
動物の睡眠は、人間のそれとはまったく異なります。脳を半分ずつ交互に眠らせながら泳ぎ続けるイルカ、10か月間も空中で過ごすアマツバメ、1日わずか30分しか眠らないキリン——。進化の過程で、各動物は生存のために独自の睡眠スタイルを獲得してきました。
この記事では、ユニークな眠り方をする動物を35種まとめ、睡眠のタイプ別に解説します。生態の事実に徹し、科学的に確認された情報をお届けします。
動物のユニークな睡眠一覧(35種)
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| 動物名 | 1日の睡眠時間(目安) | ユニークな睡眠スタイル | 分類 |
|---|---|---|---|
| イルカ(バンドウイルカ) | 8時間程度 | 脳の左右を交互に眠らせる(半球睡眠) | 半球睡眠 |
| シャチ | 8時間程度 | 半球睡眠で泳ぎながら眠る | 半球睡眠 |
| オットセイ | 陸上約12h・水中4h | 陸では両脳、水中では片脳で眠る | 半球睡眠 |
| マガモ | 11時間程度 | 群れの端が片目を開けて眠る | 半球睡眠 |
| セイウチ | 約19時間 | のどの気嚢で浮力を作り海に浮いて眠る | 水中睡眠 |
| グンカンドリ | 12時間(陸上) | 飛行中に全球・半球睡眠を使い分ける | 飛びながら |
| アマツバメ | 不明(ほぼ飛行) | 10か月間、ほぼ飛びながら眠る | 飛びながら |
| 馬(ウマ) | 2〜3時間 | 浅眠は立ち寝、深い眠りには横になる | 立ち寝 |
| ゾウ(アフリカゾウ) | 約2時間 | 野生では2〜3日に1度しか横にならない | 立ち寝・超短時間 |
| キリン | 約30分 | 陸上哺乳類で最短睡眠 | 超短時間 |
| フラミンゴ | 不明 | 片足立ちのまま眠る(片足が体温保持にも役立つ) | 立ち寝 |
| ウシ | 約4時間 | 草を反芻しながらうとうとする | 立ち寝 |
| マッコウクジラ | 1日の7%(約1〜2時間) | 頭を上に垂直姿勢で水面付近に浮いて眠る(ログポジング) | 水中睡眠 |
| ラッコ | 11時間程度 | 海藻に体を巻き、仲間と手を繋いで眠る | 水中睡眠 |
| ゾウアザラシ | 10時間程度 | 水深300mで息を止めてらせん状に沈みながら眠る | 水中睡眠 |
| コアラ | 18〜22時間 | ユーカリの消化のため最長クラスの睡眠 | 長時間 |
| コウモリ | 19〜20時間 | 逆さまにぶら下がって眠る | 逆さま |
| ナマケモノ | 15〜20時間(諸説あり) | 木の枝に爪を引っかけたまま眠る | 長時間 |
| ライオン | 18〜20時間 | 草原でほぼ一日中横になっている | 長時間 |
| ホッキョクギツネ | 約20時間 | 尻尾を顔に巻きつけて丸くなって眠る | 長時間 |
| ニシキヘビ | 約20時間 | 消化中は特に長く眠る | 長時間 |
| キツネザル(コビトキツネザル) | 乾季に連続休眠 | 熱帯の哺乳類で初めて「冬眠」が確認された種 | 季節休眠 |
| ネコ | 12〜16時間 | 1日に何度も寝る多相性睡眠 | 多相性 |
| ヒゲペンギン | 合計11時間超 | 1回4秒の仮眠を1日1万回以上繰り返す | 多相性(超細分化) |
| カモノハシ | 約14時間 | 哺乳類でREM睡眠の割合が最も高い | REM |
| タコ(ソデフリタコ) | 不明 | 色が変わるREM様の「動的睡眠」がある | REM様 |
| ブダイ | 不明 | 粘液のまゆを作って眠る(約50分かかる) | 変わった場所 |
| ゴリラ | 約12時間 | 毎晩、木の葉や枝で新しいベッドを作って眠る | 変わった場所 |
| ウサギ | 8〜9時間 | 目を開けたまま(半開き)眠れる | 変わった様子 |
| カタツムリ | 不規則 | 乾燥時に数年間休眠できる | 休眠 |
| クマ | 冬眠中は連続 | 体温がほとんど下がらない「浅い冬眠」 | 冬眠 |
| ヤマネ | 冬眠中は連続 | 体温が0℃近くに下がる「深い冬眠」 | 冬眠 |
| ミツバチ | 5〜8時間 | アンテナが垂れることで睡眠状態と判別できる | 昆虫 |
| メダカ | 不明(静止状態) | 動きを止めて沈む睡眠様行動が確認されている | 魚類 |
| サメ(ドチザメ等) | 不明 | 遊泳を止めた静止状態が「睡眠」と推定される | 魚類 |
半球睡眠|脳を半分ずつ眠らせる動物
イルカ・シャチ(水生哺乳類)
イルカは「単半球徐波睡眠(Unihemispheric Slow-Wave Sleep)」と呼ばれる方法で眠ります。左脳と右脳を交互に休ませながら、泳ぎ続けながら水面に呼吸のために上がることもできます。右脳が眠っているときは左目が閉じ、左脳が覚醒して移動を制御します。
2012年に発表された研究では、バンドウイルカが15日間以上、連続してソナーを発しながら覚醒状態を維持できることが確認されました。半球睡眠のおかげで、ほぼ途切れなく活動できるのです。
シャチも同様に半球睡眠を行い、水族館では水槽のふちに沿ってゆっくり泳ぎながら眠る様子が観察されています。
オットセイ(陸と水中で自動切替)
特筆すべきはオットセイです。陸上では、ほかの陸生哺乳類と同じように両方の脳を一緒に眠らせます。しかし水中に入ると、自動的に片方の脳だけ眠らせる半球睡眠に切り替わります。
この「陸では両球・水中では半球」という二重モードは、同じ動物でも環境に応じて睡眠スタイルを切り替えられる、驚異的な柔軟性を示しています。
マガモ(群れで役割分担)
マガモの群れでは、端に位置する個体が外側の目を開けたまま片脳だけで眠ることが確認されています。群れの中央の個体は両目を閉じて深く眠り、端の個体が外敵を監視する役割を担います。これは集団としての防衛戦略であり、睡眠中でも捕食者に対応できる見張り役が存在することになります。
半球睡眠の仕組みは、脳の覚醒を維持する神経伝達物質「オレキシン」とも深く関わっています。詳しくはオレキシンとは|睡眠と覚醒を切り替える物質とラスカー賞をご覧ください。
飛びながら眠る鳥
グンカンドリ(全球と半球を使い分ける)
2016年に発表された研究で、グンカンドリが飛行中に眠れることが実証されました。太平洋の島々で繁殖期以外を過ごすグンカンドリに小型記録装置を取り付けたところ、上昇気流に乗って飛行中に約7割が半球睡眠、約3割が両脳での完全睡眠(全球睡眠)を行っていることが判明。1回あたりの睡眠時間は平均約12秒と非常に短いものでした。
陸上で眠るときは12時間眠るのに対し、飛行中の睡眠量はごくわずかですが、それでも問題なく飛び続けられます。
アマツバメ(10か月間、ほぼ空中で過ごす)
ヨーロッパアマツバメはスウェーデンを8月初旬に旅立ち、翌年6月に繁殖地に帰るまでの約10か月間、ほとんど地面に降りずに過ごすことが研究で明らかになりました。この間の睡眠方法は完全には解明されていませんが、明け方と夕暮れに高高度まで上昇し、ゆっくり降下しながら眠っている可能性が示唆されています。
立ち寝|起き上がったまま眠る動物
馬(ウマ)
馬は「受動的立位ロック機構」と呼ばれる関節の仕組みにより、筋肉をほとんど使わずに立ったまま体を支えられます。この状態でうとうとする浅い眠りは立ち寝で取れますが、深いレム睡眠に入るためには横になる必要があります。横になるのは1日30分〜1時間程度で、外敵のいる場所では横になれないため、野生馬は睡眠不足になることもあります。
ゾウ(野生では1日2時間)
2017年の研究(南アフリカ・ボツワナでの野生ゾウの追跡調査)で、野生のアフリカゾウは1日平均わずか2時間しか眠らないことが判明しました。哺乳類の中でも最短クラスです。横になるのは2〜3日に1度程度で、大半は立ったままうとうとします。
キリン(陸上哺乳類で最短)
成体のキリンは1日の睡眠時間が約30分と、陸上の哺乳類では最短とされています。短い仮眠を5分ほどずつ分けて取るため、1回の連続した睡眠は非常に短いです。深い睡眠(レム睡眠)の際には、長い首をS字に曲げて胴体に載せる独特のポーズを取ります。
フラミンゴ(片足立ちが安定する理由)
フラミンゴは片足で立ちながら眠ります。直感に反して、片足立ちの方が両足立ちより体の重心が自動的に安定するためとされています。また、足を体に引き上げることで水中での体温の放散を防ぐ効果もあります。
ウシ(食べながらうとうとする)
ウシは草を口の中で再度噛む「反芻(はんすう)」をしながら、半分眠った状態になることがあります。完全に眠るときは横になりますが、立ったままうとうとしながら消化を続けるという独特の行動が見られます。
水中で眠る動物
マッコウクジラ(ログポジング)
2008年に科学誌「カレントバイオロジー」に掲載された研究で、マッコウクジラが頭を上に向けて垂直に浮かぶ姿勢(ログポジング)で眠ることが初めて記録されました。1回の睡眠は10〜15分ほどで、1日のうち7%の時間(約1〜2時間)をこの姿勢で過ごします。
泡を吐くことで垂直姿勢を維持する仕組みが解明されており、呼吸のために鼻孔が水面上に出た状態を保ちながら眠っています。哺乳類の中でも「最も眠らない動物」の一つです。
ラッコ(手を繋いで眠る)
ラッコは海の上で仰向けになって眠ります。波に流されないよう、海藻に体を巻き付けたり、仲間と前足をつないで眠ることがよく知られています。水族館でも、2頭のラッコが手をつないで眠る光景がたびたび話題になります。
ゾウアザラシ(深海で眠る)
ゾウアザラシは餌を求めて水深300m以上に潜ります。この潜水中に短時間の睡眠を取ることが研究で示されています。息を止めたまま、らせん状にゆっくり沈みながら眠り、水深80〜200mで自然に目を覚まして再び泳ぎ始めるという行動が確認されています。
変わった眠り方・変わった場所で眠る動物
ブダイ(粘液のまゆ)
ブダイは夜になると口の近くにある腺から粘液を分泌し、自分の体全体を包む透明なまゆを作って眠ります。このまゆを作るのに約50分かかります。まゆは睡眠中に体から放出される匂いを隠す効果があり、夜行性の捕食者から身を守ると考えられています。朝になるとまゆを破って泳ぎ出します。
タコ(色が変わるREM様睡眠)
2023年6月、沖縄科学技術大学院大学(OIST)などの研究チームが学術誌「ネイチャー」に発表した研究で、タコが「静的睡眠(深い眠り)」と「動的睡眠(浅い眠り)」を繰り返すことが明らかになりました。
注目すべきは動的睡眠中の変化です。タコの皮膚が覚醒時と同じような色の変化・模様のパターンを次々と見せるのです。研究者らは、これが哺乳類のレム睡眠と類似した状態であり、タコが睡眠中に狩りや逃避の体験を「再現」している可能性を指摘しています。
ゴリラ(毎晩新しいベッドを作る)
ゴリラ(チンパンジー・オランウータン・ボノボも同様)は、毎晩、木の葉や枝を集めて新しい巣(ベッド)を作って眠ります。使い捨てで翌日は作り直します。幼いゴリラは約3歳まで母親と一緒に眠り、その後自分でベッドを作る技術を習得します。野生のゴリラは群れのリーダー(シルバーバック)が寝る場所を決める行動も見られます。
ウサギ(目を開けたまま眠る)
ウサギは被食動物のため、常に外敵の気配を察知できるよう、目を半開きにしたまま浅い眠り(半睡眠)に入れます。深い眠りのときは目を閉じますが、物音がするとすぐに覚醒します。ウサギの耳が垂れた状態や、ひげが動かなくなると睡眠中のサインとされています。
カモノハシ(REM睡眠の王)
哺乳類の中でレム睡眠の割合が最も高いとされるのはカモノハシです。1日14時間の睡眠のうち、レム睡眠が占める時間は他の多くの哺乳類と比べて突出しています。卵を産む最も原始的な哺乳類の一つであり、睡眠研究においても特別な存在です。
ペンギンの超細分化睡眠|1日1万回の4秒仮眠
2023年に科学誌「サイエンス」に発表された研究で、繁殖中のヒゲペンギン(チンストラップペンギン)が1日に1万回以上の「4秒仮眠」を繰り返すことが明らかになりました。これらの超短時間の仮眠を合計すると、1日11時間以上の睡眠量に相当します。
繁殖期には抱卵(たまごを温めること)を続けながら外敵を警戒する必要があるため、長時間眠ることができません。そのため、細切れの超短時間仮眠を積み重ねることで必要な睡眠量を確保する、特殊な適応戦略をとっています。
長時間・短時間睡眠のチャンピオン
最も長く眠る動物:コアラ(最大22時間)
コアラは1日18〜22時間眠ります。これは主食のユーカリの葉に起因します。ユーカリは繊維質が多く栄養価が低い上に、有毒な化学物質を含んでいます。コアラの消化器官はこれを分解するのに多大なエネルギーを費やすため、残りのエネルギーをすべて睡眠に回して節約しているのです。
コウモリ(19〜20時間)、ホッキョクギツネ(約20時間)、ライオン(18〜20時間)なども長眠動物の代表格です。
最も短く眠る動物:キリン(約30分)
前述のとおり、キリンは1日の睡眠時間が約30分と、陸上哺乳類では最短の部類です。首が長いため横になるのに時間がかかり、外敵に狙われるリスクも高まります。この短時間睡眠は、サバンナでの厳しい環境への適応と考えられています。
ゾウ(アフリカゾウ)も野生では約2時間と非常に短く眠ります。
冬眠・休眠は「睡眠」とは少し違う
クマ・ヤマネ・カタツムリ
クマの冬眠は「睡眠」と呼ばれますが、厳密には通常の睡眠とは異なります。
- クマの冬眠(浅い冬眠):体温はほとんど下がらず(通常体温より数度低下)、刺激を受けると起きる。育児もできる
- ヤマネ・シマリスの冬眠(深い冬眠):体温が外気温に近づき、心拍数・呼吸数が激減。ヤマネは0℃近くまで下がることも
カタツムリは乾燥や低温のストレスにさらされると、殻の入り口を粘液で作った「ふた」で塞いで休眠状態に入ります。この休眠は数週間から数年間に及ぶことがあります。博物館で長期間保管されていたカタツムリが4年後に復活したという報告もあります。
キツネザル(熱帯で冬眠する哺乳類)
2004年に発表された研究で、コビトキツネザル(Fat-tailed dwarf lemur)がマダガスカルの乾季に木のうろの中で休眠することが確認されました。熱帯の哺乳類が冬眠する初の事例として注目されました。乾季の約7か月間、尾に蓄えた脂肪を使いながら眠り続けます。
動物の睡眠に関する豆知識
睡眠は全動物に存在するのか?
ミツバチはアンテナが垂れ下がることで睡眠状態が確認でき、ショウジョウバエも睡眠様行動を持ちます。ショウジョウバエの睡眠は、睡眠の遺伝子メカニズムを解明する研究において重要なモデルとして活用されています。魚類(メダカ・サメ)にも静止した「睡眠様行動」が確認されています。一方、完全に睡眠を持たない動物がいるかどうかは、まだ完全には解明されていません。
なぜ動物によって睡眠時間がこんなに違うのか?
一般的に、捕食者側(ライオン・トラ・コウモリ)は睡眠時間が長く、被食者側(ウシ・キリン・ゾウ)は短い傾向があります。また、消化に多くのエネルギーを使う草食動物は眠る間も消化を続けるため、食べながらうとうとするウシのような行動が見られます。体が大きくなるほど消費カロリーが相対的に少なくて済むため、大型草食動物は短時間の睡眠でも維持できると考えられています。
「眠れない」は死につながる
ラットを使った実験では、完全に睡眠を剥奪されると2〜3週間で死亡することが知られています。睡眠は単なる「休息」ではなく、免疫機能の維持・記憶の定着・老廃物の除去(グリンパティックシステム)に欠かせない能動的なプロセスです。
睡眠と覚醒を切り替える神経伝達物質「オレキシン」については、オレキシンとは|睡眠と覚醒を切り替える物質とラスカー賞で詳しく解説しています。脳のさまざまな部位が睡眠に果たす役割については脳の部位の名前一覧|大脳・小脳・海馬・扁桃体の役割と場所まとめもあわせてご覧ください。
まとめ
動物の睡眠は、捕食と被食のバランス、生息環境、消化の仕組みなど、生存に密接に結びついた進化の産物です。脳を半分ずつ休ませながら泳ぎ続けるイルカ、10か月間空を飛び続けながら眠るアマツバメ、わずか30分の仮眠で生きるキリン、4秒の仮眠を1万回繰り返すヒゲペンギン——これらの多様な眠り方は、地球上の生命の適応力の豊かさを示しています。睡眠は「眠ること」という共通点を持ちながら、動物ごとにまったく異なる形をとっています。
腕試しクイズ(全5問)
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