
「囚人のジレンマ」「ナッシュ均衡」「チキンゲーム」——名前は聞いたことがあっても、意外と説明できないままになっていませんか?ゲーム理論は、複数の人が互いの行動を予測しながら意思決定する場面を数学的に分析する学問で、経済・政治・生物進化まで幅広く応用されています。この記事では、ゲーム理論の基本用語51語を分野別の一覧表で整理し、主要なゲームモデルをわかりやすく解説します。
ゲーム理論の用語51選|分野別一覧
基本概念(6語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| ゲーム理論 | Game Theory | 複数のプレーヤーが互いの行動を予測しながら意思決定する状況を数学的に分析する理論。1944年にフォン・ノイマンとモルゲンシュテルンが体系化した |
| プレーヤー | Player | ゲームに参加し、意思決定を行う主体。個人・企業・国家など、あらゆる主体がなりうる |
| 戦略 | Strategy | プレーヤーが選択できる行動のプランや選択肢の集合。「協力する」「裏切る」など |
| 利得・ペイオフ | Payoff | ある戦略の組み合わせのもとで各プレーヤーが得る結果(報酬・利益・損失など) |
| 利得行列 | Payoff Matrix | 各プレーヤーの戦略と利得の対応を表にまとめたもの。ゲームの全体像を把握する基本ツール |
| 最適応答 | Best Response | 相手の戦略が決まっているとき、自分の利得を最大化する最善の戦略 |
均衡概念(7語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| ナッシュ均衡 | Nash Equilibrium | 全プレーヤーが相手の戦略を前提に最適応答をとっている状態。誰も一人だけ戦略を変えても利益を得られない |
| パレート最適 | Pareto Optimality | 誰かの利得を下げなければ他の誰の利得も上げられない状態。「全体として最も効率的な配分」 |
| 支配戦略均衡 | Dominant Strategy Equilibrium | 全プレーヤーが支配戦略をとるナッシュ均衡。囚人のジレンマの均衡がこの典型例 |
| 部分ゲーム完全均衡 | Subgame Perfect Equilibrium | 動的ゲームで、元のゲームの全ての部分ゲームでもナッシュ均衡が成り立つ均衡。逆向き帰納法で求める |
| 相関均衡 | Correlated Equilibrium | 共通のランダムシグナルに基づいて行動するナッシュ均衡の拡張概念。オーマンが提唱 |
| 進化的安定戦略(ESS) | Evolutionarily Stable Strategy | 集団の大多数が採用していて、少数の突然変異型が侵入できない安定した戦略 |
| ベイジアン・ナッシュ均衡 | Bayesian Nash Equilibrium | 不完備情報ゲームで、相手のタイプをベイズ推定したうえで全プレーヤーが最適応答をとる均衡 |
戦略の種類(7語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| 純粋戦略 | Pure Strategy | 確率ではなく確定的に1つの行動を選択する戦略 |
| 混合戦略 | Mixed Strategy | 各行動を確率分布に従って選択する戦略。「コインを投げて決める」ような行動が該当する |
| 支配戦略 | Dominant Strategy | 相手がどの戦略をとっても、常に自分の利得を最大にする戦略 |
| 被支配戦略 | Dominated Strategy | 常に他の戦略より劣る戦略。合理的なプレーヤーは選ばない |
| ミニマックス戦略 | Minimax Strategy | 相手が自分の利得を最小化しようとした場合でも、最悪の結果を最大化する保守的な戦略 |
| フォーカルポイント | Focal Point | 明確な合意なしに自然と多くの人が選ぶ均衡点。「シェリング点」とも。「東京で待ち合わせ」といえば渋谷駅が浮かぶのが例 |
| コミットメント | Commitment | 「この行動しかとれない」と宣言・行動することで相手の選択を誘導する戦略。チキンゲームのハンドル破棄が典型例 |
ゲームの分類(13語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| ゼロサムゲーム | Zero-sum Game | 全プレーヤーの利得の総和が常にゼロのゲーム。一方の得はそのまま他方の損になる |
| 非ゼロサムゲーム | Non-zero-sum Game | 利得の総和が変動するゲーム。協力で全体の利益が増える可能性がある |
| 協力ゲーム | Cooperative Game | プレーヤーが拘束力のある合意(連合)を結べるゲーム。労使交渉・政治連合などが例 |
| 非協力ゲーム | Non-cooperative Game | 各プレーヤーが独立に行動し、拘束力ある合意を結べないゲーム。ナッシュ均衡が主要な均衡概念 |
| 完全情報ゲーム | Perfect Information Game | 全プレーヤーが過去の全手番を知っているゲーム。囲碁・将棋・チェスが典型例 |
| 不完全情報ゲーム | Imperfect Information Game | 一部の手番が観察できないゲーム。ポーカーのように相手の手が見えない状況が該当 |
| 完備情報ゲーム | Complete Information Game | 全プレーヤーの利得関数が全員に知られているゲーム |
| 不完備情報ゲーム | Incomplete Information / Bayesian Game | 相手の利得関数(タイプ)が不明なゲーム。「ベイジアンゲーム」とも呼ばれる |
| 静的ゲーム | Static Game | 全プレーヤーが同時に行動し、互いの行動を観察できないゲーム。じゃんけんが典型例 |
| 動的ゲーム | Dynamic Game | 手番が順番に進み、先の行動を後のプレーヤーが観察できるゲーム |
| 標準型ゲーム | Normal Form Game | 戦略と利得を行列(表)で表現したゲームの形式 |
| 展開型ゲーム | Extensive Form Game | 手番の順序と情報をゲーム木(樹形図)で表現したゲームの形式 |
| 繰り返しゲーム | Repeated Game | 同じゲームを複数回繰り返すゲーム。評判効果で協力が生まれやすくなる |
有名なゲームモデル(6語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| 囚人のジレンマ | Prisoner's Dilemma | 互いに協力が最善でも、相手を信頼できず裏切りを選ぶジレンマ。社会的ジレンマの原型 |
| チキンゲーム | Chicken Game | どちらかが譲らなければ両者とも最悪の結果になる「先に引いた方が負け」の構図 |
| スタッグハント | Stag Hunt / 雄鹿狩りゲーム | 協力すれば大きな利得を得られるが、相手の行動が不確かな場合の協調のジレンマ |
| 男女の闘い(BOS) | Battle of the Sexes | 双方が別の行動を望むが、二人でいることに価値がある利益相反のコーディネーションゲーム |
| 最後通牒ゲーム | Ultimatum Game | 提案者が分け前を提示し、受取人が拒否すると双方ゼロになる実験ゲーム。人間の公平感を測る |
| 独裁者ゲーム | Dictator Game | 受取人は何もできず、提案者だけが分け前を決める実験ゲーム。利他性・公正感を測定する |
発展・応用概念(12語)
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| 用語 | 英語名 | 意味・解説 |
|---|---|---|
| バックワードインダクション | Backward Induction / 後ろ向き帰納法 | ゲーム木の末尾から逆算して最適解を導く解法。部分ゲーム完全均衡の求め方 |
| フォーク定理 | Folk Theorem / 民間定理 | 繰り返しゲームで割引因子(忍耐度)が十分大きければ協力が均衡として成立するという定理 |
| ミニマックス定理 | Minimax Theorem | 1928年にフォン・ノイマンが証明。2人ゼロサムゲームには混合戦略を含む均衡が必ず存在する |
| シグナリング | Signaling | 情報優位の側(能力の高い求職者など)が質を証明するために費用のかかる行動をとること |
| スクリーニング | Screening | 情報劣位の側(採用企業など)が相手のタイプを選別する仕組みを設計すること |
| モラルハザード | Moral Hazard | 契約後に情報が非対称になり行動を監視できないため、非効率な行動が生じる現象 |
| 逆選択 | Adverse Selection | 情報の非対称性から市場に質の低いものだけが残る現象。アカロフの「レモン問題」が有名 |
| オークション理論 | Auction Theory | 入札のルール設計を最適化する理論。第2価格封印入札(ビックリー・オークション)が代表例 |
| マッチング理論 | Matching Theory | 安定的なマッチングを設計する理論。ゲール=シャープレーのアルゴリズムで安定マッチングを求める |
| ナッシュ交渉解 | Nash Bargaining Solution | 協力ゲームにおける公正な分配点。双方の利得の積を最大化する点として定義される |
| 進化ゲーム理論 | Evolutionary Game Theory | 自然選択を戦略の普及に応用した理論。生物の行動進化を分析する |
| タカ-ハトゲーム | Hawk-Dove Game | 攻撃的な「タカ」型と穏和な「ハト」型の戦略が集団内で共存する割合を示す進化ゲームモデル |
代表的なゲームモデルを解説
囚人のジレンマ
二人の容疑者AとBが別々の部屋で尋問を受けています。「沈黙」か「自白」かを選ぶとき、利得はこうなります。
- 両方が沈黙:証拠不十分でAもBも懲役1年
- Aが自白・Bが沈黙:Aは無罪放免、Bは懲役10年(逆も同様)
- 両方が自白:AもBも懲役5年
二人が「沈黙」を貫けば最も良い結果(各1年)になるにもかかわらず、相手が自白するかもしれないという不確かさから、合理的な二人はどちらも「自白」を選んでしまいます。これが囚人のジレンマです。
現実の例としては、軍拡競争(互いに軍縮するのが最善でも、相手が軍拡するなら自分も軍拡せざるをえない)、企業の価格競争(各社が値下げを続けて全社の利益が下がる)、環境問題(各国が排出削減のコスト負担を嫌い、結果として気候変動が進む)などが挙げられます。
チキンゲーム
「チキン(臆病者)ゲーム」という名の通り、先に車を止めた方が負けという度胸比べです。二台の車が正面から向かい合って走り、「ハンドルを切る(回避)」か「直進する」かを選びます。
- 両方が直進:激突して最悪の結果(双方に大損害)
- 自分が直進・相手が回避:自分が「勝ち」、相手は「負け」(面目丸つぶれ)
- 両方が回避:双方が「チキン」扱いだが無傷
チキンゲームで重要なのがコミットメント戦略です。「ハンドルを壊して直進するしかできない状況を相手に見せる」ことで、相手は必ず回避します。「後に引けない状況を先に作る」ことで優位に立てるのです。冷戦期の核抑止(MAD:相互確証破壊)は、「先制攻撃されたら必ず報復する」というコミットメントでこの構造を利用しています。
スタッグハント(雄鹿狩りゲーム)
哲学者ルソーが著作「人間不平等起源論」(1755年)で考案したとされるゲームです。二人の狩人が「雄鹿を一緒に狩る」か「一人でウサギを狩る」かを選びます。
- 両方が雄鹿を選ぶ:協力成功で大きな利得(各自に大きな獲物)
- 一方だけが雄鹿を選ぶ:雄鹿は逃げてしまい利得ゼロ。他方はウサギを独り占め
- 両方がウサギを選ぶ:小さいが確実な利得
囚人のジレンマと異なり、スタッグハントでは「協力する」ことも「ウサギを選ぶ」ことも、どちらもナッシュ均衡です。相手も協力すると信じれば、自分も協力した方が得。問題はリスクにあります。相手を信頼できなければ、安全策としてウサギを選んでしまう。この「調整の失敗」は、社会制度・信頼・文化の重要性を示しています。
最後通牒ゲームと独裁者ゲーム
最後通牒ゲームは、提案者が1,000円を「自分900円・相手100円」のように分けて提案し、相手が拒否すると双方ゼロになる実験です。純粋に合理的なら「1円でも受け取る方が得」なので拒否しないはずですが、実際には30%以下の提案はしばしば拒否されます。人間には「不公平な扱いを受けるくらいなら自分も損をする」という強い公平感があるのです。
独裁者ゲームは拒否権を外したバージョン。提案者が一方的に配分を決めます。「合理的な人間は1円も渡さない」はずですが、実験では平均20〜30%程度を相手に渡す結果になっています。人間の利他性の根強さを示す実験として、行動経済学の発展に大きく貢献しました。
現実世界への応用とノーベル経済学賞
経済・ビジネス・政策への応用
ゲーム理論は現代経済学の中心にあります。オークション設計・労使交渉・産業組織(企業間競争)・規制政策など、実際の政策立案に広く使われています。
2020年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンは、オークション理論の研究で知られています。彼らの成果は、米国の電波周波数帯域オークション設計に実際に応用されました。また2012年受賞のアルヴィン・ロスとロイド・シャープレーはマッチング理論(安定マッチング)で、医師と研修病院の配置・学校選択制度などの設計に貢献しています。
経済学の用語一覧|ミクロ・マクロから行動経済学まで基礎知識122選
政治・外交・生物進化への応用
政治・外交: 核抑止(MAD:相互確証破壊)はチキンゲームの構造で理解できます。「先に攻撃されても必ず報復する」というコミットメントが相手の先制攻撃を抑止します。WTOの多国間貿易交渉は繰り返しゲームのフォーク定理で協力が成立する条件を示しています。
生物進化: 進化ゲーム理論の「タカ-ハトゲーム」は、攻撃型(タカ)と穏和型(ハト)の動物が集団内で共存する割合を予測します。どちらか一方が集団を制圧しようとすると均衡が崩れ、最終的に両者が共存する混合状態に落ち着くことを示します。自然選択における戦略の安定性(ESS)は、生物の行動がいかに進化するかを説明します。
ゲーム理論とノーベル経済学賞
ゲーム理論の研究者は多くのノーベル経済学賞を受賞しており、理論の影響の大きさがわかります。
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| 受賞年 | 受賞者 | 主な業績 |
|---|---|---|
| 1994年 | ジョン・ナッシュ、ジョン・ハーサニ、ラインハルト・ゼルテン | ナッシュ均衡、不完備情報ゲーム、部分ゲーム完全均衡 |
| 2005年 | ロバート・オーマン、トーマス・シェリング | 相関均衡・繰り返しゲーム分析、フォーカルポイント・コミットメント理論 |
| 2007年 | レオニード・ハーウィッツ、エリック・マスキン、ロジャー・マイヤーソン | メカニズムデザイン理論の基礎確立 |
| 2012年 | アルヴィン・ロス、ロイド・シャープレー | 安定マッチング理論とマーケットデザインの実践 |
| 2014年 | ジャン・ティロール | 市場支配力と規制の分析(産業組織論) |
| 2020年 | ポール・ミルグロム、ロバート・ウィルソン | オークション理論の改良と新形式の発明 |
なかでもジョン・ナッシュの生涯は映画「ビューティフル・マインド」(2001年)で描かれ、統合失調症と闘いながらも研究を続けた数学者として世界的に知られています。1994年のノーベル経済学賞受賞後も研究を継続し、2015年に数学のノーベル賞と呼ばれるアーベル賞をルイス・ニーレンバーグとともに受賞。帰途に交通事故で妻とともに突然の死を迎えました。
まとめ
ゲーム理論は「複数の人が互いを意識しながら行動するとき、何が起きるか」を数学で解き明かす学問です。今回整理した51語のうち、まず押さえたいのは「ナッシュ均衡」「囚人のジレンマ」「パレート最適」「ゼロサムゲーム」の4つ。日常のニュース(貿易交渉・企業の価格競争・環境問題)もゲーム理論の視点で読み解くと、背後の構造が見えてきます。人間の不合理な行動に興味があるなら、認知バイアスと合わせて学ぶのがおすすめです。
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