
承和色——読み方がわかりますか。「じょうわいろ」ではありません。正解は「そがいろ」。字面を見ても読みの予測がまずつかない、超難読の伝統色です。
この黄色い色には、1200年前の天皇が愛した菊の花と、ひとつの元号の記憶が刻まれています。日本の伝統色の中でも、元号そのものが色名になった例はきわめて珍しく、承和色はその代表格です。
承和色とは
承和色(そがいろ)は、黄菊の花のようなやわらかな黄色です。真っ黄色というより少しくすみや赤みを含んだ、奥行きのある温かみのある黄——山吹色より淡く落ち着き、鬱金色よりも澄んだ色合いです。
現代のカラーコードで表すと #f7ed92 前後の淡い暖かみのある黄色系(参考値・出典によって幅があります)。染めには天然染料の黄檗(きはだ)が用いられ、菊の花を思わせる清澄な色が生まれます。
JIS(日本産業規格)の慣用色名には記載がありませんが、日本の伝統色を収録した主要な色辞典に掲載されており、平安時代から受け継がれてきた色名のひとつです。
語源——元号が色名になった
承和色の名前の由来は、平安時代の元号「承和(じょうわ)」にあります。
承和年間(834〜848年)は、第54代・仁明天皇(にんみょうてんのう)の在位中に制定された年号の時代です。この時代の天皇が黄色い菊を特別に愛したことから、その菊の色に「承和の色」という名が与えられたとされています。
元号がそのまま色名になる——これは日本の伝統色の中でも例外的な成り立ちです。多くの色名が植物(山吹・藍など)や自然現象(空色・朱色など)に由来するのに対し、承和色は「時代の名前」を持つ、唯一無二の色です。
なぜ「そがいろ」と読むのか
「承和」は本来「じょうわ」と読みます。なのになぜ「そがいろ」なのでしょうか。
これは有職読み(ゆうそくよみ)と呼ばれる読み方の特徴です。宮廷の装束や行事に関わる言葉には、一般の音読みとは異なる慣習的な読みが定着していることがあります。「承和」がこの文脈で「そが」と読まれるようになったのも、そうした宮廷文化の中で長い時間をかけて定着した読み方とされています(諸説あります)。
現代の感覚では「承和」と書いて「そが」とはまず読めません。この難読性も含めて、承和色は伝統色の中でも一際個性的な存在です。
なお「じょうわいろ」という読みもないわけではありませんが、伝統色の文脈では「そがいろ」が正式とされています。
仁明天皇と菊の逸話
承和色を語るには、仁明天皇(810〜850年)という人物を知る必要があります。
仁明天皇は、平安京を開いた桓武天皇の孫にあたる第54代天皇です。文学・漢字・書を愛した教養人として知られ、病弱ながらも医学に深い造詣を持ち、政務に励みました。
この天皇がとりわけ深く愛したのが、黄色い菊でした。宮中の至る所に黄菊を植え、自らも黄色の衣装を好んで着たといいます。天皇の菊への傾倒は宮廷でよく知られ、仁明天皇の在位中は黄色が貴族たちの間でも大いに流行したと伝わっています。
やがてその天皇ゆかりの黄菊は「承和菊」と呼ばれ、その色もまた「承和色」と呼ばれるようになりました。元号は仁明天皇の存在と文化を象徴する名であり、その色名は天皇が生きた時代の空気ごと記憶されたのです。
重陽の節句と菊の信仰
平安時代、菊は単なる観賞用の花ではありませんでした。
9月9日の「重陽の節句(ちょうようのせっく)」は「菊の節句」とも呼ばれ、菊の花びらを浮かべたお酒(菊酒)を楽しんだり、夜露に濡れた菊の綿(菊の被綿)で肌を拭って無病息災・長寿を祈る儀式が宮中で行われていました。
中国から伝わった仙人説話「菊慈童(きくじどう)」に由来するこれらの習慣は、菊を「不老長寿の花」として崇める信仰と深く結びついていました。医薬の知識を持ち、長寿を願う仁明天皇が菊に深く傾倒したのは、偶然ではなかったかもしれません。
近い黄色系伝統色との比較
承和色は「黄色系の伝統色」の中でどこに位置するのでしょうか。
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| 色名 | 読み | 色合いの特徴 |
|---|---|---|
| 承和色 | そがいろ | 赤みとくすみを含む菊の花色。品格ある淡い黄 |
| 山吹色 | やまぶきいろ | 鮮やかな黄橙色。ヤマブキの花のような明るさ |
| 鬱金色 | うこんいろ | ターメリック染の深い黄土色。重厚な黄 |
| 黄蘗色 | きはだいろ | 黄檗染の明るい黄緑みの黄 |
| 菜の花色 | なのはないろ | 春の菜の花のような明るく鮮やかな黄 |
承和色の特徴は、鮮やかさより「品格」にあります。くすみと赤みが加わることで、天皇の色にふさわしい静かな格調が漂います。同じ黄檗染めの黄蘗色と比べると、承和色は菊の花らしい透明感を残した色といえます。
まとめ——元号に刻まれた菊の黄
承和色は、色の名前に「時代の名前」が宿る、日本の伝統色の中でも一風変わった存在です。
「承和」という元号が、仁明天皇の菊への深い愛着を通じて色名として1200年の時を超えて生き続けている——そのことを知ると、この淡い黄色が単なる黄色ではなく、平安の宮廷の空気を写した色として見えてきます。
字面から読めない「そが」という読みも、宮廷文化の特殊な慣習から生まれた痕跡。読めないことも含めて、この色には平安の息吹が詰まっています。
承和色に関連する伝統色をもっと知りたい方は、日本の伝統色77色一覧|和の色・彩りガイドでさらに多くの色を紹介しています。