
文章の修正を人に頼むとき、「3行目の2文字目を直して」「この段落を削除して」とメモに書いても、受け取った側が迷ってしまうことがあります。そこで使われるのが校正記号です。
校正記号は、修正指示を一目で伝えるための「文章修正の共通言語」。日本産業規格(JIS Z 8208:2007。2019年までの名称は日本工業規格)として標準化されており、出版・編集・印刷・DTPの現場で広く使われています。この記事は、記号の形そのものを図示するのではなく、「どの記号が何を意味し、どのように使うか」を44種類すべて解説することに主眼を置き、読み方・意味・書き方のポイントを10カテゴリのテーブルにまとめました。記号の正確な図形(実際の形)は規格票や専門書で規定されているため、規格そのものを確認したい場合は、日本産業標準調査会(JISC)の規格の入手・閲覧方法から「JIS Z 8208」を参照してください(本文の閲覧には利用者登録が必要です)。
校正記号を使う前に知っておく3つの基本ルール
実際に記号を使う前に、現場での基本ルールを確認しておきましょう。
赤のボールペンで書く
校正指示は赤色のボールペンで書くのが原則です。黒いテキストと区別しやすく、見落としを防げます。著者・編集者が赤を使い、印刷所の校正担当者が緑を使うなど、色で担当者を区別する現場もあります。「とりあえずの指示」や「取り消す可能性がある指示」には、消しゴムで消せる鉛筆を使うと安心です。
引き出し線を正確に引く
校正指示は、修正箇所から引き出し線(ひきだしせん)を余白まで引き、その先に記号や指示内容を書き込みます。修正箇所に直接書き込むと文字が重なって読みにくくなるため、必ず余白に向けて引き出します。行が込み合っているときは、余白の広い方向(上下・左右の余白)を選んで引き出しましょう。
修正箇所と指示は明確に
「どこを」「どう直すか」の2点が一致しないと、指示として成立しません。対象の文字は斜線や記号でしっかり示し、指示内容は略さず明確に書きます。「この辺を直して」のような曖昧な指示では、受け取った側が判断できないため注意が必要です。
校正記号一覧44種|カテゴリ別完全網羅
JIS Z 8208:2007(印刷校正記号)に基づく44種類を10カテゴリに分けて掲載します。
① 訂正・削除・挿入(基本の修正)
最もよく使われる5種類です。削除の記号は「トル」「トルツメ」「トルアキ」の3種類があり、使い分けが重要です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 訂正 | ていせい・修正 | 文字・記号を別の文字・記号に変更する。最も基本的な校正指示 | 直す文字に斜線を引き、引き出し線の先に正しい文字を書く |
| トル | とる・削除 | 文字・記号・語句を削除し、前後を詰める。削除の基本形 | 削除したい文字にへ字型の記号(⌒)をかぶせて引き出す |
| トルツメ | とるつめ | 削除して前後の文字を詰める。「トル」と同義で使われることも多い | トルの記号に「ツメ」と明記して区別する |
| トルアキ | とるあき | 削除するが前後を詰めず、その分の空きを残す | トルの記号に「アキ」と明記して区別する |
| 文字・記号の挿入 | そうにゅう | 文字・記号・語句を途中に追加する | 挿入箇所に∧(キャレット)を書き、引き出し線の先に追加内容を記載 |
② 位置の変更・移動
文字や語句の位置を変えるときに使います。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 隣接文字の入れ替え | 入れ替え・スワップ | 隣り合う文字の順序を入れ替える(例:「あえい」→「あいえ」) | 対象の2文字を弧を描いた矢印でつなぎ、逆にすることを示す |
| 文字・語句の移動 | 移動・ムーブ | 文字・語句・行を別の位置へ移動させる | 移動元に角カッコ状の枠をつけ、移動先を矢印で示す |
③ ルビ(振り仮名)の指示
振り仮名の付加・変更・削除を指示する3種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| ルビ付加 | ふりがな追加 | 文字にルビ(振り仮名)を新たに付ける | 対象の文字の横に括弧でルビを書き、「ルビ」と注記する |
| ルビ変更 | ふりがな訂正 | 既存のルビ(振り仮名)を別の読みに変更する | 既存ルビに斜線を引き、正しいルビを書き直す |
| ルビ削除 | ふりがなトル | 既存のルビ(振り仮名)を取り除く | ルビにトルの記号(⌒)をかぶせて「トル」と指示 |
④ 改行・改段・改ページ・インデント
行や段落の区切りを変えるときに使う7種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 改行 | かいぎょう | その箇所で行を変える(改行を入れる) | 改行箇所にL字型の記号を書き込む |
| つなぐ | 改行取り消し | 改行されている箇所をつないで1行にする | 行末と次の行頭を弧(⌒のような形)でつなぐ |
| 改段 | かいだん・段落変え | 段落を改める(改行+字下げ) | 改行記号に「改段」と添記する |
| 改ページ | かいぺーじ | 新しいページから始める | 改ページ箇所に「改ページ」と記号・文字で指示 |
| 改丁 | かいちょう | 次の丁(本のページ区切り)から始める | 「改丁」と明記する |
| 字下げ | じさげ・インデント | 行頭を指定量だけ内側に下げる | 「□」(1字分)など字数で量を明記して指示 |
| 字上げ | じあげ | 字下げされた行頭を外側に戻す | 「字上げ」または戻す量を明記する |
⑤ 字間・行間の調整
文字と文字の間隔、行と行の間隔を調整する4種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 字間を詰める | じかんツメ・ベタ詰め | 文字と文字の間隔を狭める。ベタ(隙間なし)まで詰めることが多い | 詰める箇所を矢印(→←)で示し「ツメ」と添記 |
| 字間を空ける | じかんアキ | 文字と文字の間隔を広げる。「1字アキ」など量を明記する | 空ける箇所に←→の矢印と量を明記 |
| 行間を詰める | ぎょうかんツメ | 行と行の間隔を狭める | 行間に「ツメ」または「ベタ」と指示 |
| 行間を空ける | ぎょうかんアキ | 行と行の間隔を広げる。「○倍アキ」など量を指定する | 行間に「○○アキ」と量を明記 |
⑥ 書体・文字種の変更
明朝体・ゴシック体・太字など、文字の見た目を変えるときに使う8種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 明朝体に変更 | みんちょうたい・ミン | ゴシック体などから明朝体に変更する | 「明」または「M」と記号を書き込む |
| ゴシック体に変更 | ごしっくたい・ゴチ | 明朝体などからゴシック体に変更する | 「ゴ」または「G」と記号を書き込む |
| 太字(ボールド)に変更 | ふとじ・Bold | 文字を太字(ボールド体)に変更する | 「太」または「B」と明記 |
| 細字に変更 | ほそじ・Light | 文字を細字(ライト体)に変更する | 「細」または「L」と明記 |
| イタリックに変更 | いたりっく・斜体 | 文字を斜体(イタリック体)に変更する | 「斜」または「Ital」と明記 |
| ローマンに変更 | ろーまん・直立体 | 斜体から直立体(ローマン体)に戻す | 「ロー」または「Rom」と明記 |
| 大文字に変更 | おおもじ・大文字化 | 英字の小文字を大文字に変更する | 「大」または「Cap」と明記 |
| 小文字に変更 | こもじ・小文字化 | 英字の大文字を小文字に変更する | 「小」または「lc」と明記 |
⑦ 仮名の変換(直音・小書き仮名)
「あ」と「ぁ」のように、通常の仮名と小書き仮名を切り替える2種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 直音に変更 | ちょくおん化 | 小書き仮名(ぁぃぅぇぉっゃゅょ)を通常の直音に変更する | 「直音」と添記するか、正しい仮名を書き添える |
| 小書き仮名に変更 | こがきかな化・拗音化 | 直音の仮名を小書き仮名(ぁぃぅぇぉっゃゅょ)に変更する | 「小」と添記するか、変更後の仮名(ぁなど)を書き添える |
⑧ 文字サイズ・上付き・下付き文字
文字の大きさや位置(上付き・下付き)を変える3種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 文字サイズの変更 | もじサイズ・Q数変更 | 文字の大きさをQ数(級数)またはポイント数で指定変更する | 「○Q」「○pt」と数値を明記して指示 |
| 上付き文字 | うえつき・上つき | 文字の右上(または左上)に小さく表示する(注釈番号・指数など) | 対象の文字を□で囲み「上付き」と指示 |
| 下付き文字 | したつき・下つき | 文字の右下(または左下)に小さく表示する(化学式の数字など) | 対象の文字を□で囲み「下付き」と指示 |
⑨ 傍点・圏点・傍線
文字の強調表現(点・丸・線)に関する6種類です。縦組みと横組みで付ける位置が異なります。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 傍点の付加 | ぼうてん追加 | 文字の横(縦組み:右側、横組み:上側)に小さな点(・)を付ける。強調に使う | 対象文字の横に「・」を並べるか「傍点」と指示 |
| 傍点の削除 | ぼうてんトル | 既存の傍点を削除する | 傍点にトルの記号(⌒)をかぶせる |
| 圏点の付加 | けんてん追加 | 文字の横に小さな丸(○または●)を付ける。傍点より強い強調表現 | 対象文字の横に「○」を並べるか「圏点」と指示 |
| 圏点の削除 | けんてんトル | 既存の圏点を削除する | 圏点にトルの記号をかぶせる |
| 傍線・下線の付加 | ぼうせん追加 | 文字の横(縦組み:右側、横組み:下側)に線を引く。強調・書名表記などに使う | 線を引く文字に「_」を添えるか「傍線」と指示 |
| 傍線・下線の削除 | ぼうせんトル | 既存の傍線・下線を削除する | 傍線にトルの記号をかぶせる |
⑩ その他・特殊な記号
転倒文字や不良文字の修正、指示の取り消しなど特殊な場面で使う4種類です。
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| 記号名 | 読み方・別称 | 意味・用途 | 書き方のポイント |
|---|---|---|---|
| 転倒文字の修正 | てんとうもじ | 文字が逆さまや横倒しになって印刷されている場合の修正指示 | 「転倒」または逆さの文字に記号をつけ正しい向きを示す |
| 不良文字の修正 | ふりょうもじ | 文字の印刷がかすれたり欠けたりしている場合の修正指示 | 不良箇所に「不良」または「×」を添えて指示 |
| 修正の取り消し(スデニ) | すでに・stet | 一度赤字で修正した指示を取り消し、もとの文字・状態のままにする | 「スデニ」「stet(英語)」または二重下線で取り消しを示す |
| 指示の取り消し(イキ) | いき・活かす | 校正指示そのものを無効化する(「この指示はなかったことに」) | 「イキ」と書いて指示の上に×をつけ無効化する |
豆知識|校正記号をもっと深く知る
JIS Z 8208の制定と改正の歴史
校正記号の日本工業規格(JIS)は1965年(昭和40年)に「JIS Z 8208」として初めて制定されました。活版印刷が主流だった時代の規格で、文字の転倒・欠落・不良印字など活版特有の問題に対応する記号も含まれています。
その後2007年(平成19年)に大幅に改正され、ルビへの訂正記号や書式変更を指示する記号が追加されたほか、「主記号」と「併用記号」の区分が整備されました。現在使われているのはこのJIS Z 8208:2007が基準です。
赤・緑・鉛筆の使い分け
校正の現場では、担当者によって使う色を変えるルールが広く定着しています。一般的には著者・編集者が赤、印刷所の校正担当者が緑または青で書き込みます。こうすることで「誰が何を指示したか」が一目でわかります。また、消去する可能性のある仮指示には鉛筆を使うことで、後から修正しやすくなります。
デジタル校正との関係
近年はWordやAdobe Acrobatのコメント機能、専用の校正管理ツールを使ったデジタル校正も普及しています。しかしデジタル環境でも「ここはトルツメ」「ゴシックに変更」のような校正記号由来の言語は共通のコミュニケーション手段として生き続けています。紙とデジタルの両方を使う現場が多い今日、校正記号の知識は編集・DTP・ライターのいずれを問わず基礎スキルとして役立ちます。
まとめ
校正記号はJIS Z 8208:2007で標準化された「文章修正の共通言語」です。今回は訂正・削除・挿入・位置変更・ルビ・改行・字間行間・書体変更・傍点・特殊記号まで44種類を10カテゴリに分けてまとめました。記号を覚えておくと、編集者・デザイナー・印刷会社との修正指示のやり取りがぐっとスムーズになります。
記号の仲間として、よく使う記号の名前・正式名称一覧や数学記号131種の一覧もあわせてご覧ください。