
「このルーター、Wi-Fi 6対応って書いてあるけど、802.11axって何?」「Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eは別物なの?」——WiFiは日常に欠かせない技術ですが、IEEE規格名と世代名が混在しているため、正確に理解している人は意外と少ないものです。この記事では、WiFi規格の全世代を速度・周波数帯・特徴とともに一覧で整理し、命名変更の歴史や最新のWi-Fi 7・Wi-Fi 8まで網羅します。ルーター選びで二度と迷わなくなる完全ガイドです。
WiFi規格の全世代一覧
WiFi(無線LAN)の規格はIEEE(米国電気電子学会)が制定する「IEEE 802.11」シリーズとして発展してきました。2018年からはWi-Fi機器の認証団体「Wi-Fi Alliance」が世代番号(Wi-Fi 4〜Wi-Fi 7)を導入し、現在は両方の名前が混在しています。
| IEEE規格名 | Wi-Fi世代名 | 最大速度 | 周波数帯 |
|---|---|---|---|
| 802.11(初代) | — | 2Mbps | 2.4GHz |
| 802.11b | — | 11Mbps | 2.4GHz |
| 802.11a | — | 54Mbps | 5GHz |
| 802.11g | — | 54Mbps | 2.4GHz |
| 802.11n | Wi-Fi 4 | 600Mbps | 2.4/5GHz |
| 802.11ac | Wi-Fi 5 | 6.9Gbps | 5GHz |
| 802.11ax | Wi-Fi 6 / 6E | 9.6Gbps | 2.4/5/6GHz |
| 802.11be | Wi-Fi 7 | 46Gbps | 2.4/5/6GHz |
| 802.11bn | Wi-Fi 8(策定中) | 速度より信頼性向上が主眼 | 2.4/5/6GHz |
【豆知識①】Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eは同じ802.11ax
Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eはどちらも802.11ax規格です。Wi-Fi 6が2.4GHz・5GHzに対応するのに対し、Wi-Fi 6Eは新たに6GHz帯を加えた拡張版。対応ルーターと端末の両方が必要です。Eは「Extended」の略で、Wi-Fi 7も6GHz帯を使いますが、こちらはMLO(後述)で3帯域を同時に束ねる点が異なります。
【豆知識②】2.4GHzと5GHzの使い分け
5GHz帯は障害物に弱いが高速、2.4GHz帯は遠くまで届くが速度は落ちます。壁が多い環境では2.4GHz、ルーターの近くでは5GHzが有利です。6GHz帯(Wi-Fi 6E/7対応)はさらに高速で干渉も少ないですが、対応機器がまだ少ないのが現状です。
世代別・主要WiFi規格の解説
802.11b / 802.11a(1999年)——WiFiの夜明け
現代のWiFiが始まったのは1999年です。2.4GHz帯で最大11Mbpsの「802.11b」と、5GHz帯で最大54Mbpsの「802.11a」が同時にリリースされました。
802.11bはノートPC向けPCカードサイズの子機として普及し、スターバックスなどのホットスポットサービスの草創期を支えました。一方、802.11aは5GHz帯で干渉が少なく高速でしたが、対応機器が少なく消費者向けでは802.11bが主流となりました。
最大11Mbpsは現代では遅く感じますが、2000年代初頭のADSL回線が最大数Mbps程度だったため、当時の家庭用途としては十分な速度でした。
802.11g(2003年)——「互換性」で混乱を解消
802.11gは2.4GHz帯で最大54Mbpsを実現しつつ、802.11bとの後方互換性を確保した規格です。「5GHz対応のa」ではなく「普及したbと同じ帯域で5倍速い」という設計思想が受け入れられ、2000年代中盤の家庭用ルーターの標準規格となりました。
ただし、802.11bとgが混在する環境では速度がb水準に引き下げられる問題(オーバーヘッド問題)が生じ、これが次世代のn規格への移行を促す背景となりました。
802.11n → Wi-Fi 4(2009年)——複数アンテナで大幅高速化
802.11nは「Wi-Fi 4」と呼ばれる世代で、現代WiFiの技術的基礎を作った重要な規格です。最大の革新はMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術の導入で、複数のアンテナを同時に使って通信速度を大幅に向上させました。
最大速度は600Mbps(4×4 MIMOの理論値)で、前世代から約10倍以上の高速化を実現しました。2.4GHz・5GHzの両帯域に対応したことで、環境に応じた帯域選択が可能になり、チャンネル幅も最大40MHzに拡張されました。
IEEE標準の正式策定は2009年ですが、業界の期待が高く、ドラフト版(draft-n)製品は2006〜2007年頃から出回っていました。現在も多くの旧型機器がWi-Fi 4対応のため、互換性の観点から重要な規格です。
802.11ac → Wi-Fi 5(2013年)——初めてギガビットを突破
802.11acは「Wi-Fi 5」と呼ばれ、初めてギガビット(1Gbps)超えを達成した規格です。5GHz帯のみに対応し、MU-MIMO(Multi-User MIMO)により複数端末への同時送信が可能になりました。
最大速度は理論値6.9Gbpsで、Wave 1(2013年)では約1.3Gbps、Wave 2(2016年)では約3.5Gbpsまで実用速度が上がりました。160MHzの広帯域チャンネルと256QAMの高密度変調を組み合わせた結果です。
現在も多くの家庭・オフィスでWi-Fi 5ルーターが現役であり、スマートフォン・PCの対応機種が圧倒的に多い規格です。動画ストリーミング・オンラインゲーム程度なら、Wi-Fi 5で十分な場面がほとんどです。
802.11ax → Wi-Fi 6 / Wi-Fi 6E(2021年)——「多端末同時接続」時代へ
Wi-Fi 6の最大の革新は速度よりも「多くの端末が同時に接続しても速度が落ちにくい」設計です。その中核技術がOFDMA(直交周波数分割多元接続)で、チャンネルを細かく分割して複数端末に同時配信します。
IoTデバイス・スマートフォン・PC・スマートテレビなど、家庭内の無線接続機器が急増した2020年代に最適化された規格といえます。最大速度は9.6Gbpsですが、真価は「スタジアムや駅など多数端末が密集する場所での安定した通信」にあります。
Wi-Fi 6EはWi-Fi 6の802.11ax規格を6GHz帯に拡張したものです。6GHz帯は新規割り当ての帯域のため既存機器との干渉がなく、理想的な環境では非常に高速な通信が期待できます。
IEEE標準は2021年2月に正式策定されましたが、Wi-Fi Allianceによる製品認証は2019年9月から開始されており、2021年以前の製品でもWi-Fi 6対応と表記されているものがあります。
802.11be → Wi-Fi 7(2024年)——MLOで「まとめて超高速」へ
Wi-Fi 7は2024年にWi-Fi Alliance認証が開始された最新規格で、最大速度46Gbpsを誇ります。インフラ用途(動画制作・企業ネットワーク)はもちろん、家庭向けルーターへの搭載も急速に進んでいます。
最大の革新はMLO(Multi-Link Operation)です。Wi-Fi 6までは端末が使える周波数帯域は一度に1つでしたが、MLOにより2.4GHz・5GHz・6GHzの複数帯域を同時に利用できるようになりました。帯域が混雑した際に別帯域へ瞬時に切り替えるだけでなく、複数帯域を束ねて通信を安定化させます。
チャンネル幅は最大320MHz(Wi-Fi 6の160MHzから2倍)、変調方式は4096QAMを採用。スマートフォンへの対応機種も2024〜2025年に急増しています。
WiFi規格の「名前」はなぜ複雑なのか
「802.11」という数字の意味
「802.11」という数字は、IEEEが1990年に設置した無線LAN標準化プロジェクトの委員会番号に由来します。「802」はLANの標準化を扱うプロジェクト番号、「11」はその中の無線LANを担当するワーキンググループ番号です。
その後、サブ規格(a・b・g・n・ac…)はアルファベット順に追加されましたが、「ad・af・ah・ai・aj・aq・ax」など多様な規格が乱立し、利用者には到底覚えられない状況になっていきました。
2018年:Wi-Fi Allianceが「世代番号」を導入
IEEE規格名の複雑さを解消するため、Wi-Fi機器の認証を行う業界団体「Wi-Fi Alliance」が2018年に世代番号(Wi-Fi 4・Wi-Fi 5・Wi-Fi 6)を導入しました。
遡及的に番号が割り振られ、802.11nがWi-Fi 4、802.11acがWi-Fi 5、802.11axがWi-Fi 6と定義されました。なお、802.11(初代)・802.11b・802.11a・802.11gには世代番号が付与されておらず、現在も公式な世代名はありません。
この命名変更は「消費者がルーターの箱を見て世代を直感的に理解できるようにする」のが目的でしたが、IEEE名とWi-Fi Alliance名が混在することで、かえって混乱を招いているという見方もあります。
【豆知識③】USB規格の命名変更も似た混乱を招いた
実はUSBも繰り返された命名変更で混乱を招いた規格の代表例です。USB規格の種類一覧|コネクタ形状・転送速度・USB4まで完全解説では、USB 3.0→3.1→3.2と改名された歴史や、USB4とThunderboltの関係を詳しく解説しています。IT規格の命名問題はWiFiだけではありません。
Wi-Fi 4・5・6に対応するWi-Fi 1〜3は?
「Wi-Fi 4から始まるなら1〜3は?」と疑問に思う方も多いでしょう。実はWi-Fi 1・Wi-Fi 2・Wi-Fi 3は正式な規格番号として使われていません。Wi-Fi Alliance側でも公式には「Wi-Fi 4以前には番号を付与しない」という方針で、1〜3の名称は業界内でも混乱を避けるため使用されていないのが実態です。
まとめ
WiFi規格は802.11b/a/gで基礎が作られ、802.11n(Wi-Fi 4)のMIMO導入、802.11ac(Wi-Fi 5)のギガビット突破、802.11ax(Wi-Fi 6)の多端末同時接続対応、802.11be(Wi-Fi 7)のMLO導入と進化してきました。IEEE規格名と世代名が混在しているのは2018年のWi-Fi Allianceリブランドが原因です。現在主流のWi-Fi 6(2.4/5GHz)、Wi-Fi 6E(6GHz追加)、Wi-Fi 7(3帯域同時MLO)の違いを押さえておけば、ルーター選びで迷うことはほぼなくなります。次世代のWi-Fi 8(802.11bn)も策定が進んでいます。












