ゲノム編集・遺伝子工学の用語一覧77選|基礎から応用まで解説

ゲノム編集や遺伝子工学の分野は、医療・農業・生命科学を根底から変える最前線の技術です。CRISPR・ゲノム・エピゲノムといった用語を耳にする機会は増えた一方で、「何が何だかわからない」という声も少なくありません。本記事では、ゲノム編集・遺伝子工学に登場する77の重要用語を、DNA基礎からゲノム編集技術・エピジェネティクス・医療応用まで、6つのカテゴリ別一覧で解説します。教科書やニュース記事を読む際の辞典としてご活用ください。

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DNAと遺伝子の基礎用語(18語)

遺伝子工学の土台となる、DNAの構造や遺伝情報にまつわる基礎用語です。

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用語 読み・英語 意味
DNA デオキシリボ核酸 遺伝情報の本体。4種類の塩基(A・T・G・C)が二重らせんをつくる核酸分子
RNA リボ核酸 DNAの情報を伝達・実行する一本鎖の核酸分子。mRNA・tRNA・rRNAなど複数の種類がある
mRNA メッセンジャーRNA タンパク質合成の設計図となるRNA。DNAの情報を転写で写し取りリボソームへ運ぶ
tRNA 転移RNA(トランスファーRNA) mRNAのコドンに対応するアミノ酸を運搬し、翻訳を仲介するRNA
rRNA リボソームRNA リボソームの主要構成成分として、翻訳(タンパク質合成)の場をつくるRNA
ncRNA 非コードRNA(ノンコーディングRNA) タンパク質をコードしないが、遺伝子制御・構造維持に働くRNA(miRNA・siRNA・lncRNAを含む)
ゲノム genome ある生物が持つ遺伝情報の全体。ヒトゲノムは約30億塩基対からなる
染色体 chromosome DNAとヒストンタンパク質が結合してコンパクトにまとまった構造体
遺伝子 gene タンパク質やRNAの配列情報をコードするDNA上の機能的な領域
対立遺伝子 アレル(allele) 同一遺伝子の異なるバリエーション(例:血液型のA型・B型を決めるアレル)
塩基 base DNA/RNAを構成する化学的単位。DNAではA(アデニン)・T(チミン)・G(グアニン)・C(シトシン)の4種類
ヌクレオチド nucleotide 塩基+糖(デオキシリボース)+リン酸からなるDNA/RNAの基本構造単位
コドン codon mRNA上の3つの塩基からなるアミノ酸の暗号単位。61種のコドンが20種のアミノ酸を指定する
エキソン exon 遺伝子のうちスプライシング後にmRNAへ残り、タンパク質をコードする領域
イントロン intron 遺伝子のうちスプライシングで取り除かれる非コード配列
プロモーター promoter 転写を開始させるためにRNAポリメラーゼが結合するDNA上の配列
エンハンサー enhancer プロモーターから離れた位置にあり、遺伝子発現を増強するDNA調節配列
オペロン operon 細菌などで複数の遺伝子が共通のプロモーターとオペレーターで制御されるまとまり(例:ラクトースオペロン)

遺伝子の発現とセントラルドグマ(10語)

遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質へと流れる「セントラルドグマ」と、その各ステップに関する用語です。

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用語 読み・英語 意味
セントラルドグマ central dogma DNA→RNA→タンパク質という遺伝情報の一方向の流れを表す分子生物学の基本原則
複製 レプリケーション(replication) 細胞分裂の前にDNAが同一のコピーを2本作る過程
転写 トランスクリプション(transcription) DNAの塩基配列をもとにRNAポリメラーゼがmRNAを合成する過程
スプライシング splicing 転写後の前駆mRNAからイントロンを取り除き、エキソンをつなぎ合わせる加工過程
翻訳 トランスレーション(translation) mRNAの塩基配列情報をもとにリボソームがアミノ酸を並べてタンパク質を合成する過程
リボソーム ribosome rRNAとタンパク質でできた細胞内構造体。mRNAとtRNAが協働して翻訳を行う場
タンパク質 protein アミノ酸が鎖状に結合した生体高分子。酵素・構造タンパク・シグナル分子など多様な役割を持つ
逆転写 reverse transcription RNAを鋳型にDNAを合成する反応。レトロウイルスや逆転写酵素を使う実験技術で利用
翻訳後修飾 post-translational modification タンパク質合成後に行われるリン酸化・グリコシル化・アセチル化などの化学的改変
ユビキチン化 ubiquitination タンパク質にユビキチンを付加してプロテアソームによる分解を誘導するシグナル
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ゲノム編集技術の用語(17語)

DNAを特定の位置で切断・書き換えする「ゲノム編集」技術に関する専門用語です。

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用語 読み・英語 意味
ゲノム編集 genome editing ゲノム上の特定の位置でDNAを切断・置換・挿入・欠失させる技術の総称
CRISPR クリスパー(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats) 細菌の免疫記憶に由来する規則的な繰り返し配列。Cas9と組み合わせて編集ツールになる
CRISPR-Cas9 クリスパー・キャス・ナイン gRNAが標的配列を認識し、Cas9がDNA二本鎖を切断するゲノム編集ツール。2012年に開発・2020年ノーベル化学賞
Cas9 キャスナイン(CRISPR-associated protein 9) gRNAに誘導されてDNA二本鎖を切断するヌクレアーゼ(はさみ酵素)
gRNA ガイドRNA(guide RNA) 標的DNA配列と相補的に結合してCas9を切断位置へ誘導するRNA分子
PAM配列 パム配列(Protospacer Adjacent Motif) Cas9が切断位置を認識するために標的配列の隣に必要な短いDNAモチーフ(NGGなど)
ZFN ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nuclease) ジンクフィンガードメインで標的を認識する第一世代のゲノム編集ツール
TALEN タレン(Transcription Activator-Like Effector Nuclease) TALエフェクタードメインで標的を認識する第二世代の編集ツール。ZFNより設計が容易
ベースエディティング 塩基編集(base editing) DNA二本鎖を切断せず、特定の1塩基だけを別の塩基に変換するゲノム編集技術
プライムエディティング prime editing gRNAと逆転写酵素を融合したPE複合体で微細な塩基置換・挿入・欠失を行う次世代技術
DSB DNA二本鎖切断(double-strand break) DNAの両鎖が同時に切断された状態。CRISPR-Cas9など多くのゲノム編集ツールが引き起こす
HDR 相同組換え修復(homology-directed repair) 修復鋳型を利用してDSBを正確に修復する経路。遺伝子ノックインに利用
NHEJ 非相同末端結合(non-homologous end joining) 鋳型なしでDSBを修復する経路。塩基の挿入・欠失(インデル)が生じやすく遺伝子ノックアウトに利用
ノックアウト knockout 遺伝子の機能を完全に失わせること。NHEJによるインデルでフレームシフトを起こす
ノックイン knock-in 特定の遺伝子配列を狙った位置に正確に挿入すること。HDRを利用
ノックダウン knockdown siRNAやshRNAでmRNAを分解し、遺伝子の発現量を一時的に減らす操作
オフターゲット効果 off-target effect ゲノム編集ツールが意図した配列以外の位置を誤って切断してしまう副作用

遺伝子工学の実験技術(12語)

遺伝子の操作・分析・解読に使われる代表的な実験技術の用語です。

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用語 読み・英語 意味
遺伝子組換え genetic engineering 生物のDNAに外来遺伝子を導入・改変すること。GMO作物や医薬品タンパク生産に利用
クローニング cloning 特定のDNA断片をベクターに組み込み、細菌などで大量に複製・増幅すること
PCR ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction) DNAの特定領域を熱サイクルで数十億倍に増幅する手法。2時間程度で完了し診断・研究に不可欠
制限酵素 restriction enzyme 特定の塩基配列を認識してDNAを切断する酵素。遺伝子工学の「はさみ」として利用
ライゲーション ligation DNAリガーゼを使って2本のDNA断片を共有結合でつなぐ操作
ベクター vector 目的の遺伝子を細胞内に運ぶ運搬体の総称(プラスミド・ウイルスベクター・コスミド等)
プラスミド plasmid 細菌の染色体外に存在する環状二本鎖DNA。細菌内で自律複製し、ベクターとして広く利用
形質転換 トランスフォーメーション(transformation) 外来DNAを細菌などの細胞に取り込ませて遺伝子を導入すること
トランスフェクション transfection 動物細胞などの真核細胞に外来DNAやRNAを化学的・物理的に導入すること
電気泳動 electrophoresis 電場の中でDNA・RNA・タンパク質をゲル上でサイズや電荷に応じて分離する分析法
シークエンシング sequencing(塩基配列決定) DNAやRNAの塩基配列を読み取る技術。サンガー法から次世代シークエンサーへと進化
次世代シークエンシング NGS(next-generation sequencing) 大量のDNA断片を並列に読み取り、1回でゲノム全体を解読できる高速シークエンシング技術
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エピジェネティクスと応用・医療の用語(20語)

DNAを変えずに遺伝子発現を制御する「エピジェネティクス」と、遺伝子工学の医療・農業応用に関する用語です。

エピジェネティクス(8語)

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用語 読み・英語 意味
エピジェネティクス epigenetics DNA塩基配列を変えずに遺伝子発現を制御するDNAメチル化・ヒストン修飾などを研究する分野
エピゲノム epigenome ゲノム上のDNAメチル化・ヒストン修飾など後天的な修飾情報の全体。環境や生活習慣で変化する
DNAメチル化 DNA methylation シトシン塩基にメチル基が付加される化学的修飾。プロモーター領域のメチル化は遺伝子発現を抑制する
ヒストン histone DNAが巻き付く糸巻き状のタンパク質。修飾の状態がクロマチン構造と遺伝子発現を調節する
ヒストン修飾 histone modification ヒストンへのアセチル化・メチル化・リン酸化などの化学的改変。遺伝子の活性化・抑制を切り替える
クロマチン chromatin DNA+ヒストン+関連タンパク質からなる染色質。ヘテロクロマチン(凝縮・不活性)とユークロマチン(弛緩・活性)がある
ゲノムインプリンティング genomic imprinting 父由来・母由来のどちらのアレルが発現するかが化学的に刻印される現象
X染色体不活性化 X-inactivation 哺乳類の雌でX染色体2本のうち1本がほぼ全域で発現を停止する現象(バー小体を形成)

応用・医療分野(12語)

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用語 読み・英語 意味
遺伝子治療 gene therapy 変異遺伝子を修正・補完したり正常遺伝子を導入したりすることで疾患を治療する医療技術
体細胞遺伝子治療 somatic gene therapy 生殖細胞以外の体細胞の遺伝子を操作する治療法。変更は次世代に引き継がれない
生殖細胞系列編集 germline editing 卵子・精子・受精卵のゲノムを編集すること。変更が次世代へ受け継がれるため倫理的議論がある
CAR-T細胞療法 chimeric antigen receptor T-cell therapy T細胞にがん抗原認識受容体(CAR)を組み込み、がん細胞を選択的に攻撃する免疫療法
GMO 遺伝子組換え生物(genetically modified organism) 他の生物の遺伝子を導入した生物。除草剤耐性・病害虫抵抗性の農業作物や医薬品生産に利用
トランスジェニック動物 transgenic animal 外来遺伝子を安定的にゲノムへ組み込んだ動物。医薬品の安全性試験や遺伝子機能解析に使用
ノックアウトマウス knockout mouse 特定遺伝子の機能を失わせたマウス。遺伝子の生体内での役割を調べるモデル動物として不可欠
iPS細胞 人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell) 体細胞に4つの初期化遺伝子を導入して多能性を持たせた幹細胞。山中伸弥氏が2006年に樹立しノーベル賞受賞
遺伝子診断 genetic diagnosis 遺伝子配列を解析して遺伝性疾患の有無・発症リスク・薬剤感受性を調べること
ゲノム医療 genomic medicine 個人のゲノム情報を活用して診断・治療・予防を個別最適化する医療(精密医療・オーダーメイド医療とも)
バイオインフォマティクス bioinformatics ゲノム解析・タンパク質構造予測など大規模な生体データを計算機科学と統計で解析する学問
CRISPR診断 SHERLOCK・DETECTRなど CRISPR技術を応用した核酸検出システム。ウイルスや遺伝子変異を従来法より高感度・低コストで検出できる
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知っておきたい豆知識

CRISPRの名前は「免疫の記憶」に由来する

CRISPRという名称は「Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(規則的に間隔をおいて配置された短い回文配列)」の略です。もともとは細菌がウイルスに感染した際、そのウイルスのDNA断片を自分のゲノムに記憶しておくことで、次の感染時に素早く撃退するしくみとして発見されました。この自然界の「免疫記憶システム」をゲノム編集ツールに転用したのが、2020年のノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ氏とエマニュエル・シャルパンティエ氏の功績です。詳しくはノーベル賞の豆知識まとめもご覧ください。

ゲノム編集で世界初の承認薬が誕生した

CRISPR-Cas9は2012年に論文発表され、2020年にノーベル賞を受賞。そして2023年には世界初のCRISPR治療薬「カシゲビ(Casgevy)」が鎌状赤血球症とβサラセミアを対象に米英で承認されました。基礎研究がわずか10年余りで臨床承認薬になった速度は医薬品開発史上でも異例です。

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まとめ

本記事では、ゲノム編集・遺伝子工学に登場する77の重要用語を、DNAの基礎からゲノム編集技術・エピジェネティクス・医療応用まで6カテゴリに整理しました。CRISPR-Cas9の登場以降、遺伝子工学は急速に進歩し、医療・農業・診断の各分野で応用が広がっています。気になる用語が出てきたときに、ぜひこの一覧を辞典代わりにお役立てください。

腕試しクイズ(全5問)

ゲノム編集・遺伝子工学の用語、どこまで覚えられましたか?記事の内容から5問出題します。

腕試しクイズ(全5問)|ゲノム編集・遺伝子工学の用語
全5問。「採点する」で正解数と解説が表示されます。
第1問 CRISPR-Cas9において、標的DNA配列にCas9を誘導するRNA分子を何と呼ぶ?

第2問 "DNA→RNA→タンパク質"という遺伝情報の流れを表す分子生物学の基本原則を何と呼ぶ?

第3問 遺伝子のスプライシングで取り除かれる非コード配列を何と呼ぶ?

第4問 DNA塩基配列を変えずに遺伝子発現を制御するDNAメチル化・ヒストン修飾などを研究する分野を何と呼ぶ?

第5問 DNA二本鎖切断(DSB)を修復鋳型なしに修復する経路で、塩基の挿入・欠失(インデル)が生じやすいのはどれ?

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