江戸時代の隠語・死語一覧|現代に残る江戸言葉と消えた言葉まとめ

江戸時代に生まれ、今もひそかに使われ続けている言葉があります。寿司屋で「ネタ」と呼ぶ具材、「ドヤ顔」の「ドヤ」、組の「やくざ」……いずれも江戸時代の隠語や俗語が形を変えて現代に残ったものです。一方、「ありんす」「まぶ」「般若湯」のように、現代ではほぼ使われなくなった死語も数多く存在します。本記事では、逆さ言葉・肉の隠語・廓言葉・江戸っ子言葉・博徒語など、カテゴリ別に約50語を意味・語源・現代への変遷とともにまとめます。

スポンサーリンク

江戸言葉の特徴と背景

江戸言葉とは、江戸時代の江戸(現在の東京)で使われた言葉の総称です。武士・商人・職人・遊女・博徒など、身分や職業によって異なる「仲間内の言葉」が発達し、それが隠語(業界用語・秘密の言葉)として機能しました。

江戸言葉には大きく3つの特徴があります。①言葉を逆さにする「倒語(とうご)」、②権力に対する洒落と抵抗から生まれた「隠語」、③職人・遊郭・博徒など特定のコミュニティだけで通じる「位相語(いそうご)」です。現代日本語の中にはこれらが変化・定着したものが数多く残っており、気づかずに使っているケースも少なくありません。

逆さ言葉(倒語)一覧|今も使われ続ける江戸の知恵

言葉を逆さにして意味を隠す「倒語(とうご)」は、江戸時代の商人・職人・盗賊が仲間内だけで通じる符丁として発達させた手法です。現代に残る代表例を紹介します。

← 横にスクロールできます →

言葉 元の言葉 意味 現代での状態
ネタ 種(たね) 話の素材、情報、寿司の具材 現役(「話のネタ」「ネタバレ」)
ドヤ 宿(やど) 日雇い労働者向けの安宿 変化して現役(「ドヤ街」「ドヤ顔」)
だらしない しだらない 「しだらない」の音節入れ替え(「しだら」の意味は諸説あり) 形容詞として現役
ズボラ 坊主(ぼうず)の倒語説 怠け者・いいかげんな人(ぼうず→ズボウ→ズボラの変化。諸説あり) 現役
グレる 蛤(はまぐり) ハマグリの貝殻が合わなくなる→道を外れる(倒語ではなく比喩説・諸説あり) 現役(「グレた若者」)

ネタは「種(たね)」を逆にした倒語です。江戸時代の盗賊や芸人が使い始め、次第に「情報・話の材料」全般を指すようになりました。現代では「寿司ネタ」「ネタバレ」「話のネタ」と幅広く使われており、英語化(neta)して海外でも通じる場合があります。

ドヤは「宿(やど)」の倒語。日雇い労働者が泊まる簡易宿泊所を「ドヤ」と呼ぶようになり、そうした宿が集まる地域が「ドヤ街」と呼ばれました。さらに自慢顔を「ドヤ顔」と言うようになったのは近代以降ですが、元は江戸の倒語です。

だらしないは「しだらない」の音節を入れ替えた倒語とされています。「しだら」の意味は諸説あり未詳ですが、礼節・秩序を指す語だったとも、「自堕落」が訛ったとも言われています。江戸時代の滑稽本『浮世床』に「しだらがないといふことを『だらし』がない」と記されており、庶民の俗語・隠語として定着していったことが確認できます。

スポンサーリンク

肉の隠語一覧|「生類憐みの令」が生んだ江戸の食文化

1685年(貞享2年)、5代将軍・徳川綱吉が「生類憐みの令」を発令し、獣肉食が禁忌とされました。しかし庶民は食欲をあきらめず、肉に植物や花の別名をつけて隠語として使い続けました。この隠語の多くは現代でも通じます。

← 横にスクロールできます →

隠語 対象の肉 由来
かしわ(柏) 鶏肉 柏の葉の茶色と鶏肉の色が似ていることから
さくら 馬肉 切り口が桜色の薄いピンク色をしていることから
もみじ 鹿肉 花札「鹿に紅葉」の絵柄から
ぼたん 猪肉 薄切りにして皿に並べると牡丹の花のように見えることから
やまくじら(山鯨) 猪・獣肉全般 鯨は魚類扱いで食べてよかったため、猪肉を「山の鯨」と偽装した

やまくじらは特に巧妙な隠語です。「鯨(くじら)」は海の生き物で仏教的に「魚類」扱いとされ、食べることが許可されていました。そこで猪肉を「山に住む鯨」と称して堂々と販売する「山くじら鍋屋」が江戸各地に存在したとされています。

生類憐みの令は1709年(宝永6年)に綱吉の死後に廃止されましたが、「かしわ」「さくら」は現代でも鶏肉・馬肉の別称として生き続けています。

廓言葉(遊郭)一覧|吉原が育てた独特の表現

吉原(現在の台東区周辺)をはじめとする遊郭では、遊女たちが出身地の方言やなまりを隠すために、「廓言葉(くるわことば)」と呼ばれる独特の位相語を発達させました。語尾に「〜んす」をつける特徴が有名です。

← 横にスクロールできます →

言葉 読み 本来の意味 現代での状態
ありんす ありんす 「ございます/あります」 死語(遊廓の象徴として有名)
わっち/わちき わっち/わちき 「私」(遊女の自称) 死語
あちき あちき 「私」(上級遊女の自称) 死語
あがり あがり 遊女としての奉公を終えること 変化して現役(寿司屋のお茶)
間夫(まぶ) まぶ 遊女が本命とする男性 半死語
お馴染み おなじみ 贔屓の常連客 現役
ぞっとしない ぞっとしない つまらない・感動できない 現代と意味が逆転して現役
おひねり おひねり 折り紙に包んだご祝儀・心付け 現役

ありんすは、京都の遊廓・島原で生まれ吉原に広まった語尾です。「〜ありんす(あります)」「〜くださんす(ください)」のように語尾に「〜んす」をつけるのが特徴で、全国各地から集まる遊女たちが出身地のなまりを均質化するために使ったとされています。

あがりは廓では「奉公期間が終わること=引退」の意味で使われていました。これが転じて寿司屋で「お客さんが来た(上がってきた)ときに出すお茶」を「あがり」と呼ぶようになったとされています。

ぞっとしないは現代では「ぞっとする(怖い・感動する)」と逆の意味で使われますが、廓言葉では「全然しない・感動できない」の打ち消しで「つまらない・平凡だ」という意味でした。この意味の転換は江戸時代から始まり、長い時間をかけて今の使い方に変化していったとされています。

スポンサーリンク

江戸っ子言葉一覧|粋でいなせな口癖と罵り言葉

「江戸っ子」とは、特に江戸の下町(日本橋・神田・浅草周辺)で生まれ育った職人・商人たちで、「宵越しの銭は持たぬ」というさっぱりした気質で知られました。彼らの言葉遣いは勇ましく、独特のリズムがあります。

← 横にスクロールできます →

言葉 意味 現代での状態
てやんでい 「何を言っていやがるんだい」の省略 半死語(時代劇・演芸で現役)
べらぼうめ 馬鹿め・とんでもない野郎め 半死語
いなせ(鯔背) 若い男性が粋でかっこいい様子 現役
粋(いき) 洗練・垢抜け・江戸的な美意識 現役
野暮(やぼ) 垢抜けない・無粋 現役
おっちょこちょい 落ち着きなく軽率な人 現役
すっとこどっこい この大馬鹿者め(罵倒語) 半死語
こちとら 「こちらは(自分たちは)」の江戸訛り 半死語
がらっぱち がさつで乱暴な人 半死語
ちゃきちゃき 生粋の(「ちゃきちゃきの江戸っ子」) 現役

てやんでいは「何を言ってやがるんだい」を短縮し、さらに江戸っ子特有の「ひ→し」の発音(「い」「し」「ひ」の混同)が加わって生まれた表現です。激しい罵倒のように見えますが、「何言ってんだよ!」という軽めの反論・呆れにも使われ、必ずしも本気の怒りではありませんでした。

いなせ(鯔背)は、江戸後期に魚河岸(日本橋の魚市場)の若者の間で流行した「鯔背銀杏(いなせいちょう)」という髪型が語源です。魚の「鯔(いな・ボラの若魚)」の背中の形に似た銀杏返しの髪型を好んだ若者の、きびきびとした粋な様子を「いなせ」と形容するようになりました。

べらぼうめは、寛文年間(1661〜73年)の見世物小屋で人気を博した奇人「便乱坊(べらんぼう)」という芸人に由来するとも、「ベラボウに馬鹿な奴め」の省略とも言われています(諸説あり)。

飲食・商業の隠語一覧|食文化に残る江戸の秘密言語

江戸時代の食・商業の現場では、客や外部に聞かれたくない情報を隠語で伝える習慣がありました。現代の飲食店でもその名残が残っています。

← 横にスクロールできます →

言葉 読み 意味 現代での状態
般若湯 はんにゃとう 僧侶が酒を隠して呼んだ言葉 半死語(今も雅語として使われることがある)
護摩酢 ごまず 仏教関係者が使った酒の別名 死語
むらさき むらさき 醤油(紫色から)。寿司屋の隠語 現役(業界用語として)
あがり あがり 寿司屋のお茶 現役(業界用語)
おあいそ おあいそ 会計・お勘定 現役(ただし本来は店側の言葉)
相棒 あいぼう 駕籠を二人で担ぐときの片方 現役(「バディ・相方」の意味で)

般若湯(はんにゃとう)は、お酒を飲んではいけない僧侶たちが「智恵を授ける般若の湯」として酒を呼んだ隠語です。お寺の外では「般若湯はありますか」と聞いて酒を注文していたとされています。江戸時代の寺社周辺の酒屋ではこの言葉が普通に通じたといいます。

おあいそは本来、寿司屋などの店側が「本日はご来店いただきありがとうございます、お愛想もなくて申し訳ありません」という謙遜の言葉でした。現代では客が「おあいそして」と会計を求めるために使いますが、本来は逆の立場の言葉です。

相棒(あいぼう)は、江戸時代の駕籠かき(駕籠を担いで人を運ぶ仕事)が二人一組で働くことから生まれた言葉です。前と後ろで担ぎ合う「棒」を「相(あい)」にする「相方」的な意味が「相棒」に変化し、現代では「バディ・パートナー」の意味として広く使われています。

スポンサーリンク

博徒・侠客の隠語一覧|現代語に残る賭博の言葉

江戸時代、賭博を生業とした「博徒(ばくと)」や、義侠心を看板とした「侠客(きょうかく)」のコミュニティでも、独自の隠語が発達しました。現代語に残っているものも多くあります。

← 横にスクロールできます →

言葉 読み 意味・語源 現代での状態
やくざ やくざ 花札「おいちょかぶ」で8・9・3が出ると合計20→0点で最弱手となることから「役に立たない者」 現役(組織名・人物の意味で)
いかさま いかさま 「如何様(いかさま)」=どんな様でも→誰もが欺けるから「いかさま師」に転化 現役(詐欺・不正の意味で)
いちかばちか いちかばちか 丁(一)か半(八)かの博打用語。漢字「一か八か」の字の上部が由来とも 現役(「一か八かの勝負」)
てきや(的屋) てきや 祭りの露天商・香具師。「的場(射的の場)」が語源の一説 現役(露天商の意味で)
親分・子分 おやぶん・こぶん 博徒集団の主従関係の呼び名 現役

やくざの語源は、花札を使った賭け遊び「おいちょかぶ」にあります。手札の合計点の一の位を競うこのゲームで、8・9・3の3枚が揃うと合計20→0点という最も弱い手になります。「見た目は多いが中身はゼロ=役に立たない者」を「八九三(やくざ)もの」と呼ぶようになったのが語源で、最古の文献的根拠は1755年(宝暦5年)の新井白蛾『牛馬問』にあります。

いちかばちかは「一か八か」と書きますが、漢字の成り立ちにヒントがあります。「丁(ちょう)」の字の上部が「一」、「半(はん)」の字の上部が「八」に見えることから、丁か半かの賭けを「一か八か」と表現するようになったとも言われています。

現代語に残る江戸言葉まとめ

江戸時代の隠語・死語の中には、意味を変えながら現代語に残っているものが多くあります。以下に代表例をまとめます。

← 横にスクロールできます →

現代語 江戸時代の由来 変化した意味
ベーゴマ 貝独楽(かいごま)の訛り 子どもの遊び道具(「ベイブレード」の語源にも)
やばい 弓矢を作る「矢場(やば)」から(諸説あり) 危険→今では「すごい・最高」にまで意味拡大
ちゃかす(茶化す) 「茶(冗談)にする」から からかう・ふざけた扱いをする
剣呑(けんのん) 「険難(けんなん)」が転化 物騒・危険な雰囲気(半死語)
年季が入る 遊女の奉公年数「年季(ねんき)」から 長年の経験で腕前が熟練している
しょっちゅう 「しょっ中(じゅう)」から いつも・頻繁に
てんやわんや 江戸後期から使用。語源諸説 大混乱・収拾がつかない状態
悋気(りんき) 嫉妬・やきもち ほぼ死語(「悋気する」はごくまれに使われる)
年増(としま) 適齢期を過ぎた女性 半死語(やや古風な使い方で残る)
箱入り娘 大切に育てられた世間知らずの娘 現役(「世間知らずのお嬢様」の意)

やばいの語源は「矢場(やば)」(弓矢の練習場。転じて的屋・売春宿も営む場所)から「やばい職業・場所」→危険・まずいという意味になったとも、また「厄(やく)がある」から「やばい」になったとも諸説あります。いずれにせよ江戸〜明治に生まれた言葉で、現代では若者語として意味がさらに拡大し「やばい(すごい・最高)」という肯定的な意味でも使われています。

ベーゴマは「貝独楽(かいごま)」という、巻き貝の殻を独楽(こま)にした玩具が語源です。「貝独楽→かいごま→かいごま→ベーゴマ」と変化し、さらに現代の「ベイブレード」という商品名にもその語源が引き継がれています。

スポンサーリンク

まとめ

江戸時代の隠語・死語は、武士・商人・職人・遊女・博徒といった多様なコミュニティが生んだ言語の知恵の結晶です。「ネタ」「ドヤ」「やくざ」「いちかばちか」「ちゃかす」など、現代語として生きているものも多く、江戸時代と現代はことばを通じて確かにつながっています。江戸の人々がどんな暮らしをしていたか、この言葉たちがそっと教えてくれます。

同じく江戸時代の暮らしを知りたい方は、江戸時代の職業一覧|武士・商人・職人から特殊な仕事までもあわせてどうぞ。また、現代のネットスラングの歴史が気になる方は、現代ネットスラング119選|草・エモい・ぴえんの意味・語源まとめもご覧ください。

一緒に読まれている人気記事

スポンサーリンク

X でフォローしよう!

おすすめの記事