GX-ETSとカーボンクレジットとは|2026年度義務化の仕組みを解説

2026年4月、日本に大きな制度変更が起きました。温室効果ガスの削減を「取引」によって促すGX-ETS(排出量取引制度)の第2フェーズが本格稼働し、年間CO2排出量10万トン以上の大手企業約300〜400社に排出枠の保有が初めて義務付けられたのです。耳慣れない「カーボンクレジット」「J-クレジット」という言葉もセットで話題になっています。この記事では、2026年9月時点の最新情報をもとに、制度の仕組みをわかりやすく解説します。

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GX-ETSとは|排出量を「売り買い」する日本版制度

排出量取引(ETS)の基本的な考え方

排出量取引制度(Emissions Trading System、ETS)は、CO2などの温室効果ガスの削減を「市場の力」で促す仕組みです。政府がまず各企業に「排出してよい量(排出枠)」を割り当て、上限を超えた企業は余剰分を持つ企業から枠を買い、削減した企業は余った枠を売れます。

このとき、排出枠の売買に値段(カーボンプライス)がつきます。価格が高くなるほど削減技術への投資が経済的に有利になる、という仕組みです。「温室効果ガスを減らすと経済的な利益になる」という動機づけを、外部から強制するのではなく市場メカニズムで生み出す点が特徴です。

世界では2005年に始まったEU-ETS(欧州連合排出量取引制度)が最大の市場で、2026年第1四半期のCBAM(炭素国境調整メカニズム)参照価格は1トンあたり75.36ユーロ(約1万2,000円)でした。日本のGX-ETSはこのEU-ETSをモデルに構築されました。

GX推進法の成立とGX-ETSの法的根拠

2025年5月28日、改正GX推進法(グリーントランスフォーメーション推進法)が参院本会議で可決・成立しました。これにより、GX-ETSの制度の法的根拠が明確化され、2026年4月の第2フェーズ本格稼働への道筋がつきました。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、石炭・石油などの化石燃料から再生可能エネルギーや水素・アンモニアなどのクリーンエネルギーへ経済・社会全体を移行させるプロセスのことです。政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、GXを日本の産業競争力強化の鍵と位置づけています。

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第1フェーズから第2フェーズへ|何が変わったか

GX-ETSは2段階で導入されました。

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フェーズ 期間 主な特徴
第1フェーズ 2023〜2025年度 自主参加・任意の排出削減目標
第2フェーズ 2026年度〜 義務化・排出枠保有の法的義務
有償オークション 2033年度〜 発電部門への段階的導入予定

第1フェーズ(2023〜2025年度)では、GXリーグに参加を表明した企業が自主的に削減目標を設定し、排出枠を取引するという「自主参加型」でした。参加の義務はなく、削減目標を達成できなくても法的制裁はありませんでした。

第2フェーズ(2026年度〜)からは、対象要件を満たす企業への参加が法律上義務となりました。毎年度の排出実績と同量の排出枠を期限までに保有することが求められ、未達の場合は是正措置が発動されます。

2026年度(初年度)の特別スケジュール:
- 年度移行計画・排出量の届出期限:2026年9月30日
- 排出目標量の届出・排出枠の割当:2027年度に実施
- 本格的な取引と清算義務:2027年度以降が通常スケジュール

義務化の対象企業と条件【2026年度時点】

対象企業の閾値

対象となるのは、前年度までの直近3カ年度平均でCO2直接排出量が年間10万トン以上の事業者(法人単体)です。

この「年10万トン」はどれくらいの規模か、具体的にイメージしてみましょう。

  • 一般家庭のCO2排出量は年間約4〜6トン程度(1世帯あたり)
  • 10万トン=約1万7,000〜2万5,000世帯分の年間排出量に相当
  • 大型の製鉄所や火力発電所、セメント工場などがこの規模に当たります

対象事業者は約300〜400社と推定されており、日本全体の温室効果ガス排出量の約60%をカバーする計算になります。対象業種としては、製造業(鉄鋼・化学・セメント)、電力・ガス、石油精製などが主な対象です。

排出枠の割当方法と価格帯

政府は各企業に「ベンチマーク方式」で排出枠を割り当てます。ベンチマークとは「業界の上位32.5%に相当する排出効率」を指し、2030年度時点でこの水準に到達することが目標として設定されています。

排出枠取引に参加する際の価格には、市場安定のために上限価格(4,300円/トン)下限価格(1,700円/トン)が設けられています。EU-ETSの炭素価格と比べると現時点では低い水準ですが、制度が成熟するにつれて引き上げる方向で議論が進んでいます。

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カーボンクレジットとは|「削減の証明書」

カーボンクレジットの基本

カーボンクレジットとは、温室効果ガスの削減量や吸収量を「クレジット(証明書)」として数値化したものです。削減活動を行った主体がクレジットを発行し、削減義務を持つ企業や個人に売却できます。

GX-ETSでは、政府が割り当てた排出枠(アローワンス)に加えて、一定の条件を満たした「適格カーボンクレジット」を不足分の補填に使えます。2026年9月時点で、GX-ETSで使える適格カーボンクレジットは以下の2種類のみとされています。

  1. J-クレジット制度
  2. JCM(二国間クレジット制度)

J-クレジット制度とは

J-クレジット(Japan Credit)は、国が認証する日本独自のカーボンクレジット制度です。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用、森林管理などで削減・吸収した温室効果ガスをクレジットとして国が認証し、売買できるようにしたものです。

J-クレジットの特徴:
- 認証機関:農林水産省・経済産業省・環境省が共同運営
- 対象活動:再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力)、省エネ機器導入、森林吸収など
- 1クレジット=CO2換算1トンの削減・吸収量に相当

中小企業や農家、自治体も参加でき、削減活動を行えばクレジットを売って収益を得られるため、脱炭素への裾野が広がる効果が期待されています。

JCM(二国間クレジット制度)とは

JCM(Joint Crediting Mechanism)は、日本と途上国が協力して温室効果ガスを削減し、削減量を両国で分け合う二国間協定です。日本が省エネ・再生可能エネルギー技術を途上国へ提供し、そこで生まれた削減量の一部を日本のクレジットとして認定します。2026年4月時点で32か国との間で協定が締結されています。

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カーボンプライシングとGX-ETS|税か取引か

温室効果ガスに値段をつける政策(カーボンプライシング)には大きく2つのアプローチがあります。

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方式 仕組み 特徴
炭素税 CO2排出量に比例して課税 排出量を予測しやすい
排出量取引(ETS) 排出枠を市場で売買 削減目標達成が確実

日本では2012年から「地球温暖化対策税(炭素税)」が導入されており、1トンあたり289円という低い水準です。GX-ETSはこれと並行して大手企業に義務付けられる排出量取引であり、2つの制度が共存しています。

EUでは排出量取引制度(EU-ETS)が2005年から運用されており、2024年から海運への段階的拡大(2026年に100%適用)も開始されています。日本のGX-ETSは、このEU-ETSの設計を参考に構築されました。

2033年の有償オークションへ向けた段階的アプローチ

2033年度からは、発電事業者を対象に排出枠の有償オークションが導入される予定です。有償オークションとは、これまで無償で配られていた排出枠を政府がオークション(競売)で売り出す仕組みで、企業が排出枠を「お金を出して買う」形になります。EU-ETSではすでにこの方式が主流となっており、排出量削減への圧力が強まります。

GX-ETSのロードマップ(2026年9月時点):

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時期 内容
2025年5月 改正GX推進法 参院可決・成立
2026年4月 第2フェーズ本格稼働・義務化開始
2026年9月 初年度の排出量・移行計画の届出期限
2027年度 排出枠の本格割当・清算サイクル開始
2030年度 ベンチマーク目標(業界上位32.5%水準)の達成期限
2033年度 発電部門への有償オークション導入予定
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まとめ

GX-ETSは2026年4月に本格稼働し、年間CO2排出量10万トン以上の約300〜400社(日本全体の排出量の約60%)を対象とした排出量取引が義務化されました。改正GX推進法(2025年5月成立)に基づき、対象企業は排出実績と同量の排出枠を毎年保有することが法的に求められます。

不足分を補う手段として、J-クレジットやJCMなどの「適格カーボンクレジット」が活用でき、小規模な削減活動も市場に参加できる仕組みが整いつつあります。2033年度には発電部門への有償オークション導入が予定され、日本の炭素市場は段階的に欧州型へ近づいていく見通しです。

脱炭素に向けたエネルギーシステムの転換については、再生可能エネルギーの種類一覧|太陽光・風力・地熱など27種まとめも参照ください。

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参考・出典

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