
テストの平均点は聞いたことがあっても、「標準偏差」や「分散」と言われると急に手が止まる——そんな経験はありませんか。
この記事では、データを要約するときに欠かせない5つの基本指標(平均値・中央値・最頻値・分散・標準偏差)の意味と求め方を、計算機を使って体験しながら解説します。いずれも中学・高校の数学、大学の統計学、ビジネスのデータ分析で繰り返し登場する土台となる考え方です。各指標が何を表し、どんなときに使うのかを理解すれば、データを読む力がぐっと高まります。
記述統計とは(代表値とばらつきを区別する)
統計には大きく2つの役割があります。
- 記述統計(descriptive statistics):手元にあるデータをそのまま要約・整理する
- 推測統計(inferential statistics):サンプル(標本)から母集団全体の性質を推定する
この記事が扱うのは前者の記述統計、特に「データをいくつかの数値で代表させる」技術です。
データを代表させるには2種類の視点が必要です。
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| 視点 | 意味 | 代表する指標 |
|---|---|---|
| 中心(代表値) | データはどのあたりに集まっているか | 平均値・中央値・最頻値 |
| ばらつき(散布度) | データはどれくらい広がっているか | 分散・標準偏差 |
たとえば「テストの平均点が75点」という情報だけでは、全員が75点前後に集中していたのか、50点から100点まで散らばっていたのかが分かりません。中心+ばらつきの両方を組み合わせて初めて、データの全体像をつかめます。
平均値の求め方(算術平均)
計算式
$$\bar{x} = \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} = \frac{\sum_{i=1}^{n} x_i}{n}$$
すべてのデータを足して、データの個数で割るだけです。もっとも直感的でよく使われる代表値です。
計算例
10人のテストの点数が次のようだったとします。
データ:60, 65, 70, 75, 75, 75, 80, 85, 90, 100
$$\bar{x} = \frac{60+65+70+75+75+75+80+85+90+100}{10} = \frac{775}{10} = 77.5$$
平均点は 77.5点 です。
外れ値に弱いという弱点
平均値の弱点は、極端に大きい(小さい)値——「外れ値(outlier)」——の影響を強く受ける点です。
たとえば5人の年収が「200, 250, 300, 350, 2000(万円)」だとすると、
$$\bar{x} = \frac{200+250+300+350+2000}{5} = 620\text{万円}$$
4人は300万円前後なのに、平均は620万円になってしまいます。このような場合は次に説明する中央値の方が実態を表します。
中央値の求め方(メジアン)
計算式
データを小さい順に並べたとき、ちょうど中央にくる値です。
- データ数が奇数の場合:中央の1個の値
- データ数が偶数の場合:中央の2個の値を足して2で割る
$$\text{中央値} = \begin{cases} x_{\frac{n+1}{2}} & (n \text{ が奇数}) \ \dfrac{x_{\frac{n}{2}} + x_{\frac{n}{2}+1}}{2} & (n \text{ が偶数}) \end{cases}$$
計算例
先ほどの10個のデータ(偶数個):
60, 65, 70, 75, 75, 75, 80, 85, 90, 100
5番目と6番目の値はどちらも75なので、
$$\text{中央値} = \frac{75 + 75}{2} = 75$$
中央値は 75点 です。
外れ値に強い
年収の例(200, 250, 300, 350, 2000)では、
$$\text{中央値} = 300\text{万円}$$
中央値は300万円と、4人の実態に近い数値になります。外れ値があるデータには中央値の方が実態を反映します。年収・土地価格・不動産価格などは、中央値で語られることが多い理由がここにあります。
最頻値の求め方(モード)
計算式
データの中でもっとも頻繁に出てくる値です。式よりも「度数が最大の値を探す」という操作になります。
計算例
同じ10個のデータでは、75が3回登場して最多です。
$$\text{最頻値} = 75$$
複数の値が同じ最高頻度を持つ場合は、その全てが最頻値になります(複峰性データ)。
最頻値が活躍する場面
最頻値は数値よりもカテゴリデータや離散データでよく使います。
- 靴のサイズ:「25.0cmが最もよく売れる」→最頻値を仕入れに活用
- アンケートの選択肢:「5段階評価で4が一番多い」→最頻値で傾向を把握
- テスト:「75点が最多」→最頻値で得点分布の山を見る
平均・中央値・最頻値の三者が一致するのは、データが左右対称の正規分布に近いときです。3つが大きく離れているほど、データに偏りやばらつきがあります。
代表値の使い分け早見表
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| 状況 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| 外れ値が少ない均一なデータ | 平均値 | 全データを反映・計算が簡単 |
| 外れ値・偏りがある(年収・土地価格) | 中央値 | 外れ値の影響を受けない |
| カテゴリ・離散データ(靴サイズ・評価点) | 最頻値 | 「最も多い値」を直接示せる |
| 分布が左右対称(正規分布に近い) | 平均値 or 中央値(ほぼ同じ結果) | どちらでも代表性が高い |
分散の求め方
平均値だけでは「データが集まっているか・散らばっているか」が分かりません。そこで登場するのがばらつきを測る指標——分散です。
偏差とは
各データと平均値の差を偏差(deviation)と呼びます。
$$\text{偏差} = x_i - \bar{x}$$
すべての偏差を足すと必ず0になってしまう(プラスとマイナスが打ち消し合う)ため、偏差の2乗を使います。
計算式
母分散(population variance):データ全体が母集団の場合
$$\sigma^2 = \frac{\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2}{n}$$
標本分散(sample variance):データが大きな母集団からのサンプルの場合
$$s^2 = \frac{\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2}{n-1}$$
標本分散でn−1で割るのは自由度の補正(ベッセルの補正)のためです。サンプルからの推定値は母分散をわずかに過小評価する性質があり、n−1で割ることで不偏性(偏りのなさ)を持たせます。
計算例(ステップ)
10個のデータ(平均 = 77.5)で計算します。
① 偏差(各データ − 77.5)を求める
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| 点数 | 偏差 |
|---|---|
| 60 | −17.5 |
| 65 | −12.5 |
| 70 | −7.5 |
| 75 | −2.5 |
| 75 | −2.5 |
| 75 | −2.5 |
| 80 | 2.5 |
| 85 | 7.5 |
| 90 | 12.5 |
| 100 | 22.5 |
② 偏差を2乗する
306.25 + 156.25 + 56.25 + 6.25 + 6.25 + 6.25 + 6.25 + 56.25 + 156.25 + 506.25 = 1262.5
③ 母分散 = 1262.5 ÷ 10 = 126.25
③' 標本分散 = 1262.5 ÷ 9 ≈ 140.28
分散の単位は元のデータの単位の2乗(点数ならば「点²」)になります。直感的に解釈しにくいため、もとの単位に戻した指標が標準偏差です。
標準偏差の求め方
計算式
分散の正の平方根が標準偏差(standard deviation)です。
母標準偏差:
$$\sigma = \sqrt{\sigma^2} = \sqrt{\frac{\sum(x_i - \bar{x})^2}{n}}$$
標本標準偏差:
$$s = \sqrt{s^2} = \sqrt{\frac{\sum(x_i - \bar{x})^2}{n-1}}$$
5ステップで求める
- 平均値を計算する(Σx ÷ n)
- 各データの偏差(データ − 平均)を求める
- 偏差を2乗する
- 偏差の2乗の合計をn(またはn−1)で割る(=分散)
- 分散の正の平方根をとる(=標準偏差)
計算例
先ほどの分散(母分散=126.25、標本分散≈140.28)から、
$$\sigma = \sqrt{126.25} \approx 11.24\text{点}$$
$$s = \sqrt{140.28} \approx 11.84\text{点}$$
「この10人のテストのデータは、平均77.5点から平均して約11〜12点ほどばらついている」と解釈できます。
母標準偏差 vs 標本標準偏差(使い分け)
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| 種類 | 分母 | 使う場面 | Excelの関数 |
|---|---|---|---|
| 母標準偏差 | n | データ全体が対象(クラス全員の成績など) | STDEV.P |
| 標本標準偏差 | n−1 | サンプルから全体を推定(アンケート調査など) | STDEV.S |
テストのクラス全員のデータがある場合は母標準偏差(σ)、全国調査のサンプルから全体を推定したいなら標本標準偏差(s)を使います。迷ったときは、「手元のデータ=全員分か、一部か」で判断しましょう。
標準偏差の読み方・使い方
標準偏差は単なる計算結果ではなく、データの性質を読み解く強力なツールです。
正規分布と「68-95-99.7ルール」
データが正規分布(左右対称の釣り鐘型)に従う場合、以下の法則が成り立ちます。
- 平均 ± 1σ 以内:全データの約68%
- 平均 ± 2σ 以内:全データの約95%
- 平均 ± 3σ 以内:全データの約99.7%
たとえば平均77.5・標準偏差11.24のテストなら、
- 77.5 ± 11.24 = 66.3〜88.7点の範囲に約68%の生徒が入る
- 77.5 ± 22.48 = 55.0〜100.0点の範囲に約95%の生徒が入る
これを使うと「何点取れば上位何%か」という問いに答えられます。
偏差値との関係
偏差値は標準偏差を使って定義されています。
$$\text{偏差値} = 50 + 10 \times \frac{x - \bar{x}}{\sigma}$$
平均点が偏差値50、1標準偏差上が偏差値60、2標準偏差上が偏差値70に対応します。偏差値は「標準偏差何個分だけ平均から離れているか」を、50を基準にスケールした数値です。
偏差値について詳しくは 偏差値の計算方法|公式・上位%対応表・計算機 も参考にしてください。
変動係数(CV)——単位の違うデータを比べる
異なる単位のデータのばらつきを比較するときは、変動係数(Coefficient of Variation)が便利です。
$$CV = \frac{\sigma}{\bar{x}} \times 100\%$$
たとえば「身長のばらつき(cm単位)」と「体重のばらつき(kg単位)」を標準偏差だけで比べても単位が違うので意味がありません。変動係数は標準偏差を平均で割るため単位が消え、異なるスケールのデータのばらつきを比較できます。
ExcelとPythonでの求め方
Excel関数一覧
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| 指標 | 母(全数) | 標本(n−1) |
|---|---|---|
| 平均値 | AVERAGE(範囲) | — |
| 中央値 | MEDIAN(範囲) | — |
| 最頻値 | MODE.SNGL(範囲) | — |
| 分散 | VAR.P(範囲) | VAR.S(範囲) |
| 標準偏差 | STDEV.P(範囲) | STDEV.S(範囲) |
注意:古いExcelでは VAR, STDEV(標本), VARP, STDEVP(母)が使われていましたが、Excel 2010以降は VAR.S, STDEV.S, VAR.P, STDEV.P を推奨します。
Pythonのコード例
import statistics
data = [60, 65, 70, 75, 75, 75, 80, 85, 90, 100]
print(f"平均値: {statistics.mean(data)}")
print(f"中央値: {statistics.median(data)}")
print(f"最頻値: {statistics.mode(data)}")
print(f"母分散: {statistics.pvariance(data):.2f}")
print(f"標本分散: {statistics.variance(data):.2f}")
print(f"母標準偏差: {statistics.pstdev(data):.2f}")
print(f"標本標準偏差:{statistics.stdev(data):.2f}")
実行結果:
平均値: 77.5
中央値: 75.0
最頻値: 75
母分散: 126.25
標本分散: 140.28
母標準偏差: 11.24
標本標準偏差:11.84
NumPyを使う場合は np.mean(data), np.std(data), np.var(data)(すべて母の扱い)、np.std(data, ddof=1) で標本標準偏差を求められます。
5指標を一括計算してみよう
以下の計算機に数値データを入力すると、5つの指標(平均・中央値・最頻値・分散・標準偏差)をまとめて計算します。
入力例:テストの点数・身長・気温など、任意の数値データをスペース・カンマ・改行のいずれかで区切って入力してください。
使い方のヒント:Excelのセル範囲をコピーしてそのまま貼り付けると、改行区切りのデータをそのまま使えます。
5指標の使い分けまとめ
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| 指標 | 意味 | 使う場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 平均値 | データの重心(全体の合計÷個数) | 外れ値が少ない均一なデータ | 外れ値の影響が大きい |
| 中央値 | 並べたときの真ん中の値 | 外れ値がある・分布が歪んでいる | データ数が偶数のとき補間が必要 |
| 最頻値 | 最も頻繁に出る値 | カテゴリ・離散データ | 連続データでは意味をなさないことがある |
| 分散 | ばらつきを偏差の2乗で表した値 | ばらつきの大小を計算で比べたい | 単位が元の2乗になる |
| 標準偏差 | 分散の平方根(元の単位と同じ) | ばらつきの直感的な把握・偏差値の計算 | 母か標本かで計算式が異なる |
よくある間違いと対処
「平均と中央値、どちらが正しいの?」
どちらが正確・不正確という話ではありません。外れ値があるデータには中央値、外れ値が少ない均一なデータには平均値が実態をよく反映します。両方を見比べて、なぜ差があるのかを考えることが大切です。
「標本標準偏差を使えばいいの?」
一般に「学術論文や推測統計では標本(n−1)」、「手元のデータ全体を記述したい場合は母(n)」が原則です。Excelの STDEV 系関数は標本(n−1)がデフォルトのため、全数データに使うと過大推定になります。
「分散と標準偏差の違いは何?」
分散は偏差を2乗しているため単位が「元のデータの単位²」(点²など)になり、直感的に分かりにくくなります。その平方根をとって元の単位に戻したものが標準偏差です。比較・可視化には標準偏差が使われることが多い一方、分散は数式の計算(分散の加法性・分析の行列計算など)で扱いやすい性質があります。
まとめ
平均・中央値・最頻値・分散・標準偏差の5指標について、意味・求め方・使い分けを解説しました。
- 代表値3つ(平均・中央値・最頻値)はデータの中心を表す。外れ値の有無やデータの種類で使い分ける。
- ばらつき2つ(分散・標準偏差)はデータの広がりを表す。標準偏差は元の単位で解釈でき、偏差値との計算にも使われる。
- 母(全数)か標本(部分集合)かで分母(nかn−1か)が変わる点は必ず確認する。
- Excelなら AVERAGE / MEDIAN / MODE.SNGL / VAR.P / STDEV.P(または S 版)で一発で求められる。
統計の基本を押さえることは、データ分析・AI・機械学習を理解するための最初の一歩でもあります。上の計算機にいろいろな数値を入れて、5つの指標が変化する様子を体感してみてください。