
「し」は shi か si か、「つ」は tsu か tu か——日本語のローマ字には複数の方式があり、場面によって書き方が変わります。パスポートの名前、道路標識、学校のプリント……実はそれぞれ採用している方式が違います。本記事ではヘボン式・訓令式・日本式の3つの違いと、どこでどの方式が使われているのかをまとめました。ページ内のツールで実際に変換して確認してみてください。
ローマ字の3つの方式
日本語のローマ字には、主に3つの方式があります。
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| 方式 | 制定・起源 | 特徴 |
|---|---|---|
| ヘボン式(Hepburn式) | 1867年、米国人宣教師ジェームス・カーティス・ヘボンが日本語辞書に採用 | 英語話者が自然に読みやすい表記が多い |
| 訓令式(内閣訓令式) | 1937年(昭和12年)、日本政府が内閣訓令として制定 | 五十音の行・段を規則的にアルファベットへ対応 |
| 日本式 | 1900年代初頭に成立。訓令式の前身 | 訓令式と近いが一部異なる(じ→zi、ぢ→di など) |
現在の実用上は「ヘボン式か訓令式か」を意識すれば十分です。日本式は訓令式にほぼ吸収されており、単独で使われる機会はほとんどありません。
ヘボン式・訓令式の違い一覧
2つの方式で表記が異なる主な文字をまとめました。
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| かな | ヘボン式 | 訓令式 |
|---|---|---|
| し | shi | si |
| ち | chi | ti |
| つ | tsu | tu |
| ふ | fu | hu |
| じ | ji | zi |
| ぢ | ji | di |
| づ | zu | du |
| しゃ | sha | sya |
| しゅ | shu | syu |
| しょ | sho | syo |
| ちゃ | cha | tya |
| ちゅ | chu | tyu |
| ちょ | cho | tyo |
| じゃ | ja | zya |
| じゅ | ju | zyu |
| じょ | jo | zyo |
あ行・か行・な行・ま行・や行・ら行・わ行など、上記に含まれない文字はどちらの方式でも同じ表記になります。
使われる場面と使い分け
パスポート・旅券(外務省・ヘボン式)
パスポートの氏名表記はヘボン式が原則です。外務省の規定により、戸籍の氏名をヘボン式ローマ字で記載することが求められています。
「たなか しんいち」さんは TANAKA SHINICHI となり、訓令式の SINITI にはなりません。また、長音(伸ばす音)はパスポートでは原則として省略されます。「さとう」さんは SATOU ではなく SATO、「おおの」さんは OONO ではなく ONO という具合に、O や U の長音が簡略化されます。
道路標識・地図(ヘボン式)
道路の案内標識(地名の表記)は、1986年の「道路標識設置基準」改定以降、ヘボン式を採用しています。外国人旅行者が自然に読めることを重視した結果です。
渋谷 → SHIBUYA、新宿 → SHINJUKU、秋葉原 → AKIHABARA がおなじみの例です。
学校教育(訓令式→ヘボン式へ移行中)
これまで小学校の国語では訓令式が教えられてきました。五十音の規則と対応させやすく、体系的に学びやすいためです。
しかし2025年8月、文化審議会国語分科会が「訓令式からヘボン式に改めることが適当」と文部科学大臣に答申しました。これを受けて2026年度(2026年4月)から、小学校の国語でもヘボン式への移行が進んでいます。パスポートや道路標識がすでにヘボン式を採用している現状に合わせ、実用性を優先した変更です。
特殊なルール:撥音・促音・長音の表記
撥音「ん」の表記
ヘボン式の場合: 「ん」の直後に b・m・p の音が来るときは、n ではなく m に変わります。
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| 単語 | ヘボン式 | 訓令式 |
|---|---|---|
| しんぶん(新聞) | shimbun | sinbun |
| さんぽ(散歩) | sampo | sanpo |
| さんまい(三枚) | sammai | sanmai |
訓令式の場合: 「ん」は常に n で統一されます。
促音「っ」の表記
「っ」は直後の子音を重ねます(ヘボン式・訓令式共通)。ただしヘボン式で「っ」の後が ch になる場合だけ、cc ではなく t を前に置きます。
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| 単語 | ヘボン式 | 訓令式 |
|---|---|---|
| まっちゃ(抹茶) | mattcha | mattya |
| きって(切手) | kitte | kitte |
| はっぱ(葉っぱ) | happa | happa |
「matcha」が世界的に普及しているのは、このヘボン式のルールによるものです。
長音の表記
長音の処理は方式・場面によって異なります。
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| 場面 | 表記方法 | 例 |
|---|---|---|
| ヘボン式(学術・文献) | 上線(マクロン)ō / ū | tōkyō |
| パスポート | 長音符号を省略(例外あり) | おおの → ONO |
| 道路標識 | 長音符号なし・省略または ou 表記 | とうきょう → TOKYO |
ローマ字変換ツール
ひらがな・カタカナをヘボン式・訓令式のローマ字に変換できます。
腕試しクイズ(全5問)
ローマ字表記のルールを確認してみましょう。
まとめ
ヘボン式と訓令式、どちらが「正しい」ということはなく、場面によって使い分けられています。
- パスポート・道路標識・国際文書 → ヘボン式
- 〜2025年度の学校教育 → 訓令式(2025年度まで)
- 2026年度以降の学校教育 → ヘボン式(移行中)
- IT・プログラミングの慣習 → ヘボン式が主流
2026年度の学校教育への移行により、社会全体でヘボン式への統一が着実に進んでいます。日本語の文字や表記に興味があれば、国字(和製漢字)一覧|働・峠・込など日本で作られた漢字まとめもあわせてどうぞ。