
月の表面には「静かの海」「ティコ」「直壁」など、ラテン語に由来する正式名称がつけられた地形が9,000以上あります。これらの名前は1651年にイタリアの天文学者リッチョーリが整理した体系をもとに、現在は国際天文学連合(IAU)が管理しています。この記事では月面の主要地形を「海・大洋・湖・湾・沼」「クレーター」「山脈・山」「谷・溝・崖・その他」の4分類で全95種を一覧にまとめました。
IAU公認の月の地形種類14カテゴリ
月面の地形には以下14種類の正式な分類名(ラテン語)があり、IAUが命名・管理しています。
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| 種類(和名) | ラテン語 | 意味 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 海 | Mare | 海(水はない) | 静かの海 |
| 大洋 | Oceanus | 大洋 | 嵐の大洋(1つのみ) |
| 湖 | Lacus | 湖 | 夢の湖 |
| 湾 | Sinus | 湾・入江 | 虹の入江 |
| 沼 | Palus | 沼・湿地 | 腐敗の沼 |
| クレーター | Crater | 碗・盃 | ティコ |
| 山脈 | Montes | 山々(複数) | アペニン山脈 |
| 山 | Mons | 山(単数) | モンス・ハドリー |
| 谷 | Vallis | 谷 | アルプス大谷 |
| 溝・亀裂 | Rima / Rimae | 裂け目 | リマ・アリアデウス |
| 崖 | Rupes | 崖 | 直壁 |
| 尾根・背斜 | Dorsum / Dorsa | 背・尾根 | ドルサ・スミルノフ |
| 岬 | Promontorium | 岬 | プロモントリウム・ラプラス |
| 連鎖クレーター | Catena | 鎖 | カテナ・デイヴィ |
海・大洋・湖・湾・沼の一覧(36種)
月面の「海(Mare)」は実際の海ではなく、数十億年前の火山活動で噴出した玄武岩の溶岩が固まった暗色平原です。初期の天文学者が水があると誤解して「海」と名付けた名残がそのまま残っています。
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| 日本語名 | ラテン語名 | 直径 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 静かの海 | Mare Tranquillitatis | 873km | アポロ11号・12号の着陸地点が近い |
| 晴れの海 | Mare Serenitatis | 674km | 月表側中央部の大きな海 |
| 雨の海 | Mare Imbrium | 1,250km | 最大の円形海盆、アルプス山脈が北縁 |
| 危機の海 | Mare Crisium | 556km | 東端の孤立した楕円形の海 |
| 豊かの海 | Mare Fecunditatis | 909km | 東部、アポロ17号着陸地の南方 |
| 蜜の海 | Mare Nectaris | 339km | 東南部の比較的小さな海 |
| 雲の海 | Mare Nubium | 715km | 西南部、直壁(Rupes Recta)が東縁 |
| 湿りの海 | Mare Humorum | 389km | 西部、南縁にガッサンディ・クレーター |
| 泡立ちの海 | Mare Spumans | 239km | 東縁部の小さな海 |
| 蛇の海 | Mare Anguis | 150km | 東縁の細長い海 |
| 波の海 | Mare Undarum | 243km | 東縁部 |
| 境界の海 | Mare Marginis | 420km | 東の縁辺部 |
| スミスの海 | Mare Smythii | 373km | 東縁・南北の中緯度 |
| 南の海 | Mare Australe | 603km | 南東縁辺、古く浸食された古海盆 |
| 寒さの海 | Mare Frigoris | 1,446km | 北部を東西に走る細長い海 |
| 蒸気の海 | Mare Vaporum | 245km | ほぼ中央、月面中心部に近い |
| 島の海 | Mare Insularum | 513km | 西部中央 |
| 既知の海 | Mare Cognitum | 337km | 無人探査機レンジャー7号着陸地点 |
| 東の海 | Mare Orientale | 327km | 裏面に近い西縁、月面最若の多重環構造 |
| モスクワの海 | Mare Moscoviense | 277km | 月の裏面、ルナ3号が撮影 |
| 嵐の大洋 | Oceanus Procellarum | 2,568km | 月面最大の平原、唯一の「大洋」 |
| 夢の湖 | Lacus Somniorum | 384km | 北東部 |
| 死の湖 | Lacus Mortis | 151km | 北部 |
| 希望の湖 | Lacus Spei | 80km | 北縁部 |
| 善意の湖 | Lacus Bonitatis | 92km | 北東部 |
| 卓越の湖 | Lacus Excellentiae | 184km | 南西部 |
| 恐怖の湖 | Lacus Timoris | 117km | 南西部 |
| 虹の入江 | Sinus Iridum | 260km | ジュラ山脈に囲まれた美しい弧形の湾 |
| 波立ちの湾 | Sinus Aestuum | 290km | 中央部、蒸気の海の南 |
| 中央の湾 | Sinus Medii | 335km | 月面の中心に最も近い湾 |
| 露の湾 | Sinus Roris | 380km | 北西部 |
| 成功の湾 | Sinus Successus | 132km | 東縁部 |
| 腐敗の沼 | Palus Putredinis | 161km | アペニン山脈西麓に広がる |
| 眠りの沼 | Palus Somnii | 143km | 東部 |
| 流行病の沼 | Palus Epidemiarum | 285km | 南西部 |
| 霧の沼 | Palus Nebularum | 245km | 北部 |
クレーターの一覧(30種)
クレーターはほぼすべて隕石・小天体の衝突でできた凹地です。月には大気がないため侵食されにくく、数十億年前の衝突跡が今も鮮明に残っています。
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| 日本語名 | ラテン語名 | 直径 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ティコ | Tycho | 85km | 長さ1,500kmにも及ぶ光条(放射状の筋)を持つ。デンマークの天文学者ティコ・ブラーエにちなむ |
| コペルニクス | Copernicus | 93km | 光条クレーターの代表格。地動説で知られるコペルニクスから |
| プラトン | Plato | 101km | 底面が暗く滑らか。哲学者プラトンにちなむ |
| アリスタルコス | Aristarchus | 40km | 月面で最も反射率が高く、最も明るいクレーター |
| エラトステネス | Eratosthenes | 58km | アペニン山脈の西端に位置。光条は持たない |
| ケプラー | Kepler | 32km | 光条クレーター。天文学者ケプラーから |
| ガリレイ | Galilei | 15km | 嵐の大洋内。ガリレオ・ガリレイにちなむ |
| ラングレヌス | Langrenus | 132km | 東縁の大型クレーター。17世紀の天文学者から |
| テオフィルス | Theophilus | 100km | 神酒の海西端。中央丘が発達した美しい構造 |
| キリルス | Cyrillus | 98km | テオフィルスの南に隣接 |
| カタリナ | Catharina | 100km | テオフィルス・キリルスと連続する三連クレーター |
| ポシドニウス | Posidonius | 95km | 晴れの海東縁。底面に亀裂が発達 |
| アリストテレス | Aristoteles | 87km | 北部、冷さの海南縁。哲学者アリストテレスから |
| ユードクソス | Eudoxus | 67km | アリストテレスの南に隣接 |
| クラヴィウス | Clavius | 225km | 月面最大級のクレーターの一つ。南半球 |
| ヴェンデリヌス | Vendelinus | 147km | 豊かの海西縁 |
| ペタヴィウス | Petavius | 177km | 豊かの海南縁。鮮明な中央丘と亀裂 |
| グリマルディ | Grimaldi | 222km | 西縁の底面が暗い大型クレーター |
| プトレマエウス | Ptolemaeus | 153km | 月面中央部。古代天文学者プトレマイオスから |
| アルフォンスス | Alphonsus | 119km | プトレマエウスの南に連続 |
| アルザケル | Arzachel | 97km | アルフォンススの南。中央丘が鮮明 |
| ヒパルコス | Hipparchus | 150km | 月面中央部。古代ギリシャの天文学者から |
| フラ・マウロ | Fra Mauro | 95km | アポロ14号の着陸地点に近い |
| マウロリクス | Maurolycus | 114km | 南部の古いクレーター |
| バイイ | Bailly | 301km | 月面で最大のクレーター(地球側から見える範囲) |
| ストレーヴェ | Struve | 170km | 西縁部の大型クレーター |
| ヘーヴェリウス | Hevelius | 106km | 西縁。17世紀の天文学者ヘヴェリウスから |
| カッシーニ | Cassini | 57km | 北部。底面に小クレーターを含む |
| プルバッハ | Purbach | 118km | 南中央部 |
| ヴェルナー | Werner | 70km | 南中央部。クラヴィウスの北東 |
山脈・山の一覧(15種)
月の山脈(Montes)は地球の山脈とは成因が異なり、ほとんどが古い衝突盆地(インパクト・クレーター)の縁が残ったものです。
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| 日本語名 | ラテン語名 | 長さ・高さ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アペニン山脈 | Montes Apenninus | 1,000km | 月面最長の山脈。雨の海の南東縁を形成 |
| コーカサス山脈 | Montes Caucasus | 540km | 晴れの海と雨の海を隔てる |
| アルプス山脈 | Montes Alpes | 380km | 雨の海北縁。中央をアルプス大谷が貫く |
| ジュラ山脈 | Montes Jura | 400km | 虹の入江を弧状に囲む美しい山脈 |
| タウルス山脈 | Montes Taurus | 165km | 晴れの海東縁 |
| ハエムス山脈 | Montes Haemus | 560km | 晴れの海南縁 |
| リパエウス山脈 | Montes Riphaeus | 180km | 嵐の大洋内の孤立した小山脈 |
| スピッツベルゲン山脈 | Montes Spitzbergensis | 60km | 雨の海内の孤立丘陵群 |
| テネリフェ山脈 | Montes Teneriffe | 110km | 雨の海内の孤立山脈 |
| モンス・ハドリー | Mons Hadley | 高4,600m | アポロ15号着陸地点の東。月面で最も高い山の一つ |
| モンス・ピコ | Mons Pico | 高2,400m | 雨の海内の孤立した単独山 |
| モンス・ピトン | Mons Piton | 高2,250m | 雨の海内。プラトン南方 |
| モンス・ラ・イル | Mons La Hire | 高1,650m | 雨の海内の孤立山 |
| モンス・ルンカー | Mons Rümker | 幅70km | 嵐の大洋内の火山丘(ドーム群) |
| モンス・ウォルフ | Mons Wolf | 高3,500m | アペニン山脈中央部の高峰 |
谷・溝・崖・その他の地形(14種)
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| 日本語名 | ラテン語名 | 長さ | 分類・特徴 |
|---|---|---|---|
| アルプス大谷 | Vallis Alpes | 175km | 谷(Vallis)。アルプス山脈を南北に縦断する大きな谷 |
| スネリウス谷 | Vallis Snellius | 592km | 谷。豊かの海南部を走る長大な谷 |
| パリッツシュ谷 | Vallis Palitzsch | 132km | 谷。東縁部 |
| リマ・アリアデウス | Rima Ariadaeus | 300km | 溝。蒸気の海東部を走る直線状の亀裂 |
| リマ・ヒュパティア | Rima Hypatia | 200km | 溝。静かの海南部 |
| リマ・ハドリー | Rima Hadley | 113km | 溝。アポロ15号着陸地点近く。地質調査対象 |
| リマ・シュレーター | Rima Schröteri | 24km | 溝。嵐の大洋内 |
| 直壁 | Rupes Recta | 110km | 崖(Rupes)。高さ約250m・全長110km の直線断崖。「月の直壁」として有名 |
| アルタイ崖 | Rupes Altai | 427km | 崖。蜜の海南西部の弧状断崖。月面最長級 |
| ドルサ・スミルノフ | Dorsa Smirnov | 150km | 尾根(Dorsa)。晴れの海内の溶岩隆起尾根 |
| プロモントリウム・ラプラス | Promontorium Laplace | 50km | 岬(Promontorium)。虹の入江の東端に突出する岬 |
| プロモントリウム・ヘラクライデス | Promontorium Heraclides | 30km | 岬。虹の入江の西端 |
| カテナ・デイヴィ | Catena Davy | 50km | 連鎖クレーター(Catena)。中央部。小クレーターが鎖状に連なる |
| カテナ・ダーウィン | Catena Darwin | 280km | 連鎖クレーター。西部の長大な連鎖 |
豆知識① 「海」に水はない──命名の歴史
月面の「海」は1609年、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で月を観察した際、暗色の平坦な領域を「海があるのかもしれない」と考えて名付けたのが始まりです。1651年、イタリアの天文学者ジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリが著書『新天文大全(Almagestum Novum)』で命名体系を整備しました。
実際には月に液体の水は存在しませんが、この名称は現在もIAU(国際天文学連合)の正式名称として世界共通で使われています。「雨の海(Mare Imbrium)」「静かの海(Mare Tranquillitatis)」など、いずれもラテン語の詩的な名称が特徴です。
豆知識② アポロ計画と地形の名前
アポロ計画の着陸地点は月の地形名と深く結びついています。
- アポロ11号(1969年):静かの海(Mare Tranquillitatis)のトランキリティ基地に着陸
- アポロ12号(1969年):嵐の大洋(Oceanus Procellarum)内
- アポロ14号(1971年):フラ・マウロ高地(Fra Mauro Highlands)
- アポロ15号(1971年):アペニン山脈麓・モンス・ハドリー(Mons Hadley)の近く。リマ・ハドリーを調査
- アポロ17号(1972年):タウルス・リトロー谷(Taurus–Littrow)
着陸地点はいずれも「地形の把握が容易で着陸しやすい場所」として事前に地形名で識別されていました。
豆知識③ 望遠鏡で見える地形名
小型望遠鏡(口径60〜80mm程度)でも確認できる有名な月面地形があります。
- ティコ(Tycho):南半球の大型クレーター。満月の頃に長大な光条が放射状に広がり肉眼でも目立つ
- プラトン(Plato):北部の暗い底を持つ円形クレーター。望遠鏡でシルエットが見やすい
- 虹の入江(Sinus Iridum):月齢10〜11日前後に山脈が「宝石のサークル」として際立つ
- 直壁(Rupes Recta):月齢8〜9日頃に長い影を引き、細い線として観察できる。月齢20日頃には逆に白く輝く
まとめ
月の地形名は1651年に確立されたラテン語由来の体系が今も生きており、「静かの海」「ティコ」「直壁」など詩的かつ歴史的な名前が世界共通で使われています。望遠鏡や探査機の画像でこれらの地形名を知っていると、月の観察が一層楽しくなるはずです。月に関連するほかの記事もぜひ合わせてどうぞ。
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