
「橋本病」「アルツハイマー病」「川崎病」——これらは発見した医師の名前がついた病気です。医学では、発見者の名前を冠した病名・症候群を「エポニム(eponym)」と呼びます。19〜20世紀の近代医学の発展とともに世界中で命名が行われ、日本人医師が発見した疾患も数多くあります。この記事では、日本人発見26件+世界の人名由来84件、合計110件の病名・症候群を診療科別テーブルで一覧化し、命名の背景や発見エピソードもあわせてまとめました。
※本記事は病名・症候群の由来と命名の歴史を扱うものです。医学的な診断・治療情報の提供は目的としていません。
人名がついた病気「エポニム」とは
エポニム(eponym)とは、発見者・最初に記載した医師・研究者の名前を冠した病名や症候群のことです。18〜20世紀にかけて近代医学が体系化される過程で、学術誌に疾患を報告した医師の名前が付けられる慣習が定着しました。
一つの疾患に複数のエポニムがつくこともあります。たとえば甲状腺機能亢進症は、日本では「バセドウ病」(ドイツ人医師バセドウの名から)、英語圏では「グレーブス病」(アイルランド人医師グレーブスの名から)と呼ばれています。同じ疾患に複数の人名が使われているのは、発見が異なる国・異なる医師によって独立して行われたためです。
近年は、一部のエポニムが国際疾患分類(ICD)に基づく病態名に移行しつつありますが、日常的な医療・研究用語としてエポニムは今も広く使われています。また普通名詞になった人名66選で解説しているように、医学以外でも人名が一般語化している例は多くあります。
日本人の名前がついた病気・症候群一覧
日本人医師・研究者が発見・記載した病気・症候群の一覧です(26件)。
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 発見年頃 | 専門分野 |
|---|---|---|---|
| 橋本病(橋本甲状腺炎) | 橋本策 | 1912年 | 外科 |
| 川崎病 | 川崎富作 | 1967年 | 小児科 |
| 高安動脈炎(高安病) | 高安右人 | 1908年 | 眼科 |
| フォークト・小柳・原田病 | 原田義次ほか | 1926年 | 眼科 |
| 平山病 | 平山惠造 | 1959年 | 神経内科 |
| 三好ミオパチー | 三好一哉 | 1981年 | 神経内科 |
| 福山型先天性筋ジストロフィー | 福山幸夫 | 1960年 | 小児神経 |
| 菊池病(菊池壊死性リンパ節炎) | 菊池昌弘 | 1972年 | 病理 |
| 木村病 | 木村卓 | 1948年 | 外科 |
| 太田母斑 | 太田正雄 | 1938年 | 皮膚科 |
| 伊藤母斑(伊藤色素減少症) | 伊藤眞次郎 | 1954年 | 皮膚科 |
| クロウ-深瀬症候群(POEMS症候群) | 深瀬満 | 1956年 | 内科 |
| 那須-ハコラ病 | 那須重成 | 1973年 | 内科 |
| 葛西手術 | 葛西森夫 | 1959年 | 外科 |
| 岡崎フラグメント | 岡崎令治・恒子 | 1968年頃 | 生化学 |
| 横川吸虫(横川吸虫症) | 横川定 | 1911年 | 寄生虫学 |
| ミツダ反応 | 光田健輔 | 1919年 | 皮膚科 |
| 瀬川病(瀬川ジスキネジア) | 瀬川昌也 | 1976年 | 小児神経 |
| 垂井病 | 垂井清一郎 | 1957年 | 神経内科 |
| 里吉病 | 里吉営二郎 | 1950年代 | 神経内科 |
| 北村ミオパチー | 北村精一 | 1960年代 | 神経内科 |
| 大野症候群 | 大野精七 | 1970年代 | 眼科 |
| 長谷川式認知症スケール | 長谷川和夫 | 1974年 | 精神科 |
| 内田クレペリン精神作業検査 | 内田勇三郎 | 1929年 | 心理学 |
| 田中ビネー知能検査 | 田中寛一 | 1947年 | 心理学 |
| 森田療法 | 森田正馬 | 1919年 | 精神科 |
世界の人名がついた病気・症候群一覧
神経・精神科系(19件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| アルツハイマー病 | アロイス・アルツハイマー | ドイツ | 1906年 |
| パーキンソン病 | ジェームズ・パーキンソン | イギリス | 1817年 |
| ハンチントン病 | ジョージ・ハンチントン | アメリカ | 1872年 |
| ギラン・バレー症候群 | ジョルジュ・ギラン+ジャン・バレー | フランス | 1916年 |
| トゥレット症候群 | ジョルジュ・ジル・ド・ラ・トゥレット | フランス | 1885年 |
| クロイツフェルト・ヤコブ病 | H.G.クロイツフェルト+A.ヤコブ | ドイツ | 1920年代 |
| シャルコー・マリー・トゥース病 | シャルコー+マリー+トゥース | 仏・英 | 1886年 |
| レット症候群 | アンドレアス・レット | オーストリア | 1966年 |
| アスペルガー症候群 | ハンス・アスペルガー | オーストリア | 1944年 |
| ミュンヒハウゼン症候群 | R.アッシャー(男爵の名から命名) | イギリス | 1951年 |
| ウエスト症候群 | ウィリアム・J・ウエスト | イギリス | 1841年 |
| レノックス・ガストー症候群 | W・レノックス+C・ガストー | 米・仏 | 1950年代 |
| ランドウ・クレフナー症候群 | A・ランドウ+F・クレフナー | アメリカ | 1957年 |
| ベル麻痺 | チャールズ・ベル | イギリス | 1821年 |
| ウェルニッケ脳症 | カール・ウェルニッケ | ドイツ | 1881年 |
| ラムゼー・ハント症候群 | J・ラムゼー・ハント | アメリカ | 1907年 |
| ホルネル症候群 | ヨハン・F・ホルネル | スイス | 1869年 |
| スタージ・ウェーバー症候群 | W・スタージ+F・ウェーバー | イギリス | 1879年 |
| ストックホルム症候群 | N・ベイエロット(事件を基に命名) | スウェーデン | 1973年 |
内分泌・代謝・遺伝系(22件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| バセドウ病 | カール・A・F・フォン・バセドウ | ドイツ | 1840年 |
| グレーブス病(バセドウ病と同じ疾患) | ロバート・グレーブス | アイルランド | 1835年 |
| アジソン病 | トーマス・アジソン | イギリス | 1855年 |
| クッシング症候群 | ハーヴェイ・クッシング | アメリカ | 1912年 |
| ウィルソン病 | S・キニア・ウィルソン | イギリス | 1912年 |
| ゴーシェ病 | フィリップ・C・ゴーシェ | フランス | 1882年 |
| ポンペ病 | ヨハネス・C・ポンペ | オランダ | 1932年 |
| ニーマン-ピック病 | A・ニーマン+L・ピック | ドイツ | 1914年 |
| テイ・サックス病 | W・テイ+B・サックス | 英・米 | 1880年代 |
| ファブリー病 | ヨハネス・ファブリー | ドイツ | 1898年 |
| マルファン症候群 | アントワーヌ・マルファン | フランス | 1896年 |
| フォン・ヒッペル・リンドウ病 | E・フォン・ヒッペル+A・リンドウ | 独・瑞 | 1920年代 |
| アルポート症候群 | アーサー・アルポート | イギリス | 1927年 |
| シーハン症候群 | ハロルド・シーハン | イギリス | 1937年 |
| ダウン症候群 | J・ラングドン・ダウン | イギリス | 1866年 |
| ターナー症候群 | ヘンリー・ターナー | アメリカ | 1938年 |
| クラインフェルター症候群 | ハリー・クラインフェルター | アメリカ | 1942年 |
| プラダー・ウィリー症候群 | A・プラダー+H・ウィリー | スイス | 1956年 |
| アンジェルマン症候群 | ハリー・アンジェルマン | イギリス | 1965年 |
| ウィリアムズ症候群 | ジョン・ウィリアムズ | ニュージーランド | 1961年 |
| コルネリア・デ・ランゲ症候群 | コルネリア・デ・ランゲ | オランダ | 1933年 |
| ヌーナン症候群 | ジャクリーン・ヌーナン | アメリカ | 1963年 |
循環器・血管系(7件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| レイノー病 | モーリス・レイノー | フランス | 1862年 |
| バージャー病 | レオ・バージャー | アメリカ | 1908年 |
| ファロー四徴症 | エティエンヌ・ファロー | フランス | 1888年 |
| WPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト) | ウォルフ+パーキンソン+ホワイト | 米・英 | 1930年 |
| ブルガダ症候群 | ペドロ・ブルガダ | スペイン | 1992年 |
| エブスタイン奇形 | ウィルヘルム・エブスタイン | ドイツ | 1866年 |
| アイゼンメンガー症候群 | ヴィクトル・アイゼンメンガー | オーストリア | 1897年 |
消化器系(8件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| クローン病 | バリル・B・クローン | アメリカ | 1932年 |
| ヒルシュスプルング病 | H・ヒルシュスプルング | デンマーク | 1888年 |
| バレット食道 | ノーマン・バレット | イギリス | 1950年 |
| ウィップル病 | ジョージ・H・ウィップル | アメリカ | 1907年 |
| ポイツ・ジェガース症候群 | J・ポイツ+H・ジェガース | 蘭・米 | 1921年頃 |
| バッド-キアリ症候群 | G・バッド+H・キアリ | 英・墺 | 1845年頃 |
| メッケル憩室 | J・F・メッケル(孫・小メッケル) | ドイツ | 1809年 |
| ジルベール症候群 | N・A・ジルベール | フランス | 1901年 |
筋骨格・整形外科系(7件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| オスグッド・シュラッター病 | R・オスグッド+K・シュラッター | 米・瑞 | 1903年 |
| コレス骨折 | エイブラハム・コレス | アイルランド | 1814年 |
| ポット骨折 | パーシバル・ポット | イギリス | 1765年 |
| デュプイトラン拘縮 | G・デュプイトラン | フランス | 1831年 |
| ペルテス病 | ゲオルク・ペルテス | ドイツ | 1910年 |
| モートン神経腫 | トーマス・モートン | アメリカ | 1876年 |
| シュモール結節 | クリスチャン・シュモール | ドイツ | 1927年 |
皮膚科・自己免疫系(11件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| ベーチェット病 | フルン・ベーチェット | トルコ | 1937年 |
| シェーグレン症候群 | ヘンリック・シェーグレン | スウェーデン | 1933年 |
| エーラス・ダンロス症候群 | E・エーラス+A・ダンロス | デンマーク・仏 | 1901年頃 |
| スティル病 | ジョージ・スティル | イギリス | 1896年 |
| ボーエン病 | ジョン・ボーエン | アメリカ | 1912年 |
| パジェット病(乳房外) | ジェームズ・パジェット | イギリス | 1874年 |
| スウィート病 | ロバート・スウィート | イギリス | 1964年 |
| フェルティ症候群 | O・R・フェルティ | アメリカ | 1924年 |
| ウェゲナー肉芽腫症(現:多発血管炎性肉芽腫症) | F・ウェゲナー | ドイツ | 1936年 |
| チャーグ・ストラウス症候群(現:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) | J・チャーグ+L・ストラウス | アメリカ | 1951年 |
| ライター症候群(現:反応性関節炎) | ハンス・ライター | ドイツ | 1916年 |
腫瘍・血液・その他(10件)
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| 病気・症候群名 | 発見者 | 国 | 発見年 |
|---|---|---|---|
| ホジキンリンパ腫 | トーマス・ホジキン | イギリス | 1832年 |
| バーキットリンパ腫 | デニス・バーキット | イギリス | 1958年 |
| ワルデンシュトレームマクログロブリン血症 | J・G・ワルデンシュトレーム | スウェーデン | 1944年 |
| エバンス症候群 | ロバート・S・エバンス | アメリカ | 1951年 |
| カポジ肉腫 | モーリッツ・カポジ | オーストリア | 1872年 |
| フォン・レックリングハウゼン病(神経線維腫症1型) | F・フォン・レックリングハウゼン | ドイツ | 1882年 |
| ウシャー症候群 | チャールズ・H・ウシャー | イギリス | 1914年 |
| アッシャーマン症候群 | ヨセフ・アッシャーマン | イスラエル | 1948年 |
| ハイネ-メディン病(ポリオの別称) | J・ハイネ+O・メディン | 独・瑞 | 1840年代 |
| フォン・ウィルブランド病 | エリック・フォン・ウィルブランド | フィンランド | 1926年 |
注目の命名エピソード
橋本病——世界初の自己免疫疾患を報告した日本人医師
1912年、外科医の橋本策はドイツの医学誌にリンパ球性甲状腺炎の論文を発表しました。当時はまだ「自己免疫」という概念自体がなく、甲状腺が自分自身の免疫細胞に攻撃されるという発見の意義は長く認識されませんでした。発表から約40年後の1950年代になって「世界最初に記載されたとされる自己免疫疾患」として国際的に再評価され、現在に至ります。
川崎病——発見から50年以上、原因はいまだ不明
1967年、川崎富作が「皮膚粘膜リンパ節症候群」として論文発表。主に4歳以下の乳幼児に起こる全身の血管炎で、冠動脈瘤(心臓の血管の合併症)が問題となります。発見以来、世界中で報告例が相次いでいますが、発症の根本的な原因は50年以上が経過した現在も解明されていません。
アルツハイマー病——51歳女性の脳に見た変化が出発点
1906年、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーは、51歳で亡くなった女性患者の脳を解剖し、神経原線維変化とアミロイド斑という特有の変化を発見。記憶と認知機能が蝕まれるこの疾患を詳細に記録した論文が、現代の認知症研究の出発点となりました。
ミュンヒハウゼン症候群——「法螺吹き男爵」の名がついた病
1951年、英国の医師リチャード・アッシャーは、架空の症状を作り上げて次々と入院・手術を求める患者たちに「ミュンヒハウゼン症候群」と命名しました。18世紀の実在の人物、ミュンヒハウゼン男爵の誇張した冒険談「法螺吹き」のイメージに由来します。本人が症状を作る場合と、子どもや身内の代理で症状を作る「代理ミュンヒハウゼン症候群」もあります。
岡崎フラグメント——夫婦で教科書に名を刻んだ生化学者
1960年代後半、名古屋大学の岡崎令治・恒子夫妻は、DNAが複製される際にラギング鎖側で短い断片が生成されることを発見しました。この「岡崎フラグメント」は今日でも分子生物学の基礎知識として世界中の教科書に掲載されており、発見者が夫婦というのは科学史上でも珍しい例のひとつです。なお、類似のテーマとして生物の学名に人名が付けられたケースも興味深いです。
まとめ
人名がついた病気・症候群(エポニム)は、医師や研究者たちが患者を診ながら残した発見の記録でもあります。橋本病・川崎病に代表される日本人発見の疾患から、アルツハイマー・パーキンソンなど世界的に知られる病名まで、110件を一覧にすると医学の歴史の幅広さが伝わります。病名の由来を知ることで、普段何気なく耳にする名前が全く違う顔を見せてくれるはずです。