
核融合は「地上に太陽をつくる」と呼ばれる究極のエネルギー技術です。2022年にはアメリカのNIFが人類初のQ>1(投入エネルギーを超える核融合出力)を達成し、民間スタートアップへの投資も急拡大しています。この記事では、核融合に関する用語を基礎・磁場閉じ込め・慣性閉じ込め・燃料・主要プロジェクト・民間企業の6カテゴリに分けて全59語をテーブルで網羅しました。
核融合とは
核融合(Nuclear Fusion)は、軽い原子核同士が衝突・合体して重い原子核になる反応です。この際、アインシュタインの E=mc² に基づく質量欠損のぶんだけ膨大なエネルギーが放出されます。
太陽が輝くのも、中心部で水素の核融合が起きているからです。地上でこの反応を制御できれば、海水から無限に取り出せる重水素を使って、CO₂ゼロ・廃棄物最小の発電が実現します。炉心溶融の心配がない点でも、核分裂を使う現在の原子炉と大きく異なります。物理の法則・定理91選や素粒子の種類一覧も関連する記事です。
核融合の用語一覧59語
基本用語(14語)
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| 用語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 核融合 | かくゆうごう | 軽い原子核が合体して重い原子核になる反応。質量欠損によりエネルギーが放出される |
| 核分裂 | かくぶんれつ | ウランなどの重い原子核が分裂する反応。現在の原子力発電が使う方式 |
| プラズマ | ぷらずま | 気体をさらに加熱し電子と陽イオンが分離した状態。物質の第4の状態 |
| 点火 | てんか | 核融合反応が自立継続できる状態。アルファ粒子の加熱が外部加熱を上回るとき起こる |
| Q値 | Qち | エネルギー利得係数。Q = 核融合出力÷投入エネルギー。Q>1で正味エネルギーが得られる |
| ローソン基準 | ローソンきじゅん | 核融合が自立的に継続するための条件。密度・温度・閉じ込め時間の積(三重積)が一定値以上 |
| 三重積(nTτ) | さんじゅうせき | n(密度)× T(温度)× τ(閉じ込め時間)の積。核融合達成の定量指標 |
| クーロン障壁 | クーロンしょうへき | 正電荷を持つ原子核同士が近づくときの電気的反発力。核融合には超高温でこれを乗り越える必要がある |
| アルファ粒子加熱 | アルファりゅうしかねつ | D-T反応で生じるヘリウム-4核がプラズマ内にとどまり自らプラズマを加熱する現象。自立燃焼の鍵 |
| 中性子 | ちゅうせいし | D-T反応で発生し核融合エネルギーの約80%を担う。ブランケットで熱として回収する |
| 閾値温度 | いきちおんど | 核融合反応が起こる最低温度。D-T反応では約1億℃(約8.6 keV)が必要 |
| エネルギー閉じ込め時間 | エネルギーとじこめじかん | プラズマが外部加熱なしに熱を保持できる時間(τE)。長いほど核融合に有利 |
| ベータ値 | ベータち | プラズマ圧力と磁場圧力の比(β)。高いほど磁場を効率よく使えているが不安定性も増す |
| 自己点火条件 | じこてんかじょうけん | アルファ粒子加熱だけで核融合が継続できる条件。ローソン基準の点火版 |
磁場閉じ込め核融合(MCF)の用語(15語)
磁場閉じ込め核融合(MCF: Magnetic Confinement Fusion)は、強力な磁場でプラズマを閉じ込める方式です。現在の主流で、ITERもこの方式を採用しています。
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| 用語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 磁場閉じ込め核融合 | じかいとじこめかくゆうごう | 磁場の力でプラズマを閉じ込める方式(MCF)。現在の核融合研究の主流 |
| トカマク | とかまく | ドーナツ型の磁場閉じ込め装置。ロシア語の略語(тороидальная камера с магнитными катушками) |
| ステラレーター | すてられーたー | 外部コイルのみでプラズマを閉じ込める装置。電流を使わないためトカマクより安定性が高い |
| トロイダル場 | トロイダルば | ドーナツの周回方向の磁場。トカマクの主要磁場成分 |
| ポロイダル場 | ポロイダルば | ドーナツの断面方向の磁場。トカマクではプラズマ電流が生成する |
| ダイバーター | だいばーたー | プラズマからの高熱流と不純物を受け止める部品。炉の「排熱口」として機能する |
| Hモード | エイチモード | 高閉じ込めモード(High confinement mode)。Lモードより閉じ込め効率が高く実用炉に必須 |
| ELM | エルム | 周辺局所モード(Edge Localized Mode)。Hモードで発生するプラズマ不安定性の一種 |
| ブランケット | ぶらんけっと | 中性子を吸収してトリチウムを増殖し熱エネルギーを取り出す炉心構造体 |
| 超伝導コイル | ちょうでんどうコイル | ITERで使用するニオブスズ(Nb₃Sn)等の超伝導体コイル。強力な磁場を低消費電力で発生 |
| 磁気ミラー | じきみらー | 両端に強磁場を配置してプラズマを閉じ込める方式。磁場の「鏡」でプラズマを反射する |
| ピンチ効果 | ぴんちこうか | 電流の自己磁場によるプラズマの圧縮現象。Zピンチ・シータピンチなどがある |
| Zピンチ | ぜっとぴんち | 軸方向に電流を流し自己磁場でプラズマを圧縮するピンチ方式。Zap Energyが採用 |
| FRC(フィールドリバース構成) | えふあーるしー | 内部に逆磁場を持つコンパクトな磁場トーラス。Helion Energyが採用する閉じ込め方式 |
| 磁化標的核融合(MTF) | じかひょうてきかくゆうごう | ゆるく磁化したプラズマを機械式ピストンで圧縮する方式。General Fusionが採用 |
慣性閉じ込め核融合(ICF)の用語(7語)
慣性閉じ込め核融合(ICF: Inertial Confinement Fusion)は、強力なレーザーなどで小さな燃料ペレットを超高速圧縮し、慣性力で閉じ込める方式です。2022年にNIFが点火を達成した方式です。
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| 用語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 慣性閉じ込め核融合 | かんせいとじこめかくゆうごう | レーザー等で燃料を超高速圧縮し慣性力で一瞬閉じ込める方式(ICF) |
| レーザー核融合 | レーザーかくゆうごう | 多数の高出力レーザーで燃料ペレットを照射・圧縮するICFの代表方式 |
| 爆縮(インプロージョン) | ばくしゅく | 燃料ペレットを四方から均一に圧縮する過程。「内向きの爆発」 |
| ターゲットペレット | ターゲットぺれっと | 重水素・トリチウムを封入した直径数mmの球形の核融合燃料カプセル |
| ホーラウム | ほーらうむ | レーザーをX線に変換するための金製の空洞容器。間接照射方式のICFで使用 |
| ファストイグニッション | ふぁすとイグニッション | 爆縮後に超高強度短パルスレーザーで中心部だけを別途点火する高効率方式 |
| 慣性静電閉じ込め核融合 | かんせいせいでんとじこめ | 電場でイオンを加速・衝突させる小型の核融合方式(フューザー)。研究・教育用にも普及 |
核融合の燃料・材料用語(9語)
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| 用語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 重水素(D) | じゅうすいそ | 水素の同位体(質量数2)。海水1リットルに約33mg含まれ事実上無限に供給可能 |
| 三重水素・トリチウム(T) | さんじゅうすいそ | 水素の同位体(質量数3)。自然界にはごくわずか。核融合炉内でブランケットが増殖する |
| D-T反応 | ディーティーはんのう | 重水素と三重水素が融合しヘリウム-4と中性子を生成。17.6 MeV放出・最も反応しやすい |
| D-D反応 | ディーディーはんのう | 重水素同士の核融合。トリチウムが不要だがD-T反応より達成難度が高い |
| D-³He反応 | ディーへりうむさん | 重水素とヘリウム-3の核融合。中性子をほぼ出さない「クリーン核融合」 |
| p-¹¹B反応 | ピーボロン | 陽子とホウ素-11の核融合。完全にクリーンだが実現難度は最高クラス |
| ヘリウム-3 | ヘリウムスリー | ヘリウムの同位体(³He)。月面に豊富に存在しD-³He反応の燃料候補として注目 |
| トリチウム増殖 | とりちうむぞうしょく | ブランケット内でリチウムに中性子をぶつけてトリチウムを製造するプロセス |
| トリチウム自給 | とりちうむじきゅう | 核融合炉が消費するトリチウムをブランケットで自ら賄えること。商業炉の必須条件 |
主要な核融合プロジェクト・施設(8件)
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| 施設名 | 国・機関 | 種類 | 特徴・実績 |
|---|---|---|---|
| ITER | フランス(35カ国共同) | トカマク | 国際熱核融合実験炉。Q=10以上を目標に建設中 |
| JT-60SA | 日本(那須塩原・量子科技研+EU) | トカマク | 世界最大の超伝導トカマク。2023年10月に初プラズマを生成(12月1日に公式開所式) |
| JET | 英国(欧州共同・廃炉済) | トカマク | 最終D-T実験(2023年)で69 MJの世界記録を達成(2024年2月発表)。旧記録は2022年発表の59 MJ |
| KSTAR | 韓国(KAEA) | トカマク | 2024年に1億℃超48秒記録。2025年には102秒へ更新 |
| EAST | 中国(プラズマ物理研究所) | トカマク | 2023年4月に403秒記録、2025年1月に1,066秒の世界記録を達成 |
| W7-X | ドイツ(マックスプランク研) | ステラレーター | 世界最大のステラレーター。安定性の高さを実証 |
| NIF | アメリカ(カリフォルニア) | レーザー核融合(ICF) | 2022年12月に人類初のQ≈1.54の点火を達成 |
| DEMO | 日本・欧州(計画中) | トカマク(予定) | ITERの後継実証炉。2040〜50年代の稼働を目標 |
民間核融合スタートアップ(6社)
2020年代に入り、民間企業が核融合に数千億円規模の投資を行っています。
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| 企業名 | 国 | 方式 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Commonwealth Fusion Systems(CFS) | アメリカ | トカマク(SPARC) | MIT発。高温超伝導磁石(REBCO)でコンパクトなトカマクを実現 |
| Helion Energy | アメリカ | FRC | 2028年に発電開始を目標。MicrosoftとPPA(電力購入契約)締結 |
| TAE Technologies | アメリカ | FRC | p-¹¹B反応(クリーン核融合)の実現を目標とする |
| General Fusion | カナダ | 磁化標的核融合(MTF) | 機械式ピストンでプラズマを圧縮する独自方式 |
| Zap Energy | アメリカ | Zピンチ | シンプルなZピンチ構造で低コスト核融合を目指す |
| Kyoto Fusioneering | 日本(京都大学発) | 炉心設計・ブランケット開発 | 核融合炉の炉心構成要素を専門とする日本のディープテック |
核融合の豆知識
2022年12月:人類初のQ>1達成
2022年12月5日、アメリカのNIFが投入エネルギー(2.05 MJ)を上回る核融合出力(3.15 MJ)を達成し、Q≈1.54を記録しました。「核融合が入力より多くのエネルギーを出す」ことを人類が初めて実証した瞬間です。ただしレーザー設備全体の消費電力は数百MJに達するため、「施設全体として発電できた」わけではありません。あくまで「燃料に当てたレーザーエネルギーより多くの核融合エネルギーが出た」という定義での達成です。
「核融合は常に30年後」問題
核融合研究は1950年代から始まりましたが、長年「実用化まであと30年」と言われ続けてきました。これは「30年問題(Thirty-Year Problem)」と呼ばれる研究者界隈の自嘲的な表現です。しかし2020年代に入り、NIFの点火成功・高温超伝導磁石の発展・民間投資の急増によって、実現タイムラインは急速に縮まりつつあります。量子力学の基礎用語68選や再生可能エネルギーの種類一覧も合わせてどうぞ。
太陽とは異なる反応で核融合する
太陽は「pp連鎖反応」で陽子同士を融合させていますが、太陽の重力による閉じ込めは地上では再現できません。地上の核融合炉は、より反応しやすいD-T反応(重水素+三重水素)を使い、磁場か慣性力でプラズマを閉じ込める方式を採用しています。また太陽の核融合は1立方メートルあたりの出力が電気ストーブ以下と非常に低く、核融合炉は高密度プラズマで大きな出力を得ます。
まとめ
核融合の基礎から民間スタートアップまで全59語をカテゴリ別に網羅しました。「ITER」「トカマク」「Q値」など頻出ワードの意味をまず押さえ、「Zピンチ」「FRC」「p-B11反応」といったニッチな用語へと理解を広げると、核融合関連のニュースがぐっと読みやすくなります。2022年のNIF点火成功・民間投資の急増と、核融合はいよいよ「30年後の夢」から「現在進行形の技術」へと変わりつつあります。
腕試しクイズ(全5問)
核融合の用語をどれだけ理解できたか、5問でチェックしてみましょう。