
金属は素材のままでは錆びやすく、傷つきやすいという弱点があります。それを補うのが表面処理です。金属部品の表面にだけ必要な機能(防錆・耐摩耗・硬化・装飾)を付与し、素材を丸ごと変えずにコストを抑える製造技術です。本記事では、除去加工・めっき・アルマイト・塗装・窒化・溶射など、金属の表面処理56種を分類別の一覧テーブルで解説します。
表面処理の目的と大分類
金属の表面処理は大きく3系統に分類されます。
- 除去加工:汚れ・酸化膜・スケールを取り除いて素地を整える
- 被覆加工(付加加工):金属・塗料・樹脂などの膜を表面に付ける
- 表面変質処理:素材の表層の組織・化学成分を変えて硬化などを行う
多くの場合、除去加工で素地を整えてから被覆加工・表面変質処理を施します。
目的の例
← 横にスクロールできます →
| 目的 | 主な処理方法 |
|---|---|
| 防錆・防食 | 亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、クロメート処理、塗装 |
| 耐摩耗・表面硬化 | 硬質クロムめっき、DLC、窒化処理、高周波焼入れ |
| 装飾・外観 | 装飾クロムめっき、アルマイト着色、粉体塗装 |
| 非粘着・耐熱 | フッ素コーティング、セラミック溶射 |
| 電気的特性 | 金めっき、銀めっき、無電解銅めっき |
除去加工・前処理の種類
被覆加工の前に素材表面を整える工程です。前処理の品質が仕上がりを左右します。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| バフ研磨 | 光沢・平滑化 | ステンレス・アルミ・銅 | 布ホイールで磨き鏡面仕上げも可能 |
| ヘアライン加工 | 均一な研磨目 | ステンレス・アルミ | 研磨ベルトで細かい一方向の目を入れる装飾仕上げ |
| 電解研磨 | 光沢・微細バリ取り | ステンレス・アルミ | 電解液中で電気化学的に溶解し平滑化する |
| ショットブラスト | 錆落とし・素地調整 | 鉄・ステンレス・アルミ | 金属球(ショット材)を高速投射して表面を処理 |
| サンドブラスト | 汚れ・旧塗膜・錆除去 | 鉄・アルミ・樹脂 | 砂・アルミナ等の研磨材を圧縮エアで吹き付ける |
| 酸洗い(エッチング) | 酸化膜・スケール除去 | 鉄・ステンレス | 酸溶液に浸漬し不純物や酸化膜を化学的に溶解 |
めっき処理の種類
金属の表面に別の金属の薄膜を形成する方法です。防錆・装飾・機能付与の主力工法で、方式によって電解・無電解・溶融・乾式に分かれます。
電解めっき(電気めっき)
電気を流して金属イオンを析出させます。均一な膜厚が得やすく、量産向きです。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 亜鉛めっき | 防錆 | 鉄・鋼 | 最も普及。犠牲防食作用で鉄を守る安価な選択肢 |
| ニッケルめっき | 耐食・耐摩耗・装飾 | 鉄・銅・アルミ | 硬く光沢があり、クロムの下地めっきとしても使用 |
| 硬質クロムめっき | 耐摩耗・硬度向上 | 鉄・ステンレス | Hv800超の高硬度。金型・シリンダーロッドに使用 |
| 装飾クロムめっき | 光沢装飾・防錆 | 鉄・銅・亜鉛ダイキャスト | 薄膜で高い光沢感。自動車バンパー・水栓金具に |
| 銅めっき | 導電性・下地 | 鉄・プラスチック | 導電性が高い。はんだ付け性改善・下地層として使用 |
| 金めっき | 導電性・耐食・装飾 | 銅・ニッケル下地 | 導電性と耐腐食性に優れる。電子部品・コネクターに |
| 銀めっき | 導電性・抗菌 | 銅・ニッケル下地 | 熱・電気伝導性が金属中最高クラス。食器・端子に |
| 錫めっき(スズめっき) | 耐食・はんだ性 | 銅・鉄 | 毒性が低く食品容器(缶詰)・電子部品に広く使用 |
| 亜鉛ニッケル合金めっき | 高耐食防錆 | 鉄・鋼 | 亜鉛めっきの3〜5倍の耐食性。自動車部品に普及 |
無電解めっき(化学めっき)
電気を使わず化学反応で金属を析出させます。複雑形状にも均一に付着するのが特長です。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 無電解ニッケルめっき | 耐摩耗・硬度・耐食 | 鉄・アルミ・樹脂など非導電体も可 | 均一膜厚・複雑形状に有効。Hv500〜700(熱処理で800以上も可) |
| 無電解銅めっき | 導電性付与 | 非導電体(樹脂・プラスチック) | プリント基板(PCB)の下地層として広く使用 |
溶融めっき
溶かした金属に素材を浸漬して被膜を形成します。厚い皮膜で強い防食効果があります。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 溶融亜鉛めっき(ドブ漬け) | 高耐食防錆 | 鉄・鋼(建築構造材) | 溶融亜鉛に浸漬。橋梁・鉄骨・電柱・フェンスに |
| 溶融アルミニウムめっき | 耐熱・耐食 | 鉄・鋼 | 高温環境での酸化を抑制。排気管・マフラーに使用 |
陽極酸化(アルマイト)の種類
アルミニウムを電解液の中で陽極として処理し、表面に酸化被膜(アルミナ)を人工的に形成します。めっきとは異なり素材表面を変質させるのが特徴です。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 普通アルマイト | 耐食・装飾 | アルミニウム全般 | 5〜25μmの酸化被膜。染料着色も可能 |
| 硬質アルマイト | 耐摩耗・高硬度 | アルミニウム合金 | 厚膜(25〜100μm)でHv400前後。摺動部品に |
| 着色アルマイト(染色) | 装飾・識別 | アルミニウム | 多孔質の酸化被膜に染料を浸透させて着色 |
| 電解着色アルマイト | 耐光性の高い着色 | アルミニウム | 無機顔料(錫・コバルト等)で着色。日光に強い |
化成処理の種類
化学反応で金属表面に不動態皮膜(酸化物・リン酸塩など)を形成します。前処理・防錆・塗装密着向上を目的に使われます。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| リン酸塩処理(パーカライジング) | 塗装下地・防錆 | 鉄・亜鉛 | リン酸塩皮膜で塗料の密着性と防食性が向上 |
| クロメート処理 | 防錆・密着性 | 亜鉛・アルミ | 亜鉛めっき後の後処理として広く使用 |
| 黒染め処理(アルカリ黒染め) | 防錆・外観 | 鉄・鋼 | 四三酸化鉄の黒膜。薄くて寸法変化が少ない |
| ジンケート処理 | アルミへのめっき下地 | アルミニウム | アルミ表面に亜鉛置換膜を形成し、めっき可能にする |
| ベーマイト処理 | 耐食・密着下地 | アルミニウム | 熱湯・蒸気処理でアルミ表面にアルミナ水和物を形成 |
| クロムフリー化成処理 | 防錆(環境対応) | アルミ・亜鉛 | 六価クロムを使わないRoHS対応の化成処理 |
塗装の種類
有機系皮膜を金属表面に塗布して保護・装飾します。色彩の自由度が高く、幅広い素材に適用できます。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 液体塗装(スプレー塗装) | 防食・装飾 | 鉄・アルミ・樹脂 | 最も汎用的。色調・光沢の自由度が高い |
| 焼付塗装 | 耐久性・密着性向上 | 鉄・アルミ | 塗布後に加熱硬化。家電・自動車外板に多用 |
| 粉体塗装 | 環境対応・厚膜 | 鉄・アルミ | 粉末樹脂を静電吸着し加熱硬化。VOC排出なし |
| カチオン電着塗装 | 防食・均一塗装 | 鉄・自動車ボディ | 電気泳動で全面均一に付着。自動車下回り・車体に |
| 静電塗装 | 塗着率向上 | 金属全般 | 静電気でエッジ部まで均一に塗布。ロスが少ない |
| フッ素コーティング(テフロン) | 非粘着・耐熱・耐薬品 | 鉄・アルミ・鋼 | PTFEを主成分。フライパン・コンベア・金型に |
乾式めっき・硬質コーティングの種類
真空中で薄膜を成膜する技術です。精密部品・工具向けの高性能硬質皮膜として使われます。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| PVD(物理気相成長法) | 硬度・耐摩耗・外観 | 金型・工具・装飾部品 | スパッタリング・イオンプレーティング等。低温処理可 |
| CVD(化学気相成長法) | 硬質膜・耐熱 | 超硬工具 | 化学反応で成膜。高温処理が多い |
| DLCコーティング | 超硬度・低摩擦 | 精密部品・工具・摺動部 | ダイヤモンドライクカーボン。Hv2000〜9000 |
| TiNコーティング(窒化チタン) | 耐摩耗・装飾 | ドリル・エンドミル | 金色の硬質皮膜。工具寿命を延ばす |
| TiAlNコーティング | 高温耐摩耗 | 超硬工具 | 高速・乾式切削に適した高温硬度を持つ |
| AlCrNコーティング | 高温耐酸化 | 成形金型 | 600℃以上でも安定した硬さを維持 |
| CrNコーティング(窒化クロム) | 耐食・耐摩耗 | プラスチック金型 | 耐腐食性が高くプラ金型の長寿命化に貢献 |
窒化処理・熱拡散処理の種類
高温で窒素や炭素を金属表層に浸透させて硬化させます。寸法変化が小さく精密部品に向きます。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ガス窒化 | 表面硬化・耐摩耗 | 合金鋼・工具鋼 | アンモニアガス中で窒素を浸透させる。変形が少ない |
| イオン窒化(プラズマ窒化) | 表面硬化・精密制御 | 合金鋼・ステンレス | プラズマを使用し処理ガスを精密制御できる |
| 塩浴窒化(タフトライド・デグサ) | 耐摩耗・耐疲労 | 炭素鋼・工具鋼 | 塩浴中で窒化+硫化処理。摺動部品に多用 |
| 軟窒化(ガス軟窒化) | 耐摩耗・耐疲労 | 炭素鋼・鋳鉄 | 窒素と炭素を同時浸透。汎用材にも適用可 |
| 浸炭処理 | 表面硬化・靭性維持 | 低炭素鋼 | 炭素を浸透させ表層だけ硬化。歯車・軸受けに多用 |
| 浸炭窒化処理 | 高耐摩耗 | 低炭素鋼・合金鋼 | 炭素と窒素を同時浸透。浸炭より高い硬度を得る |
溶射の種類
溶かした材料を高速で基材に吹き付けて被膜を形成します。広面積・現地施工が可能なのが特長です。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| フレーム溶射 | 防食・補修 | 鉄・アルミ構造体 | 酸素/燃料炎で材料を溶融して吹き付ける。コスト低 |
| アーク溶射 | 防食・防着 | 鉄構造物・橋梁 | 電気アークで溶射。厚膜かつ広面積の施工に向く |
| プラズマ溶射 | 高硬度・耐熱 | タービン・航空部品 | 高温プラズマで高融点セラミック等を溶射 |
| HVOF溶射(高速フレーム溶射) | 超高密着・耐摩耗 | 精密機械・石油機器 | 高速吹き付けで高密度膜。ポロシティが低い |
| コールドスプレー | 酸化なし・導電膜 | 銅・アルミ・基板 | 固体粒子を超音速投射。酸化を伴わない成膜 |
表面硬化熱処理の種類
素材の表層だけを加熱・急冷して硬化させます。内部の靭性を保ちながら表面硬度を高めます。
← 横にスクロールできます →
| 処理名 | 目的・効果 | 主な適用材料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 高周波焼入れ | 表面硬化・耐摩耗 | 炭素鋼・合金鋼 | 誘導加熱で局部加熱→急冷。歯車・シャフトに多用 |
| レーザー焼入れ | 精密・局所硬化 | 炭素鋼・合金鋼 | レーザーで極小範囲を焼入れ。熱変形が極めて小さい |
| 火炎焼入れ | 大型部品の表面硬化 | 炭素鋼 | バーナーで加熱→急冷。大型ギヤ・ローラーに使用 |
加工シリーズ
素材ごとの加工・表面処理一覧シリーズです。
腕試しクイズ(全5問)
金属の表面処理の知識を確かめましょう。
まとめ
金属の表面処理には、除去加工・めっき・アルマイト・化成処理・塗装・窒化・溶射・熱処理など、多様な方法があります。防錆・耐摩耗・装飾・電気特性など目的に合わせて選ぶことが大切です。今回は56種の処理を分類別に整理しました。設計・製造・調達の際の参考にしてみてください。