符丁・業界隠語132選|寿司・警察・博打・芸能界など11業界まとめ

「アガリ」「ガリ」「ヤバい」——これらはもともと業界の内輪言葉でした。日本には飲食業・警察・芸能界・博打師など、それぞれの業界が独自に育てた「符丁(ふちょう)・隠語(いんご)」の文化があります。「お客さんに商品の値段や内情を悟られないため」「仲間内だけで素早く連絡するため」という実用的な必要性から生まれた言葉の数々は、江戸時代から現代まで脈々と受け継がれています。

この記事では、寿司屋・魚屋・そば屋・警察・芸能界・舞台・大工・古物市場・美容室・博打・泥棒(江戸期)など11業界・132語を業界別テーブルで網羅しました。語源・由来つきなので、知らなかった日本語の奥深さを存分に楽しめます。

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符丁・隠語とは

符丁(ふちょう/ふちゅう)は、特定の業界・集団が使う専用の符号的な言葉・数字の体系です。「符牒」とも書きます。目的は主に3つ

  • 客に値段交渉や品質評価を悟らせない(商人・競り市場)
  • 仲間内だけで素早く情報を共有する(警察・犯罪組織)
  • 部外者に業界内情を漏らさない(芸能・賭場)

「隠語(いんご)」は符丁より広い概念で、集団が外部に知られたくない意図で使う言葉全般を指します。両者は厳密には異なりますが、この記事では慣用的にまとめて扱います。

符丁・隠語の多くは中国語・ポルトガル語などの外来語、逆読み、形状・色・音からの連想、ユーモア的な言い換えで作られており、日本語の柔軟な造語力がよく表れています。

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飲食業の符丁一覧

寿司屋の符丁

寿司職人が使う符丁は「食材名の符丁」と「数字の符丁」の2種類。店内でお客に値段や品切れを悟らせないための業界語として江戸時代から発達しました。

食材・店内用語の符丁

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符丁 読み 意味 語源・由来
アガリ あがり お茶 花柳界で縁起を担いで「お茶」の語を避け、最上のお茶を「上がり花」と呼んだことから(諸説あり)
ムラサキ むらさき 醤油 醤油の紫色から
ガリ がり 生姜(ショウガ) 噛んだときの「ガリガリ」という音から
ナミダ なみだ わさび 辛くて涙が出るから
シャリ しゃり 酢飯 仏舎利(釈迦の遺骨)の白く小粒な形状から
ネタ ねた 具材・魚介 「タネ(種)」の逆読み
アニキ あにき 古いネタ 先に仕込んだもの=先に生まれた「兄」から
オトウト おとうと 新しいネタ 後から仕込んだもの=後に生まれた「弟」から
オアイソ おあいそ 会計 「愛想がなくて申し訳ない」という店側の謙遜から(客が使うのは本来は誤用)
ゲタ げた 木製の台・桶 形が下駄に似ているから
カッパ かっぱ キュウリ 河童がキュウリを好むという俗信から
ヒカリモノ ひかりもの アジ・コハダなど光る魚 銀色に光る見た目から
ヤマ やま 品切れ 「山(何もない場所)」から
サビ抜き さびぬき わさびなし わさびを「錆(さび)」に見立てたから(サビ=わさびは江戸の職人言葉)
ヅケ づけ 醤油漬けのマグロ 「漬け込む」調理法から

数字の符丁

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符丁 読み 数字 語源・由来
ピン ぴん 1 ポルトガル語 pinta(点)から。サイコロの1の目
リャン りゃん 2 中国語 两(liǎng)から
ゲタ げた 3 下駄の歯が3本(諸説あり)
ダリ だり 4 語源不詳。古い隠語
5 諸説あり(「五(ご)のめ」など)
ロン ろん 6 中国語 六(liù)から転じたとされる(語源諸説あり)
ナナ なな 7 「七(なな)」そのまま変化
バンド ばんど 8 語源諸説あり
キュウ きゅう 9 「九(きゅう)」そのまま
ピンまる ぴんまる 10 ピン(1)+まる(0)の合成

魚屋・競り市場の符丁

魚屋・青果市場などでも、寿司屋とほぼ同系統の数字符丁(ピン・リャン・ゲタ・ダリ・メ・ロン…)が共通して使われます。加えて、市場独自の以下のような符丁もあります。

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符丁 読み 意味 語源・由来
うぶ荷 うぶに その季節・その日に初めて出た品物 「生まれたまま(産=うぶ)」に由来し、初めて市場に出た荷物の意。古物市場でも使う
浜値 はまね 産地での仕入れ価格 「浜(海辺の産地)」での値段
場代 ばだい 市場の参加費・手数料 「場(会場)の代金」から
上がり値 あがりね 競りで上がった最終価格 -

そば屋の通し言葉

そば屋では、厨房と接客スタッフの間で注文を素早く伝えるために「通し言葉(とおしことば)」が使われます。

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通し言葉 読み 意味 語源・由来
岡(おか) おか 出前に使う「岡持ち」での別盛り 出前用のおかもちから
花(はな) はな 鴨肉(カモ) カモに「花」の字を当てた(諸説あり)
上(かみ) かみ 上等品・特上 「上(うえ)」の品質から
抜き(ぬき) ぬき そばなし・具だけ 「そばを抜いた」状態
きん きん 大盛り 「金一封」の「きん」から(諸説あり)
桜(さくら) さくら 少なめ 花びらが少しずつ散る様子から(諸説あり)
まじり まじり 2種類を混ぜたもの 「混じり合う」から
一本(いっぽん) いっぽん 1枚(1人前) -
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社会・職人の隠語一覧

警察・刑事の隠語

警察の隠語は「マル○○」「○○師」という形式が多いのが特徴。捜査現場で他者に聞かれないよう素早く情報共有するために発達しました。

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隠語 読み 意味 語源・由来
ホシ ほし 被疑者・犯人 「目星がつく(犯人の見当がつく)」の「星」から来た隠語(諸説あり・東京)
タマ たま 被疑者 関西での「ホシ」相当語
デカ でか 刑事 語源諸説あり(明治の服装「角袖」の逆読み説など)
ガサ がさ 家宅捜索 「探す(さがす)」を逆さ読みした倒語。音のイメージも伴い定着
マルガイ まるがい 被害者 「被(ひ)=ガイ」に丸印「○」をつけた符号
マルヒ まるひ 被疑者 「被疑」の「被(ひ)」に○をつけた符号
マルボウ まるぼう 暴力団員 「暴(ぼう)」に○をつけた符号
マルSA まるさ 麻薬・覚せい剤犯罪 SAは「覚せい剤(さ)」の頭文字
コロシ ころし 殺人事件 そのまま
タタキ たたき 強盗事件 たたく(殴る)から。裏社会でも同じ語を使う
ワッパ わっぱ 手錠 輪っぱ(輪の形)から
ハム はむ 公安 「公」の字を分解すると「ハム」と読めるから
ツナギ つなぎ 逮捕状 「つなぐ(拘束する)」から
パクる ぱくる 逮捕する 口(パク)に入れてしまうイメージから
流し ながし パトロール 街を「流して」見回るから
落とす おとす 自白させる 「落とし前」「落伍させる」から
当たり あたり 証拠が見つかること -
箱師 はこし 電車内のスリ 「箱(電車)」の中で働く「師(専門家)」から

芸能界・テレビの隠語

テレビ・芸能界の隠語は、ドイツ語・フランス語が混じるのが特徴。戦前の映画業界がドイツ語の影響を強く受けた名残です。

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隠語 読み 意味 語源・由来
アゴ あご 食事費 あご(口)を動かすことから
アシ あし 交通費 「足」(移動手段)から
マクラ まくら 宿泊費 枕(宿泊)から
押し おし 収録が遅れること スケジュールが「押された」状態
巻く まく 収録が予定より早く終わること 「早巻き」から
カンペ かんぺ 進行・セリフを書いた紙 カンニングペーパーの略
ドタキャン どたきゃん 直前キャンセル 「土壇場でキャンセル」の略
バラす ばらす セットを解体・片付けること バラバラにするから(転じて「殺す」の意にも)
ハネる はねる 公演・収録が終わること 「跳ねる(終了する)」から
本番 ほんばん 撮影・生放送中 -
ツェーマン つぇーまん 1万円 ドイツ語の音名 C(ツェー)から
ゲーマン げーまん 5万円 ドイツ語の音名 G(ゲー)から
テン てん 10万円 ドイツ語 D(デー)がなまったとも
インカム いんかむ 耳につける通話機器 英語 intercom(インターコム)の略
生(なま) なま 生放送 「生(なまの)放送」から

舞台・演劇の隠語

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隠語 読み 意味 語源・由来
いた 舞台 舞台の板張りの床から
板付き いたつき 幕が開いた時点で舞台上にいる状態 舞台(板)に「付いている」から
上手(かみて) かみて 舞台右側(客席から見て左) 「上(かみ)=高貴な側」の概念から
下手(しもて) しもて 舞台左側(客席から見て右) 「下(しも)=庶民側」の概念から
そで 舞台両脇の裏側 袖(衣服の脇)になぞらえて
暗転 あんてん 舞台を完全に暗くする転換 -
マチネ まちね 昼公演 フランス語 matinée
ソワレ そわれ 夜公演 フランス語 soirée
ゲネプロ げねぷろ 本番と同じ条件のリハーサル ドイツ語 Generalprobe(ゲネラルプローベ)の略
引き割り ひきわり 左右に引いて開く幕 中央から左右へ「引き割る」から

大工・建設業の符丁

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符丁 読み 意味 語源・由来
バカ棒 ばかぼう 特定寸法だけ写す単純な棒ゲージ 「バカ(単能な)棒」から
殺す ころす 木材の角を削って丸くする 尖った角を「殺す(なくす)」から
生かす いかす 角をそのまま残す 「殺す」の逆
手間 てま 職人の労働力・賃金 「手(て)と間(ひま)」から
ネコ ねこ 一輪の手押し車 猫のように自在に動くから
鉄砲 てっぽう 直線のパイプ継手 形状から
通し とおし 一直線に貫通した状態 -
親方 おやかた 現場の統括責任者 -
墨入れ すみいれ 墨壺で基準線を引く作業 -
一丁 いっちょう 材料1本・道具1個 -

古物市場・リサイクルの符丁

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符丁 読み 意味 語源・由来
うぶ荷 うぶに 市場に初めて出た品物 「産(うぶ)=生まれたまま」から。骨董・古物市場でも同語を使う
弱い よわい 品質が低い・値段がつきにくい -
強い つよい 品質が高い・高値がつく -
本物 ほんもの 真作・本物の品 -
ニセ にせ 偽物・贋作 -
シャッポ しゃっぽ 帽子 フランス語 chapeau(シャポー)から
上がり あがり 競りで値が上がった最終価格 -
場代 ばだい 市場の参加費・手数料 「場(会場)の代金」から
値踏み ねふみ 品物の価格を見積もること -
持ち込み もちこみ 出品者が直接持ち込んだ品 -

美容・理容業の隠語

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隠語 読み 意味 語源・由来
シザー しざー はさみ 英語 scissors
セニング せにんぐ すきばさみ 英語 thinning scissors
ネープ ねーぷ えりあし 英語 nape
バング ばんぐ 前髪 英語 bangs
オキシ おきし カラー剤2剤(酸化剤) 英語 oxidizer
ベース べーす カラーの土台になる色 英語 base
店販 てんぱん 店頭で販売するヘアケア商品 「店舗販売」の略
モデルハント もでるはんと 練習台の客を探すこと -
回転 かいてん 一定時間内の客数 客が「回転」するイメージから
カルテ かるて 施術履歴を記録した顧客カード ドイツ語 Karte

博打・裏社会の隠語一覧

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賭場・博打の隠語

江戸時代の賭場(どば)で生まれた隠語は、現代語にも多数流入しています。「一点張り」「ゾロ目」「ピンチ」なども博打文化が起源の語があります。

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隠語 読み 意味 語源・由来
丁(ちょう) ちょう サイコロの偶数の目 丁半博打の「丁」
半(はん) はん サイコロの奇数の目 丁半博打の「半」
壺振り つぼふり サイコロを壺(椀)の中で振る役 -
中盆 なかぼん 賭場の進行役・仕切り役 「盆(テーブル)の中心」から
寺銭 てらせん 賭場の場所代(胴元への手数料) 江戸時代に博打師が管轄外の寺社境内で賭博を行い、寺に場所代を納めたことから
ピンゾロ ぴんぞろ サイコロ2つが両方1の目 ピン(1)+ゾロ(揃い)から
ゾロ目 ぞろめ 2つのサイコロが同じ目 「揃い目」から
一点張り いってんばり 同じ箇所に賭け続けること 一カ所(一点)に賭け続ける博打の手法
アタマ あたま 元手・賭け金の原資 -
ツキ つき 運が向いている状態 -
ノミ屋 のみや 無許可の私設馬券業者 「馬券を飲む(横領する)」から
おや ゲームを仕切る側 -
親に対して賭ける側 -
ハナ はな 花札の俗称 花(絵柄)から

泥棒・スリの古典隠語(江戸期)

江戸時代の泥棒やスリの間で使われた隠語。多くは現在では使われなくなりましたが、一部は現代語として残っています。

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隠語 読み 意味 語源・由来
チボ ちぼ スリ師 江戸期の古称(語源不詳)
箱師 はこし 電車内を専門とするスリ師 「箱(電車)」で働く「師」から
流し ながし 街を歩きながら獲物を探す行為 「流して」歩くから
押し込み おしこみ 人が在宅のまま侵入する強盗 「押し込んで」入るから
空き巣 あきす 不在を狙った窃盗 「空き(空っぽ)の巣」から
見張り みはり 犯行中に周囲を警戒する仲間 -
ヤバい やばい 危険・まずい状態 元は盗人・やくざの隠語。語源諸説あり(「矢場(やば)」「野卑(やひ)」など)
タタキ たたき 強盗 「たたく(暴力で奪う)」から(警察隠語と同語)

豆知識

今も生きている符丁言葉

業界の内輪言葉だった符丁・隠語が一般語化した例は多数あります。

  • ヤバい:もともと江戸時代の盗人・博打師の隠語。「危険・まずい」の意が一般語化し、現代では「すごい・最高」の意でも使われるように変化。
  • アガリ(お茶):寿司屋の符丁として今もそのまま使われる。
  • ガリ(生姜):寿司屋の符丁として一般にも定着。
  • 一点張り:博打の「一点に賭け続ける」手法が転じて「ひとつの方針を貫く」意に。
  • 板についた:舞台の「板(舞台)に慣れて自然体になった」から転じて、役割・仕事に慣れた様子を指す。
  • バラす:舞台のセット撤収から転じ、「分解する」「明かす(秘密をバラす)」「殺す」の意に拡大。
  • ハネる:舞台公演が終了することから転じ、「終わる・散会する」意に。
  • ドタキャン:芸能界・舞台の隠語が若者語として一般化。
  • 手間がかかる:大工の符丁「手間(職人の労働力)」から「時間・労力がかかる」意に。
  • ゲネプロ → ゲネ:本番直前のリハーサルを指す語として演劇以外でも使われるように。

数字符丁のヒミツ

寿司屋・市場・博打師が共通して使う数字符丁は、江戸時代の行商人・露天商の間で発達した暗号体系が起源とされています。

外来語由来が多い理由:ピン(ポルトガル語)・リャン(中国語)・ロン(中国語)など、日本語以外の単語が多く採用されました。これは「日本語の数字(いち・に・さん)では傍聴者に悟られやすい」ため、外国語が自然に取り込まれたと考えられています。江戸時代には長崎貿易を通じたポルトガル語・中国語の影響が強く、商人の間で広まりました。

「ダリ」だけ語源不明:ピン・リャン・ロンには明確な外来語語源がありますが、「ダリ(4)」だけは語源が特定されていません。「だるい(怠い)」から「4(死)を避ける縁起担ぎ」とする説もありますが確定していません。

地域差がある:東京と関西では一部の符丁が異なります(例:被疑者を東京では「ホシ」、関西では「タマ」と呼ぶ)。同じ寿司屋でも店舗や地域によって数字の読み方に差があります。

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まとめ

今回は寿司屋・魚屋・そば屋・警察・芸能界・舞台・大工・古物市場・美容室・博打・江戸の裏社会など11業界・132語の符丁・隠語をまとめました。

「ヤバい」「ガリ」「アガリ」「一点張り」「板についた」——日常で何気なく使っている言葉が、かつては職人・警察官・博打師の内輪言葉だったと知ると、日本語の奥行きをあらためて感じます。語源を知ると言葉の「生い立ち」が見えてきて、日常会話がグッと面白くなるはずです。

日本語の語源・由来に興味が出たら、難読地名一覧|日本全国47都道府県の読めない地名249選 もあわせてどうぞ。

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