ原作の童話は残酷だったのか
世界の童話が現代より残酷だった理由として、いくつかの解釈があります。
社会的警告の機能として、童話は危険な行動(見知らぬ人についていく・禁を破る)への警告として機能していました。赤ずきんの「猟師が来ない」結末も、「知らない人についていったらどうなるか」という残酷な教訓です。
口承文化の特徴として、民間で語り継がれた話は語り手によって変化し、時に過激な表現が含まれていました。グリム兄弟は「民話の収集」として記録しましたが、当初は忠実な記録を目指しており、残酷な場面も原典通りに書いています。
子供観の違いも理由の一つで、かつての社会では子供も労働力であり、幼い頃から死や貧困・暴力に接していました。現代のように子供を保護する考え方が広まるにつれ、童話もマイルドに改変されていきました。
まとめ
世界の童話・おとぎ話は、グリム・アンデルセン・ペローそれぞれ異なるスタイルと時代背景を持っています。グリムは民間伝承の収集、アンデルセンは個人の創作、ペローは宮廷向けの教訓話という違いがあります。共通するのは、「危険への警告」「悪への制裁」「教訓の伝達」という機能で、これが時代と場所を超えて語り継がれてきた理由です。原作の残酷な部分にこそ物語の本質が宿っており、語り継がれる意味も理解できます。童話の背景にある神話世界に興味がある方は、世界の神話に登場する創世神話まとめや日本の昔話75選もあわせてご覧ください。