
2026年7月26日、奈良県の「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」がユネスコ世界文化遺産に登録されました。韓国・釜山で開かれた第48回世界遺産委員会での決定で、日本としては27件目の世界遺産です。日本の古代国家が生まれた地を物語る宮殿跡・仏教寺院跡・古墳など計19の構成資産を、登録理由や見どころとあわせて解説します。
飛鳥・藤原の宮都とは
奈良県南部の飛鳥地方(明日香村・橿原市・桜井市)に点在する古代宮都の遺跡群です。対象となる時代は6世紀末(飛鳥寺の建立が始まった588年頃)から8世紀初頭(710年の平城京遷都まで)の約120年間で、この時期を「飛鳥時代」と呼びます。
日本史上最初の本格的な律令国家が形成された舞台であり、大化の改新(645年)・飛鳥浄御原令(689年)・大宝律令(701年)など日本の国家の骨格を作る出来事が次々と起きた地です。中国大陸・朝鮮半島からの文化流入が加速し、建築・仏教・政治制度・文字が定着したのもこの時代のことでした。
19の資産は一カ所に集まった遺跡ではなく、複数の地域に分散した関連資産を一体として評価する「シリアル遺産(連続性のある資産群)」として登録されています。宮都の「政治・行政」「仏教文化」「墓制」を示す3種類の遺跡が相互補完的に組み合わさり、古代国家の全体像を描き出しています。
世界遺産に登録された理由
「飛鳥・藤原の宮都」に認められた登録基準は以下の2つです。
基準(ii) 〈文化の交流と伝播〉
中国大陸や朝鮮半島との外交・交易を通じ、建築技術・仏教・律令・漢字などが日本に導入されました。飛鳥地方の遺跡はその交流の具体的な証拠を今に伝え、後世の日本文化にも多大な影響を与え続けています。たとえば飛鳥の建築は掘立柱中心から、藤原京では礎石建物・瓦葺きへと大陸式に移行するプロセスが遺跡から読み取れます。
基準(iii) 〈文明・文化の証拠〉
飛鳥の宮(天皇ごとに移動する一時的な宮殿)から藤原宮(中国の都城制に倣った条坊制の本格的都城)へと移行する過程は、東アジアにおける古代都市国家の形成を示す希有な考古学的証拠です。宮殿・寺院・墓という異なる性格の資産群が一体となってこの変容を立体的に証明しています。
19の構成資産一覧
宮殿・官衙跡(5件)
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| # | 資産名 | 所在地 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 1 | 飛鳥宮跡 | 明日香村 | 推古天皇から持統天皇の時代にかけて複数の宮殿が重なる中核的遺跡。大化の改新の舞台でもある |
| 2 | 飛鳥京跡苑池 | 明日香村 | 7世紀後半(天武・持統天皇期)の宮廷庭園跡。南北2つの池と島状遺構が発掘で確認されている |
| 3 | 飛鳥水落遺跡 | 明日香村 | 660年代に天智天皇が設置したとされる漏刻(水時計)の遺跡。公式な時刻制度を初めて整えた施設 |
| 4 | 酒船石遺跡 | 明日香村 | 加工された石造物群。祭祀施設・庭園水路施設など諸説あり、飛鳥の謎のひとつとして知られる |
| 5 | 藤原宮跡 | 橿原市 | 694年に持統天皇が遷都した日本初の条坊制(碁盤目状区画)都城。710年の平城京遷都まで16年間続いた |
仏教寺院跡(7件)
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| # | 資産名 | 所在地 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 6 | 飛鳥寺跡 | 明日香村 | 588年に蘇我馬子が建立着手した日本最古の本格的仏教寺院(別名:法興寺跡)。現在は飛鳥大仏が残る |
| 7 | 橘寺跡 | 明日香村 | 聖徳太子(厩戸皇子)の誕生地と伝わる。太子が建立したとされる寺院の跡地 |
| 8 | 山田寺跡 | 桜井市 | 641年頃に蘇我倉山田石川麻呂が建立。廻廊の一部が地中で原形保存された状態で発掘されている |
| 9 | 川原寺跡 | 明日香村 | 7世紀後半に天智天皇が建立した「四大寺」のひとつ(弘福寺の前身)。白鳳文化の成果を示す |
| 10 | 檜隈寺跡 | 明日香村 | 渡来系氏族・東漢氏の氏族寺院の跡。朝鮮半島から渡来した文化が飛鳥にもたらされた痕跡 |
| 11 | 大官大寺跡 | 橿原市 | 天武・持統天皇が拡大整備した国家の最高位寺院。当時の官立大寺の規模を示す貴重な遺構 |
| 12 | 本薬師寺跡 | 橿原市 | 680年頃に天武天皇が発願した薬師寺の元の場所。後に平城京に移転(現・薬師寺)。東西の塔の礎石が現存 |
墳墓(7件)
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| # | 資産名 | 所在地 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 13 | 石舞台古墳 | 明日香村 | 蘇我馬子の墓という説が有力(6世紀末〜7世紀初頭)。日本最大の横穴式石室で巨石が露出した景観が有名 |
| 14 | 菖蒲池古墳 | 明日香村 | 7世紀の両袖型横穴式石室をもつ古墳。二上山産サヌカイトの石棺が残る |
| 15 | 牽牛子塚古墳 | 明日香村 | 八角形墳(八角墳)の代表例。斉明天皇と間人皇女の合葬墓とする説が有力 |
| 16 | 天武・持統天皇陵古墳 | 明日香村 | 天武天皇と持統天皇が合葬された八角墳。律令国家を確立した両天皇が眠る |
| 17 | 中尾山古墳 | 明日香村 | 八角形の墳丘をもつ古墳。文武天皇陵の有力候補とされている |
| 18 | キトラ古墳 | 明日香村 | 石室内に四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)・天文図・十二支像の壁画が描かれた7世紀末〜8世紀初頭の古墳 |
| 19 | 高松塚古墳 | 明日香村 | 1972年の発掘で「飛鳥美人」と呼ばれる彩色壁画が発見され話題を呼んだ。被葬者は貴族・皇族とみられる |
主要資産の見どころ
石舞台古墳|日本最大の石室が露出した壮観な遺跡
国内最大規模の横穴式石室で、天井石を含む約30個の巨石が地上に剥き出しになっています。最大の天井石は推定77トン。もともとは封土(土盛り)で覆われていましたが、後世に剥ぎ取られたと考えられています。石室内には実際に入ることができ、古代の石組み技術を間近に体感できます。築造は6世紀末〜7世紀初頭で、大豪族・蘇我馬子の墓という説が長く有力とされてきました。
高松塚古墳・キトラ古墳|飛鳥を代表する壁画古墳
高松塚古墳は1972年に地元の農夫が発見した壁画古墳。石室壁面の「飛鳥美人」(女性群像)は日本最古の本格的な人物彩色壁画として当時大きな話題を呼びました。被葬者は高位の貴族・皇族とみられますが、現在も特定には至っていません。
キトラ古墳は1983年から本格的な調査が始まり、四神・天文図(星座図)・十二支の3種の壁画が確認されました。なかでも天文図は東アジアに現存する最古の科学的天文図のひとつとされ、当時の先進的な天文知識が凝縮されています。両古墳は明日香村に隣接して位置し、現在は保存施設で壁画の一部を見学できます。
藤原宮跡|日本初の条坊制都城の広大な跡地
694年に持統天皇が遷都し、文武天皇・元明天皇と3代にわたって機能した都の跡地。南北・東西それぞれ約1kmにわたる広大な宮殿域に、「大極殿(だいごくでん)」「朝堂院」「内裏」が整然と配置されていました。中国の都城制(条坊制)を取り入れた最初の日本の都で、後の平城京・平安京の原型となった都市計画でもあります。現在は広大な原野と菜の花畑が広がり、春の黄色い絨毯と大和三山(香具山・畝傍山・耳成山)の景色が見どころとなっています。
飛鳥水落遺跡|日本最初の「時間」の基盤
天智天皇が660年代に設置したとされる「漏刻(ろうこく)」、すなわち水時計の遺跡です。水の流れで時間を計るこの装置によって、日本の朝廷は初めて公式に時刻を管理する体制を整えました。発掘では礎石・導水管・分水施設の跡が確認されており、現在はコンクリートで整備され遺構の位置を示す石碑が立ちます。「飛鳥時代に時間が制度化された」という歴史的な重みを感じさせる遺跡です。
飛鳥寺跡(飛鳥大仏)|日本最古の仏像を安置する寺
蘇我馬子が推古天皇元年(593年)に建立した日本最古の本格的仏教寺院・法興寺の跡地。現在は「飛鳥寺(安居院)」として小さく残り、境内には日本最古とされる飛鳥大仏(銅造釈迦如来坐像)が安置されています。推古天皇17年(609年)に仏師・鞍作止利が鋳造したとされ、現在も創建当時の姿で参拝者を迎えています。
アクセスと観光の目安
19の資産は明日香村・橿原市・桜井市の3地域に分散しています。交通の拠点は近鉄大阪線・吉野線の橿原神宮前駅・飛鳥駅・岡寺駅です。
明日香村エリア(飛鳥宮跡・石舞台古墳・高松塚古墳・キトラ古墳など)はレンタサイクルが特に有効で、村内を半日〜1日で効率よく巡れます。藤原宮跡・本薬師寺跡・大官大寺跡は橿原市内にあり、飛鳥駅から自転車で30〜40分、またはバスや車を利用すると便利です。
各資産の入場料・開館時間・最新イベント情報は変動する場合があるため、訪問前に飛鳥・藤原の宮都登録推進協議会公式サイトで最新情報を確認することをおすすめします。
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まとめ
「飛鳥・藤原の宮都」は、2026年7月26日(第48回世界遺産委員会・韓国釜山)にユネスコ世界文化遺産として登録された日本27件目の遺産です。大陸との文化交流(基準ii)と古代宮都の形成過程(基準iii)が評価され、宮殿跡5件・仏教寺院跡7件・墳墓7件の計19資産が一体として登録されました。石舞台古墳・高松塚古墳・藤原宮跡など見どころも多く、日本の国家誕生の舞台を訪ねる旅として奈良への訪問計画に加えてみてはいかがでしょうか。
日本の世界遺産の全体像は日本の世界遺産一覧|文化遺産・自然遺産の全26件と2026年の新登録もあわせてご覧ください。世界遺産の種類や登録基準の詳細は世界遺産とは|種類・登録基準・危機遺産の違いをやさしく解説で解説しています。
参考・出典
- 世界遺産クエスト「飛鳥・藤原の宮都とは?2026年世界遺産に登録決定|19の構成資産と登録理由」 https://world-heritage-quest.com/ancient-capitals-of-asuka-and-fujiwara/ (2026-09-20参照)