
生成AIが急速に普及するなかで、意図的にAIを使わない選択をする人たちが「AIヴィーガン(AI vegan)」と呼ばれ始めています。食のヴィーガンが動物由来製品を倫理や環境上の理由から断つように、生成AIとの付き合い方そのものを問い直す考え方です。本記事では、AIヴィーガンとは何か、なぜ「ヴィーガン」という比喩が使われるのか、その背景にある3つの理由類型から批判・反論まで、中立な立場で整理します。
AIヴィーガンとは
食のヴィーガニズムが動物性食品を価値観に基づいて断つように、生成AIの使用を意図的・主義的に避ける姿勢や考え方を「AIヴィーガニズム(AI veganism)」と呼びます。それを実践する人が「AIヴィーガン(AI vegan)」です。
英語圏での初出は2022年。プログラマーでAI研究者のSimon Willisonがブログ投稿で「AI vegan」という表現を使ったのが先駆けとされます。その後、2025年7月29日にジョージア工科大学(Georgia Tech)の研究者David Joynerが学術系メディア「The Conversation」に論文を寄稿し、この概念に学術的な文脈が与えられました。
なお、英語の「AI veganism」には2つの意味があります。①生成AIを消費者・利用者として意図的に避けること(本記事の主題)、②AIが感覚を持つ存在かもしれないという倫理上の立場から「AIを傷つけない」こと、です。英語版Wikipediaは現在②の文脈で使われる記事へリダイレクトされていますが、本記事では①の意味を扱います。
なぜ「ヴィーガン」の比喩なのか
Joynerが指摘するのは、AIヴィーガンが従来の技術懐疑層と異なるという点です。
従来の技術採用モデルでは、新技術を避ける人は「ラガード(遅滞者)」として扱われ、時間とともに採用すると見なされてきました。ところがAIを避ける人の中には、いわゆるアーリーアダプター(初期採用者)の特徴を持つ人も多い。技術への無関心や不慣れからではなく、明確な信念や価値観を持って使わないという選択をしているという点で、ヴィーガニズムとの類似があるとJoynerは述べています。
食のヴィーガンが「知識を持ち、考えた末に断つ」のと同様に、AIヴィーガンもAIを理解したうえで使わないという選択をしているわけです。
AIを使わない理由の3類型
Joynerは主な理由を次の3つに整理しています。
① 倫理・労働上の懸念
AIモデルの学習には、コンテンツクリエイターの著作物が本人の同意なく使われているという問題があります。2023年にはアメリカ脚本家組合(WGA)と映画俳優組合(SAG-AFTRA)がAIの無断学習に抗議してストライキを起こし(WGAは148日間に及ぶ長期ストライキ)、AIヴィーガンの中にはこれを直接の動機とする人も少なくありません。
→ 関連:生成AIと著作権|商用利用・利用規約・個人情報の注意点
② 環境上の懸念
生成AIの急速な普及は、データセンターが消費する電力と冷却水の量を大幅に増加させています。ある研究では「ChatGPTとの短い会話1回で約500ml(ペットボトル1本分)の水が消費される」という試算も示されています(2023年研究)。AIを使うこと自体が環境負荷を高めるという観点から、使用を避ける選択をする人がいます。
③ 認知・自律性への懸念
マイクロソフトリサーチが行った研究では、「生成AIをより自信を持って使う人ほど、批判的思考力の低下がみられた」という結果が報告されています。また2025年のケンブリッジ大学の調査では、AIが「自分を怠け者にする」という懸念から使用を避ける学生の存在が確認されています。自分の頭で考え、学ぶ力を守りたいという動機です。
これらに加えて、著作権・IPの問題、作品の真正性への疑問、プラットフォーム企業への不信なども補足的な理由として挙げられます。
→ 関連:AIが苦手なこと21選|できないこと・弱点を徹底解説
程度の違い――完全回避とAIベジタリアニズム
「AIヴィーガン」は完全な回避を意味しますが、より穏健な立場も提唱されています。
カナダのテクノロジー研究者Sean Bootsは2026年3月11日、「ジェネレーティブAIベジタリアニズム(Generative AI vegetarianism)」という概念を提唱しました。従来型のアルゴリズム(OCRや推薦エンジンなど)は受け入れつつ、テキスト生成や画像生成などの「生成AI」を個人的な創作・思考の場では使わないという立場です。
Bootsは「私は生成AIのベジタリアンだ」と自己紹介しつつ、「自分のメールを自分で書きたい。自分の(下手でも)コードを自分で書きたい。テキスト予測システムではなく、人間と一緒に考えたい」と述べています。
食の世界でいう「フレキシタリアン」に近いこの立場は、完全な禁欲でなく、"主義として選択的に避ける"という態度です。
広がりを示す動き
euronewsは2025年11月22日の特集記事「Life after chatbots: Meet the 'AI vegans'」で、生成AIを使わない選択をした人々をルポしています。同記事は、Redditなどに生成AIへの反対・回避を掲げるコミュニティがあり参加者を増やしていると伝えています。ただし、記事中では具体的なコミュニティ名が示されておらず、こうした場の参加者数はどの場を指すか・いつ時点かによって大きく変わるため、ここでは特定の人数は挙げません。それでも、欧米を中心に継続的な動きが存在することは複数の報道から確認できます。
日本でも2026年前後からメディアがこの概念を紹介し始め、「あえてAIを使わない」という選択肢が認知されつつあります。
関連語
AI slop(AIスロップ)
生成AIで量産される低品質なコンテンツを指す俗語。「slop(残飯・粗末な食事)」から。AIヴィーガンが問題視する対象のひとつです。
AI-free / human-made(AI不使用・人間制作)
コンテンツや製品に「AIを使っていない」ことを示すラベル。一部のクリエイターや出版社が積極的に使用しています。
AI vegetarianism(AIベジタリアニズム)
上述のSean Bootsが提唱した、完全回避でなく部分的・選択的に生成AIを避ける立場。
批判と反論
AIヴィーガニズムへの批判として最も多く聞かれるのは、「完全回避は現実的ではない」という指摘です。現代の検索エンジン、OS、業務ツールの多くにはすでにAIが組み込まれており、日常生活のなかで生成AIを完全に排除することは困難です。
また「生産性やアクセシビリティの利点を意図的に捨てることになる」「機会損失につながる」という批判もあります。MIT研究者らは「AIを全否定するのでなく、使い所を吟味する(Selective use)」が現実的だと論じています。
一方で、批判側もAIの課題(著作権・環境・認知負荷)そのものは認めることが多く、「完全に避けるか否か」よりも「どのように付き合うか」の議論に移行しつつある面もあります。
まとめ
AIヴィーガンとは、倫理・環境・認知への懸念から生成AIを意図的に使わない選択をする人々です。技術を理解したうえで断つという点が、単なる不慣れや逆張りとは異なります。完全回避から穏健な「AIベジタリアン」まで温度差はありますが、「どんなツールを、なぜ使うのか」を問い直す動きとして注目されています。生成AI全盛の時代に現れたこの選択肢は、今後も賛否を呼びながら議論され続けるでしょう。
→ 関連:生成AIの種類一覧|テキスト・画像・動画・コード生成の技術まとめ
参考・出典
- David Joyner(Georgia Tech)「'AI veganism': Some people's issues with AI parallel vegans' concerns about diet」The Conversation https://theconversation.com/ai-veganism-some-peoples-issues-with-ai-parallel-vegans-concerns-about-diet-260277 (2026-09-30参照)
- Georgia Tech News Center「'AI Veganism': Some People's Issues With AI Parallel Vegans' Concerns About Diet」 https://news.gatech.edu/news/2025/07/29/ai-veganism-some-peoples-issues-ai-parallel-vegans-concerns-about-diet (2026-09-30参照)
- euronews「Life after chatbots: Meet the 'AI vegans' refusing to accept a virtual reality」(2025-11-22) https://www.euronews.com/next/2025/11/22/life-after-chatbots-meet-the-ai-vegans-refusing-to-accept-a-virtual-reality (2026-09-30参照)
- Sean Boots「Generative AI vegetarianism」(2026-03-11) https://sboots.ca/2026/03/11/generative-ai-vegetarianism/ (2026-09-30参照)