桔梗色(ききょういろ)とは|明智光秀の家紋が映す秋の青紫の伝統色【ことのは図鑑】

桔梗色(ききょういろ)——その名を聞いたとき、秋の野に揺れる青紫の花が目に浮かびませんか。日本の伝統色のなかでも、これほど多くの歴史的舞台に登場する色はそう多くありません。平安文学の装束から、戦国武将の家紋まで。桔梗という一輪の花が染め上げた深い青紫は、いったいどんな物語を秘めているのでしょうか。

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桔梗色(ききょういろ)とは

桔梗色とは、秋の七草のひとつ「桔梗(キキョウ)」の花びらのような、深みのある青みがかった紫色のことです。読みは「ききょういろ」。別名「桔梗紫(ききょうむらさき)」とも呼ばれます。

カラーコードは規格によって若干異なります。JIS慣用色名では #5045A4(R:80 G:69 B:164)、DIC日本の伝統色では #6A4C9C(R:106 G:76 B:156)が代表的な値として知られています。どちらも青みの強い、やや濃い紫色です。この揺れは、自然の花の色を数値に変換することの難しさを物語っています——キキョウの実際の花色も、光の当たり方や品種によってわずかに変化するからです。

平安時代からの伝統色として、和服・和菓子・和雑貨など日本の美的空間に今も息づいています。

語源と植物「桔梗」の歴史

「桔梗」という漢字の意味

「桔梗」という漢字は中国語由来で、もとは薬草としての根の性質を指しています。

「桔(桔梗の桔)」は「まっすぐに立ち上がる・締まる」、「梗」は「堅い・梗直(こうちょく)な茎」を意味します。つまり「桔梗」とは「茎が硬くまっすぐ育ち、根が堅く結実する植物」を表す名前です。中国の本草書『本草綱目』(李時珍・1596年)に薬草として収録されており、日本には奈良時代以前に渡来したとされています。

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キキョウの古名が秘める謎

キキョウには「オカトトキ」という古名があります。「丘(おか)に育つトトキ(ツリガネニンジンの古名)のような花」という意味で、形が似た植物を区別するために使われていました。

この「オカトトキ」という名が、岐阜県の地名「土岐(とき)」の語源に関係するという説があります。土岐氏の本拠地がキキョウの自生地だったとも、「トキ(トトキの略)」の地名がそのまま氏族名になったともいわれます——これが後述する「家紋と桔梗」の深い縁にもつながります。

万葉集の「あさがお」は桔梗か

万葉集には「あさがほ(あさがお)」という植物が詠まれていますが、これが現代のアサガオではなく桔梗を指すという説が有力です(新撰字鏡や万葉植物研究に基づく)。

あさがほは 朝露負ひて 咲くといへど 夕かげにこそ 咲きまさりけり
(詠み人知らず・万葉集 巻10・2104番)

この「あさがほ」がキキョウなら、その儚さと気高さへの感性は奈良時代にまでさかのぼることになります。秋の夕暮れに映える青紫——万葉の人々もその色に魅せられていたのかもしれません。

薬草としての桔梗根

桔梗は観賞用としてだけでなく、漢方薬の生薬「桔梗根(ききょうこん)」としても重要です。根を乾燥させたものは去痰・排膿・咳止めに用いられ、葛根湯と並んで日本の民間療法でも親しまれてきました。「根が堅く薬効を持つ」という植物の特性が、「桔梗」という名前そのものに込められているのです。

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平安時代から続く伝統色の系譜

桔梗色が伝統色として確立されるのは平安時代のことです。

平安の装束文化では「かさねの色目(かさねのいろめ)」——表と裏の布の色の組み合わせで季節感を表す——に桔梗色が取り入れられました。「桔梗」のかさねは表に二藍(ふたあい)、裏に濃青(のうせい)を用いる組み合わせで、秋の装いに使われました。

平安文学にも桔梗色の痕跡が残ります。『宇津保物語』や『栄花物語』には、貴族の装束や調度の色として桔梗色系統の記述が見られます。秋の七草のひとつとして知識人に親しまれていた桔梗は、色の名前としても文化の中に根付いていきました。

明智光秀と「水色桔梗」——家紋に秘められた歴史

桔梗色を語るとき、絶対に外せない歴史的人物がいます。それが明智光秀です。

土岐氏の桔梗紋

明智氏はもともと美濃国(現在の岐阜県)を本拠とした土岐氏の一族です。土岐氏はキキョウを家紋に用いていました——前述の「オカトトキ(キキョウの古名)=土岐の地名の由来」という縁からとも伝えられます。その桔梗紋を、明智氏は傍流として受け継ぎました。

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「水色」という異例の選択

明智光秀の家紋は単なる「桔梗紋」ではなく、「水色桔梗(みずいろきっきょう)」と呼ばれる特殊なものでした。戦国時代の家紋は黒一色が主流で、色付きの家紋は極めて稀。そのなかで水色——桔梗花の色を直接写したような淡い青みがかった色——を使うことは、当時として非常に異例のことでした。

織田信長が光秀の家紋の美しさを羨ましがったという逸話も伝わっています(出典は後世の記録のため諸説あり)。いずれにせよ、この水色桔梗紋は光秀の美的感覚と、土岐の血への誇りを映したものといえます。

本能寺の変と桔梗

1582年、明智光秀は本能寺の変を起こして織田信長を討ちます。その際、光秀の軍勢が掲げた旗には水色桔梗が描かれていたとされています。歴史の転換点に咲いた一輪の花——桔梗色はその後、どこか「矜持」と「哀愁」を帯びた色として記憶されることになりました。

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桔梗色の関連色

桔梗には多くの派生色があります。

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色名 読み 特徴
紺桔梗(こんきっきょう) こんきっきょう 桔梗色に紺を混ぜた深い紫紺
桔梗紫(ききょうむらさき) ききょうむらさき 桔梗色の別名。やや赤みがある
紅桔梗(べにきっきょう) べにきっきょう 赤みを帯びた桔梗色。夕暮れの花の色
藤色(ふじいろ) ふじいろ 藤の花の淡い青紫。桔梗色より明るく柔らかい

藤色と桔梗色は似ているようで、季節も花の雰囲気も異なります。藤色は春の淡い優しさ、桔梗色は秋の深みと凛とした気品——それぞれに日本の季節の美しさが宿っています。

まとめ

桔梗色は、秋の七草キキョウの花びらをそのまま染めたような深みある青紫の伝統色です。万葉集の「あさがお」から平安文学の装束、そして明智光秀の水色桔梗家紋まで——一輪の花が日本の美と歴史の舞台を彩り続けてきました。

桔梗という植物が「硬く・まっすぐ・堅実に」育つという性質は、その名の語源そのもの。そんな花の色が、気品と矜持を兼ね備えた伝統色として今日まで愛され続けているのは、偶然ではないのかもしれません。

他のことのは図鑑は、日本の伝統色77色一覧でご覧ください。

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