
超伝導は「電気抵抗がゼロになる」という常識を覆す物理現象です。1911年の発見から100年以上、MRI・リニアモーターカー・量子コンピュータまで幅広い分野で活躍し、「常温超伝導」の実現を目指す研究が今も続いています。本記事では超伝導の種類(第一種・第二種・高温・鉄系)から、BCS理論・マイスナー効果・クーパー対・ジョセフソン効果・LK-99騒動まで、主要な用語・概念を一通り解説します。
超伝導とは
超伝導(英:superconductivity)とは、特定の物質を臨界温度(Tc)以下に冷却すると電気抵抗が完全にゼロになる現象です。1911年、オランダの物理学者ヘイケ・カメリンス・オンネスが液体ヘリウムで冷却した水銀(Hg・Tc=4.15K)で初めて発見しました。
超伝導状態には2つの特徴的な現象があります。
ゼロ抵抗
通常の金属導体は電流を流すと熱エネルギーとして損失が生じます(ジュール熱)。超伝導体では電気抵抗が文字通り0Ωになるため、電流を流しても損失がなく、一度電流を流すと半永久的に流れ続けます(永久電流)。
マイスナー効果(完全反磁性)
1933年にマイスナーとオクセンフェルドが発見した現象で、超伝導体は外部磁場を完全に内部から排除する性質を持ちます。超伝導体の上に磁石を置くと、磁石が浮き上がる「磁気浮上」が起きるのはこの効果によるものです。単なる「完全導体(抵抗ゼロの金属)」とは異なり、内部の磁場を積極的に追い出す点が超伝導体の本質的な特徴です。
超伝導体の種類
超伝導体は転移の仕方と材料系によって以下のように分類されます。
第一種超伝導体(Type I)
臨界磁場(Hc)を超えると超伝導状態が突然消え、抵抗がある通常の金属に戻ります。磁場を完全に排除するか・しないかの2状態しかなく、BCS理論でよく説明される従来型超伝導体です。
代表的な物質:水銀(Hg・Tc=4.15K)、鉛(Pb・Tc=7.2K)、アルミニウム(Al・Tc=1.2K)、インジウム(In・Tc=3.4K)、スズ(Sn・Tc=3.7K)、タリウム(Tl・Tc=2.4K)。
臨界温度が低く(多くは10K以下)実用性は限られますが、基礎研究・標準器として重要です。
第二種超伝導体(Type II)
下部臨界磁場(Hc1)を超えると磁場が少しずつ侵入し始め、「混合状態(渦糸状態・Abrikosov渦格子)」を経て、上部臨界磁場(Hc2)を超えてから超伝導が破れます。Hc1とHc2の間では超伝導と磁場が共存しており、非常に強い磁場にも耐えられます。
実用的な超伝導体のほぼすべてが第二種です。代表例:ニオブ(Nb・Tc=9.2K)、ニオブチタン(NbTi・Tc=9.5K)、Nb₃Sn(Tc=18.3K)。これらはMRI・LHC・リニアモーターカーのコイルに使われています。
高温超伝導体(HTS:銅酸化物系)
1986年、IBMのカール・ミュラーとヨハネス・ベドノルツが銅酸化物(ペロブスカイト型)でTc=35Kの超伝導を発見し、翌年のノーベル物理学賞を受賞しました。その後急速に研究が進み、液体窒素温度(77K=約−196℃)以上で動作する材料が続々発見されます。
YBCO(YBa₂Cu₃O₇−δ)がTc≈92Kで液体窒素を使えることから最もよく使われ、電力ケーブル・医療機器・高磁場実験装置に応用されています。BCS理論では説明できず、メカニズムは現在も完全には解明されていません(非従来型超伝導)。
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| 物質 | Tc(K) | 用途 |
|---|---|---|
| YBCO(YBa₂Cu₃O₇) | 92 | 送電ケーブル・高磁場磁石 |
| BSCCO(Bi系) | 85〜110 | 医療・電力機器 |
| TBCCO(Tl系) | 120〜128 | 高磁場研究 |
| HBCCO(Hg系) | 〜133(常圧) | 最高Tc(常圧・銅酸化物) |
鉄系超伝導体(Iron-based superconductors)
2008年に東京工業大学の細野秀雄らがLaFeAsO₁−ₓFₓ(Tc=26K)を発表し、銅酸化物以外の高温超伝導体として注目を集めました。鉄を含む材料がなぜ超伝導になるのか当初は謎でしたが、スピン揺らぎが電子対を形成するメカニズムが有力視されています。Ba系(BaFe₂As₂系・Tc≈38K)など様々な材料が発見されています。
MgB₂(マグネシウムジボライド)
2001年に秋光純らが発見した二硼化マグネシウムはTc=39Kを持ち、金属間化合物としては異例の高さです。構成材料が安価で製造しやすく、低コストMRI用コイルとして実用化が進んでいます。BCS理論の枠内で理解できる点も特徴で、フォノン媒介の2バンド超伝導体です。
水素化物系超伝導体
2015年にドイツのグループが超高圧(約150万気圧)下の硫化水素(H₃S)でTc=203K(−70℃)を達成し、「室温超伝導に近づいた」と話題になりました。2019年にはランタン水素化物(LaH₁₀)でTc≈250K(−23℃)が報告されました。いずれも超高圧が必要で実用化には課題があります。
そのほかの超伝導体
有機超伝導体は1980年代から研究が進んでいる炭素有機化合物系の超伝導体で、(TMTSF)₂PF₆(Tc≈0.9K)やBEDT-TTF系(Tc≈12K)などが代表例です。
重い電子系超伝導体(ヘビーフェルミオン超伝導体)はf電子を持つ希土類・アクチノイド化合物(CeIn₃、UPt₃、CePd₂Si₂など)で、電子の有効質量が通常の数十〜数百倍にもなる特殊な系です。BCS理論では説明できない非従来型の超伝導メカニズムを持つと考えられています。
主要な超伝導体の臨界温度一覧
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| 物質 | Tc(K) | 種類 | 発見年 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 水銀(Hg) | 4.15 | 第一種 | 1911 | 基礎研究 |
| 鉛(Pb) | 7.2 | 第一種 | 1913 | 標準器 |
| ニオブ(Nb) | 9.2 | 第二種 | 1930 | 量子コンピュータ |
| Nb₃Sn | 18.3 | 第二種 | 1954 | LHC・ITERコイル |
| NbTi | 9.5 | 第二種 | 1962 | MRI・LHC |
| MgB₂ | 39 | 第二種 | 2001 | MRI(低コスト型) |
| LaFeAsO(鉄系) | 26 | 鉄系 | 2008 | 研究段階 |
| YBCO | 92 | 高温(銅酸化物) | 1987 | 送電・高磁場 |
| BSCCO | 85〜110 | 高温(銅酸化物) | 1988 | 医療・電力 |
| HBCCO(Hg系) | 133 | 高温(銅酸化物) | 1993 | 最高Tc(常圧) |
| H₃S(高圧) | 203 | 高温(水素化物) | 2015 | 研究段階(超高圧) |
| LaH₁₀(高圧) | 250〜260 | 高温(水素化物) | 2019 | 研究段階(超高圧) |
(K:絶対温度。0K=−273.15℃、77K=−196℃=液体窒素温度、300K≈27℃)
超伝導の主要用語・物理概念
BCS理論(1957年)
1972年ノーベル物理学賞を受賞したジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・シュリーファーによる理論(頭文字をとってBCS)です。超伝導の微視的なメカニズムを初めて説明しました。
核心は「電子はふつう互いに斥力(反発力)を持つが、フォノン(格子振動の量子)を媒介することで弱い引力が生まれ、2つの電子が対(クーパー対)を形成する」というアイデアです。クーパー対はボゾン(整数スピンを持つ粒子)的に振る舞うため、フェルミ粒子の排他律が外れ全ての対が同一状態(コンデンサート)に落ちます。これがゼロ抵抗の起源です。
クーパー対
BCS理論の核心で、電子2個がフォノン交換によって結びついた対です。通常の電子対と異なり、2つの電子は何百ナノメートルもの距離(コヒーレンス長ξ)を隔てて対を形成します。このサイズの「ゆるい対」でありながら、すべてのクーパー対が全く同一の量子状態を占めることで「マクロな量子コンデンサート」が生まれます。高温超伝導体では、フォノンではなくスピン揺らぎや電荷密度波が電子対を媒介すると考えられています。
臨界温度・臨界磁場・臨界電流
超伝導状態が維持できる限界値を「臨界値」と呼びます。
- 臨界温度(Tc):超伝導転移温度。これ以上に温度が上がると超伝導が壊れる
- 臨界磁場(Hc, Hc1, Hc2):超伝導を壊す外部磁場の限界。第一種はHcが1つ、第二種はHc1(混合状態開始)とHc2(超伝導終了)の2つ
- 臨界電流密度(Jc):流せる最大電流。これ以上の電流は超伝導を壊す
実用機器では3つの臨界値が同時に問題になり、いかに高い Tc・Hc2・Jc を持つ材料を実現するかが設計の鍵です。
ジョセフソン効果(1962年)
ブライアン・ジョセフソンが1962年に理論予測し(その後1973年のノーベル物理学賞を受賞)、2つの超伝導体を薄い絶縁体・正常金属などのバリアで接合(ジョセフソン接合)したとき、クーパー対がトンネル効果でバリアを通り抜け電流が流れます。
- DCジョセフソン効果:電圧がゼロでも電流(超電流)が流れる
- ACジョセフソン効果:DC電圧を加えると高周波電流(マイクロ波)が発振する。この発振周波数は基本定数(プランク定数と電気素量)のみで決まるため、精密測定の標準器として使われる
SQUID(超伝導量子干渉計)
Superconducting QUantum Interference Deviceの略で、2つのジョセフソン接合を持つ超伝導リングです。磁場の変化を磁束量子(Φ₀=h/2e≈2.07×10⁻¹⁵Wb)という非常に小さい単位で検出できます。地磁気の10億分の1程度の微弱な磁場も計測可能で、脳磁図(MEG)・心磁図(MCG)・地質探査・素粒子実験などに使われています。
磁束量子(フラックスクアンタム・Φ₀)
第二種超伝導体の混合状態では、外部磁場が「磁束量子(フラックスクアンタム)」という最小単位で超伝導体内に侵入します。1磁束量子=Φ₀=h/2e≈2.07×10⁻¹⁵Wb(h=プランク定数、e=電気素量)。これらは「渦糸(ボルテックス)」を形成して格子状に並びます(アブリコソフ渦格子)。
フラックスピニング
実用超伝導材料では、磁束量子の渦糸を材料中の欠陥(粒界・ナノ粒子・析出物)に引っかけて動かないようにする「フラックスピニング(磁束ピンどめ)」が重要です。渦糸が動くとエネルギー損失が生じるため、ピンどめが強いほど大きな臨界電流密度Jcが実現します。材料に意図的にナノ欠陥を導入してJcを高める研究が盛んに行われています。
ロンドン侵入長とコヒーレンス長
- ロンドン侵入長(λ):外部磁場が超伝導体の内部に侵入できる深さ。マイスナー効果で完全に排除される前に少し侵入できる距離
- コヒーレンス長(ξ):クーパー対の空間的なサイズ(電子対の広がり)
- GL(ギンツブルク・ランダウ)パラメータ κ=λ/ξ:κ<1/√2なら第一種、κ>1/√2なら第二種超伝導体に分類できる便利な指標
エネルギーギャップ(Δ)
BCS超伝導体では、フェルミ準位周辺に「超伝導ギャップ」と呼ばれるエネルギー禁帯が開きます。クーパー対を壊すのに必要なエネルギー(2Δ)以下の低エネルギー励起が存在できなくなります。このギャップが電気抵抗ゼロの物理的な根拠です。BCS理論から「2Δ=3.52kBTc(kB:ボルツマン定数)」という普遍的な関係が導かれ、実験でよく確認されています。
超伝導の応用技術
MRI(磁気共鳴画像法)
超伝導の最大の実用用途の一つです。病院のMRI装置は、NbTiの超伝導コイルを液体ヘリウムで4K(−269℃)に冷やして1〜3テスラの強力な磁場を発生させます。永久電流で動くため電力損失がゼロに近く、安定した均一磁場を保てます。世界のMRI装置の大半が超伝導コイルを採用しており、超伝導の最も身近な応用例です。
リニアモーターカー(超電導磁気浮上式鉄道)
JR東海のリニア中央新幹線(東京〜名古屋〜大阪)に採用されている超電導磁気浮上(SCMAGLEV)方式では、車両底部のNbTiコイルを液体ヘリウムで冷やし、軌道側の推進コイル・浮上コイルと組み合わせて車両を10cm浮かせます。試験走行では時速603kmを記録(2015年・山梨リニア実験線)しており、2027年の開業(一部区間)が予定されています。
核融合炉・粒子加速器
欧州核融合実験炉ITER(国際熱核融合実験炉・フランス)では、プラズマを閉じ込めるためにNb₃SnとNbTiの大型超伝導コイルを使用しています。CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)でも直径27kmのリングにNbTi超伝導双極磁石1232台が使われています。
量子コンピュータ
GoogleやIBMが開発する量子コンピュータは、ニオブ(Nb)製のジョセフソン接合を使った「超伝導量子ビット(superconducting qubit)」を採用しています。希釈冷凍機で約15mK(絶対零度に近い温度)に冷やしたチップ上で動作し、コヒーレンス時間(量子状態を保てる時間)を延ばす研究が世界中で進んでいます。
SQUID・高精度センサー
SQUIDは脳の神経活動が生み出す微弱な磁場を計測する「脳磁図(MEG)」に使われています。脳磁図は非侵襲で神経活動をミリ秒単位で追えるため、てんかんの焦点特定・言語・運動の脳機能マッピングに活用されています。また、地質調査(地下鉱物の探索)や爆発物・病原菌の微量検出センサーとしても研究されています。
超伝導送電ケーブル
電気抵抗ゼロを活かした損失のない送電ケーブルの実用化が進んでいます。YBCO系高温超伝導ケーブルは液体窒素(77K)冷却で動作するため、コスト面でも実現性が高く、ニューヨーク・東京・ソウルなどで実証試験が行われています。通常の銅ケーブルに比べ数倍の電力を送れる利点があります。
常温超伝導への挑戦
超伝導研究最大の目標は「常温・常圧での超伝導(室温超伝導)」の実現です。これが達成されれば、電力ロスゼロの送電・高効率のモーターなど社会が根本から変わります。
LK-99騒動(2023年)
2023年7月、韓国の研究チームが「常温・常圧で超伝導を示す物質LK-99(鉛アパタイト系)を合成した」という論文を発表し、世界中で再現実験が試みられました。しかし世界中の研究機関の再現実験から、観察された磁気浮上に似た現象は超伝導によるものではないと結論づけられました。具体的には、①硫化銅(Cu₂S)の構造相転移による抵抗変化(中国科学院の分析)と、②合成時に混入した鉄粒子などの磁性不純物による強磁性(米・南カリフォルニア大などの分析)が原因とされています。韓国超伝導学会の検証委員会も「常温・常圧超伝導体だという根拠は全くない」と結論を出しています。ただしこの騒動は「常温超伝導への世界的な関心の高さ」を改めて示しました。
高圧水素化物の現状
前述のH₃S(203K)やLaH₁₀(250K)は「高圧下でほぼ室温」に迫る転移温度を実現していますが、150万気圧以上という極端な高圧が必要で、実用には至っていません。2023年にはLuNH(ルテチウム水素窒化物)で常圧に近い条件での超伝導が報告されましたが、後に再現できないと否定されています。常温・常圧超伝導の実現は依然として未解決の科学的難題です。
まとめ
超伝導は「電気抵抗ゼロ」「マイスナー効果」という2大現象を特徴とし、材料系によって第一種・第二種・高温・鉄系・水素化物系に分類されます。BCS理論が説明する従来型から、未解明のメカニズムを持つ銅酸化物系まで多彩な物理が詰まっており、MRI・リニアモーターカー・量子コンピュータ・核融合炉など現代技術を支える基盤でもあります。常温超伝導の夢は幾度かのフライング(LK-99等)を経ながらも研究者の挑戦を刺激し続けており、物理学で最もホットな未解決問題の一つです。物理の法則・定理一覧や量子コンピュータ・量子情報の用語一覧もあわせてご覧ください。
[[CALC:quiz_superconductor_types]]参考・出典
- The Large Hadron Collider - CERN(LHC 超伝導双極磁石1232台)
- LK-99 - Wikipedia(LK-99騒動の経緯・各機関の検証結果)