
「血液型はA型・B型・O型・AB型の4種類」──そう思っている人が多いですが、実はそれはABO式という1つのシステムに過ぎません。なお血液型の相性や血液型別の性格・特徴については別記事で詳しく紹介しています。国際輸血学会(ISBT)が認定する血液型システムだけで47種以上あり、抗原の総数は380種を超えます。ABO・Rh以外にも輸血で重要なKell式・Duffy式・Kidd式など、体内の赤血球表面には多様な抗原システムが存在します。本記事では、ISBT公認の全血液型システムをISBT番号順に網羅し、各システムの主な抗原・輸血上の重要度を解説します。
ABO式血液型(ISBT: 001)
ABO式は最もよく知られた血液型システムで、赤血球表面に存在するA抗原・B抗原の有無によって4型に分類されます。輸血において不適合(異型輸血)が起きると激しい溶血反応を引き起こすため、輸血の基本中の基本として検査されます。
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| 血液型 | 赤血球の抗原 | 血清中の抗体 | 日本人の割合(目安) |
|---|---|---|---|
| A型 | A抗原 | 抗B抗体 | 約40% |
| B型 | B抗原 | 抗A抗体 | 約20% |
| O型 | なし | 抗A・抗B抗体 | 約30% |
| AB型 | A抗原・B抗原 | なし | 約10% |
- A抗原・B抗原はアミノ糖・ガラクトースなどからなる糖鎖で、赤血球膜上の糖タンパク・糖脂質に結合しています。
- H抗原(ISBT: 018)はA・B抗原の前駆体で、O型の人はH抗原を最も多く持ちます。
- 亜型(A₁型・A₂型など)が存在し、稀な亜型は輸血時に問題になることがあります。
Rh式血液型(ISBT: 004)
Rh式はABO式に次いで輸血で最も重要なシステムです。Rh系には50種以上の抗原がありますが、臨床上最重要なのはD抗原(RhD)です。
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| 表記 | D抗原の有無 | 日本人の割合 |
|---|---|---|
| Rh陽性(Rh+) | D抗原あり | 約99.5% |
| Rh陰性(Rh−) | D抗原なし | 約0.5% |
RhD陰性の人にD抗原陽性の血液を輸血すると抗D抗体が産生されます。2回目以降は激しい溶血反応を引き起こすため、輸血前に必ずRhD検査を行います。また妊婦がRh陰性で胎児がRh陽性の場合、「Rh不適合妊娠」(新生児溶血性疾患の原因)になりえます。
Rh式の主な抗原はC・c・D・E・eの5種類で、「CcDEe」の5つを組み合わせた「Rh式の表現型」(例:DCCee、DccEe)で表すことがあります。
血液型システム完全一覧(ISBT公認・全47システム)
国際輸血学会(ISBT)が公認した血液型システムをISBT番号順に掲載します(2025年5月時点・47システム・380以上の抗原)。輸血上の重要度は🔴高・🟡中・⚪低を目安にしています。
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| ISBT番号・システム名 | 主な抗原(抗原数) | 輸血上の重要度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 001 ABO | A, B(4種) | 🔴高 | 最重要。不適合輸血で重篤な溶血反応 |
| 002 MNS式血液型 | M, N, S, s(50種) | 🟡中 | 妊婦の新生児溶血性疾患に関係 |
| 003 P1PK式血液型 | P1, Pk, P(3種) | 🟡中 | P1は輸血で稀に問題。Pkは稀血 |
| 004 Rh | D, C, c, E, e 他(56種) | 🔴高 | ABO次に最重要。50種以上の抗原 |
| 005 Lutheran(ルーテラン) | Lua, Lub(27種) | ⚪低 | Lu(a-b-)は稀血。溶血反応はまれ |
| 006 Kell(ケル) | K, k(36種) | 🔴高 | 免疫原性が3番目に高い。抗K抗体は危険 |
| 007 Lewis(ルイス) | Lea, Leb(6種) | 🟡中 | 赤血球自体でなく血漿から吸着した抗原 |
| 008 Duffy(ダフィー) | Fya, Fyb(5種) | 🔴高 | 三日熱マラリア原虫の侵入口として機能 |
| 009 Kidd(キッド) | Jka, Jkb(3種) | 🔴高 | 抗体が弱く検出困難。遅発性溶血反応の代表 |
| 010 Diego(ディエゴ) | Dia, Dib(23種) | 🟡中 | アジア人・アメリカ先住民にDia抗原が多い |
| 011 Yt式血液型 | Yta, Ytb(5種) | ⚪低 | 抗Yta抗体は稀に輸血反応を起こす |
| 012 Xg式血液型 | Xga(2種) | ⚪低 | 性染色体(X染色体)連鎖の唯一の血液型 |
| 013 Scianna(シアナ) | Sc1, Sc2(9種) | ⚪低 | 希少な系統。溶血性疾患への関与は少ない |
| 014 Dombrock(ドンブロック) | Doa, Dob(10種) | 🟡中 | Do(a-b-)は稀血の一種 |
| 015 Colton(コルトン) | Coa, Cob(4種) | 🟡中 | 稀な輸血反応・新生児溶血性疾患に関与 |
| 016 LW(ランドシュタイナー・ウィーナー) | LWa, LWb(3種) | ⚪低 | RhD抗原と関連するが別システム |
| 017 Chido/Rodgers | Ch1–6, Rg1–2(9種) | ⚪低 | 補体成分C4aおよびC4b由来の抗原 |
| 018 H | H(1種) | 🔴高 | ABO抗原の前駆体。H欠損がボンベイ型 |
| 019 Kx | Kx(1種) | 🟡中 | McLeod症候群(神経筋疾患)と関連 |
| 020 Gerbich(ガービック) | Ge2, Ge3, Ge4(11種) | ⚪低 | 新生児溶血性疾患に関与する例あり |
| 021 Cromer(クロマー) | Cra(19種) | ⚪低 | 補体調節タンパクDAFに関係 |
| 022 Knops(ノップス) | Kna, Knb(9種) | ⚪低 | 補体受容体1(CR1)上に存在 |
| 023 Indian(インディアン) | Ina, Inb(6種) | ⚪低 | CD44分子上の抗原 |
| 024 Ok | Oka(3種) | ⚪低 | CD147(バシジン)分子上の抗原 |
| 025 RAPH | MER2(1種) | ⚪低 | 透析患者で注目される稀少抗原 |
| 026 JMH | JMH(6種) | ⚪低 | 高齢者で弱まる傾向がある |
| 027 I式血液型 | I, i(2種) | 🟡中 | 低温反応抗体(寒冷凝集素)に関係 |
| 028 Globoside(グロボシド) | P(1種) | 🟡中 | p型(P欠損型)は稀血。反復流産との関連も |
| 029 GIL | GIL(1種) | ⚪低 | アクアポリン3(AQP3)上の抗原 |
| 030 RHAG | 0, Ol(4種) | 🟡中 | Rhアミノ糖タンパクに関連 |
| 031 FORS | FORS1(1種) | ⚪低 | ABOシステムに類似した糖鎖系列 |
| 032 JR | Jra(1種) | 🟡中 | Jra欠損型は日本人に比較的多い稀血 |
| 033 Lan | Lana(1種) | 🟡中 | Lan欠損型は新生児溶血性疾患を起こしうる |
| 034 Vel | Vel(1種) | 🟡中 | 抗Vel抗体は溶血反応を起こしうる |
| 035 CD59 | CD59(1種) | 🟡中 | 補体調節タンパク。発作性夜間血色素尿症と関連 |
| 036 Augustine(オーガスティン) | At(a)(4種) | ⚪低 | ヌクレオシドトランスポーター上の抗原 |
| 037 KANNO | KANNO(1種) | ⚪低 | 日本人患者の名前が由来 |
| 038 SID | Sda(1種) | ⚪低 | 唾液・尿中にも存在する抗原 |
| 039 CTL2 | CTL2(1種) | ⚪低 | コリントランスポーター上の抗原 |
| 040 PEL | PEL(1種) | 🟡中 | PEL欠損型は輸血時に問題になりうる |
| 041 MAM | MAM(1種) | 🟡中 | MAM欠損型は稀血として登録が必要 |
| 042 EMM | EMM(1種) | 🟡中 | EMM欠損型は新生児溶血性疾患の報告あり |
| 043 ABCC1 | ABCC1(1種) | ⚪低 | MRP1(多剤耐性タンパク)上の抗原 |
| 044 Er | Era, Erb(5種) | 🟡中 | Er欠損型は新生児溶血性疾患に関連 |
| 045 CD36 | CD36(1種) | 🟡中 | 熱帯マラリア原虫の受容体として機能 |
| 046 ATP11C | ATP11C(1種) | ⚪低 | X染色体連鎖のフォスファチジルセリンフリッパーゼ |
| 047 MAL | MAL(1種) | ⚪低 | 2023年認定の最新血液型システムの一つ |
出典:ISBT「Table of blood group systems v12.0(2025年5月)」および各学術資料をもとに作成。
輸血で特に重要な血液型システム
ABO・Rhに続いて輸血医療で注目される主要なシステムを詳しく解説します。
Kell式(ISBT: 006)
Kell式はABO・Rhに次いで免疫原性が高いシステムです。主要抗原はK(Kell)とk(Cellano)で、K抗原は白人の約9%が保有する一方、日本人ではほぼ全員がK陰性(k抗原保有)です。K抗原を持たない人にK陽性の血液を輸血すると抗K抗体が産生されやすく、溶血性輸血反応や新生児溶血性疾患を引き起こします。McLeod症候群(神経筋変性疾患)はKx抗原欠損との関連が知られています。
Duffy式(ISBT: 008)
主要抗原はFy^a(Fya)とFy^b(Fyb)です。Duffy式の大きな特徴は、三日熱マラリアの原因寄生虫(Plasmodium vivax)が赤血球に侵入する際の受容体(DARC)として機能することです。サハラ以南アフリカ人の多く(西アフリカでは95〜100%)はFy(a-b-)型(Fy欠損)で、かつては三日熱マラリアへの自然な抵抗性をもたらすと考えられていました。ただし近年の研究ではFy陰性でもP. vivaxに感染する事例が報告されており、耐性の機序は単純ではないことがわかってきています。
Kidd式(ISBT: 009)
主要抗原はJk^a(Jka)とJk^b(Jkb)です。Kidd式の抗体は検出が非常に難しいことで知られ、初回検査では見落とされることがあります。不適合輸血後の「遅発性溶血性輸血反応(DHTR)」の代表的な原因で、輸血後数日〜2週間後に溶血が起きることがあります。
Lewis式(ISBT: 007)
Lewis式は他の血液型と異なり、赤血球自体が産生するのではなく、血漿中に溶けているルイス物質を赤血球が吸着するという特殊な仕組みを持ちます。Lewis抗体(抗Le^a・抗Le^b)は室温では反応するが体温(37℃)では反応しにくいことが多く、輸血時に溶血を起こすことは比較的まれです。妊娠中はLewis抗原が消失・変化することも特徴です。
MNS式血液型(ISBT: 002)
MNS式は50種以上の抗原を持つ大きなシステムです。M・N抗原(グリコフォリンA上)とS・s抗原(グリコフォリンB上)が主な抗原です。抗M・抗N抗体は通常、37℃では反応しないため臨床的問題になることは少ないですが、抗S抗体・抗s抗体は重篤な溶血反応を起こす可能性があります。
稀血(まれな血液型)とは
「稀血(きけつ)」とは出現頻度がおおむね1%以下のまれな血液型のことです。輸血の際に適合する血液を見つけるのが困難なため、日本赤十字社では稀血保有者からの献血を凍結保存(最長10年)して備えています。
代表的な稀血
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| 稀血の種類 | 特徴 | 日本人での頻度(目安) |
|---|---|---|
| Rh陰性(D陰性) | D抗原を持たない | 約1/200人 |
| ボンベイ型(Oh型) | H抗原を欠損・ABOの前駆体が作れない | 約1/100万人 |
| Jr(a-)型 | Jra抗原を欠損 | 約1/1,700〜2,000人 |
| Di(a+b-)型 | Dib抗原を欠損 | 約1/500人 |
| p型(PP1Pk欠損) | P・P1・Pk抗原をすべて欠損 | 数十万人に1人 |
| En(a-)型 | MNS系の特殊型 | 数十万人に1人 |
ボンベイ型(Oh型)
ボンベイ型(Oh型)はH抗原を欠損したきわめて稀な血液型です。ABO型の前駆体であるH抗原が作られないため、事実上「A型にもB型にもO型にもなれない」特殊な血液型です。血液中に抗A・抗B・抗H抗体をすべて持つため、O型の血液を輸血することもできません。1952年にインドのボンベイ(現ムンバイ)で初めて発見されました。日本では約100万人に1人とされます。
豆知識① Diego(ディエゴ)式は「アジア人のルーツ」がわかる血液型
Diego式(ISBT: 010)のDi^a(Dia)抗原は、東アジア人・東南アジア人・アメリカ先住民に多く見られる抗原です。ヨーロッパ人ではほぼ0%、日本人では約7〜10%が保有します。この抗原の分布はベーリング海峡を渡ったアジア系の人々の移住ルートを反映しており、集団遺伝学的な調査にも用いられてきました。
豆知識② KANNO血液型は日本で発見され、プリオンタンパク質が抗原
ISBT: 037「KANNO」血液型システムは、輸血前の交差適合試験で凝集が起きた日本人患者「KANNO」の名前に由来します。日本の研究チームが発見し、2019年にISBT第37番システムとして認定されました。日本の研究機関がISBT公認の新血液型を命名した初のケースです。KANNOの抗原が存在するのはプリオンタンパク質(PrP / CD230)上で、神経変性疾患との関連でも研究が進んでいます。抗KANNO1抗体は妊娠中・妊娠経験のある日本人女性で検出されることが多いとされます。
まとめ
「血液型=A・B・O・AB」という理解はABO式の1システムに過ぎません。国際輸血学会(ISBT)が認定する血液型システムは47種以上、抗原数は380種超にのぼります。輸血医療ではABO・Rh式に加え、Kell・Kidd・Duffy・Lewis・MNS式などの確認も行われます。稀血(まれな血液型)保有者の血液は日本赤十字社が大切に保管しており、万が一の輸血に備えています。血液型の多様性は、私たちの免疫系の複雑さと人類の進化の歴史を映し出しています。
参考・出典
- ISBT「Table of blood group systems v12.0」(2025年5月)
- 日本輸血・細胞治療学会「血液型について」(yuketsu.jstmct.or.jp)
- 日本赤十字社「血液型について」(兵庫県赤十字血液センター)
- Wikipedia「Human blood group systems」
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